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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第九章 再生の章

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狩る者、狩られる者(ロスルー 獣の森)

誤字報告ありがとうございました。

「ダルフェニアでは統一記念祭か。調子に乗りやがって……」


 カザラス軍第一征伐軍の駐屯地となっているロスルーの執務室でイェルナーが苛立たしげにつぶやく。その前には報告をした副官のヤナスが居心地が悪そうに立っていた。


「何か手っ取り早く武勲を立てられる方法はねぇのか!」


 イェルナーが怒鳴る。ヤナスは内心ではため息をつきつつ、表向きは精一杯申し訳なさそうな顔をした。


「そう申されましても……攻城兵器が揃わぬ以上、ガルツ要塞は落とせませぬ。いましばらくご辛抱を……」


「別にガルツ要塞を落とせなくてもいいんだ。相手も誰でも構わねぇ。とにかく兄貴たちとは違うってとこを見せつけてぇんだよ!」


「誰でもと申されましても……」


 イェルナーをなだめようとするヤナスだったが、その言葉が途中で止まった。


「……お待ちください。そういえば、都合の良い相手がおりました」


「おお、誰だ?」


 イェルナーがヤナスの話に飛びつく。


「獣の森の獣人たちでございます。真偽は不明ですが、奴らはダルフェニア軍に加担していると見なされています。奴らを倒せばダルフェニア軍を倒したと喧伝できるでしょう」


「なるほどな……よし、出陣の準備だ」


 ヤナスの話を聞きイェルナーは嬉々として指示を出した。


「し、しかし食糧は高騰しており、集めるにも時間がかかりますが……」


「じゃあ急げ。編成は任せた」


 慌てるヤナスにイェルナーは平然と言った。


「編成ですか……前回の襲撃の様子から獣人の数はおそらく千程度と思われます。余裕を見て戦力は五千……いえ、広い森を探し回ることを考えて一万を動員しましょう。またダルフェニア軍が来ることを考え、ガルツ要塞側に五千。そして予備戦力として五千をどちらの援軍にも出せるように後方に待機させましょう」


 ヤナスは思案を巡らせながら頭の中で軍を配置していった。


「わかった、それでいい。お前はダルフェニア側に布陣する部隊の指揮をとれ」


「は? で、ではイェルナー様のおそばにはだれを……」


 イェルナーの言葉にヤナスは怪訝な表情になった。


「いらねぇ。武勲は俺が独り占めしたいからな。他の将も待機だ」


「なっ!?」


 その発言に、ヤナスは絶句するしかなかった。






 カザラス軍の動きは諜報網により、すぐさまアデルたちの元へともたらされた。


「カザラス軍が戦いの準備を?」


 アデルは険しい顔で尋ねる。


「うん。だけど敵には攻城兵器がない。だとすると考えられる目標は獣の森の獣人たち、もしくは砂漠の蛮族たちだね。まあ蛮族は第二平定軍の担当だから、獣人狙いの可能性が高いかな」


 ラーゲンハルトがアデルの問いに答えた。


「獣人さんたち……い、急いで援軍を送りましょう。念のため、ガルツ要塞も防衛準備を!」


 そしてアデルたちは慌ただしくミドルンを出立するのだった。





 イェルナー率いるカザラス軍は獣の森を散開しつつ進んでいく。


「捜索範囲を広げろ! 獣どもを追い詰めろ!」


 イェルナーが怒鳴り声をあげた。カザラス軍は前衛部隊が広く展開しつつ、その後ろに予備部隊、さらにその背後にイェルナーのいる本体が配置されている。上から見るとTの字のような布陣となっていた。


 カザラス軍は獣人を探しながら獣の森の奥深くまで分け入っていく。


 その時、イェルナーの元へ伝令が慌てた様子で走りこんできた。肩には傷を負っており、鎧が血に濡れている。


「報告します! 先行部隊が魔物に襲われました! 多くの死傷者が出ております!」


「おぉ、獣人か!?」


 被害など気にする様子もなく、イェルナーが興奮した様子で尋ねた。


「い、いえ。様々な種類の魔物が突然……うわっ!」


 イェルナーの前に膝まづいていた伝令に黒い影が襲い掛かった。猿のように身軽な動きをする熊の魔物、ハンターベアだ。


 木から飛び降りたハンターベアは目の前にいた伝令を跳ね飛ばすと、そのまま猛然と直進を続ける。


「化け物め!」


 イェルナーの周囲を守る兵たちが槍を突き出した。


 ハンターベアは数本の槍に貫かれ絶命する。


「絶望の森でも魔物共が襲ってきたことあったらしいが……これもダルフェニア軍の仕業か?」


 絶命したハンターベアを見下ろしながらイェルナーが顔をしかめた。


「だが奴らの悪あがきもこの程度ってことだ。怯むな、進め!」


 イェルナーの号令でカザラス軍はさらに森の奥へと進んだ。


 森は静けさを取り戻しており、しばらく進んだが獣人の気配はない。カザラス軍は獣人のテリトリーへと深く侵入していたが、このまま獣人に出会うことなく探索が終わるのではないかと期待する兵士も出始めた。


 しかしその静寂は突如終わりを迎えた。


 森の中を伝令が走る。その数は一人ではない。複数の前衛部隊から、イェルナーのいる本体に向かって伝令が遣わされていた。


「左翼第二部隊より報告! 獣人の姿を発見! 敵は戦わず逃走!」


「右翼第一部隊も敵と接触! 奇襲を受け、若干の被害が出ました! 我が軍が反撃をしようとすると敵はすぐに撤退しました!」


 獣の森を進軍するイェルナーのもとに次々と報告が入ってくる。


「逃がすな! 追い詰めて袋叩きだ!」


 戦いの奮起に興奮したイェルナーが叫んだ。


「イェルナー様、中央前衛部隊が獣人の集落を発見! しかしもぬけの殻だそうです!」


 さらに新しい報告が舞い込む。その報告にイェルナーは顔をしかめた。


「逃げ足の速い奴らだ。集落には火を放て!」


 その後もいくつかの獣人の集落が見つかるが、同様に獣人の姿はなかった。また獣人の姿を発見したり、奇襲を受けることもあったが、本格的な戦いには発展せず獣人たちは森を逃げ回っていた。身体能力に勝る上に軽装な獣人にカザラス兵は追いつけずにいた。


「追いかけっこでもしているつもりか?」


 戦果の報告がないことにイェルナーは苛立ち始める。


「おい、軍の布陣はどうなってる?」


 イェルナーは手近にいた兵士に問いかける。しかし兵士は困惑した表情になった。


「どうと言われましても……私には……」


 現在、軍の布陣を把握している者はカザラス軍内にはいなかった。


 本来であれば各部隊の位置を把握している将がいるはずだが、功績を独り占めしたいというイェルナー自身の指示によりこの場にはいない。またイェルナーが追いかけろという指示を出した以上、兵士たちはそれに従うしかなく、陣形は崩壊していた。


 そして無秩序に散らばったカザラス軍を冷静に狙う、恐ろしい存在が森の各所に潜んでいた……

お読みいただきありがとうございました。

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