和解(コカトリスの集落)
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「す、すいませんでしじゃ!」
コカトリスのリーダー、シャモンがアデルに土下座をする。その羽毛はところどころアデルから受けた雷撃によって焦げていた。
アデルとシャモンの一騎打ちはアデルの勝利に終わり、アデルの背後にはイルアーナにエレイーズ、ピーコと氷竜王が並んでいる。
「わしはどうなっても構いませんじゃ。どうか他の者にはお慈悲を……」
「い、いや、ちゃんと人間と仲良くしていただけるなら、こちらも何もしませんよ。もし食糧が必要なら、言ってくだされば手配します。ただこちらにもいろいろ協力してもらえると助かるんですが……」
アデルは苦笑いを浮かべながら、頭を下げるシャモンの前にしゃがんだ。
「コ、コケ……なんという器の大きさじゃ。このシャモン、アデル様の偉大さに鳥肌が治まりませんじゃ……」
シャモンは頭を上げ、潤んだ瞳でアデルを見つめる。
「アデル様、なりません!」
だがそこにエレイーズが割って入った。
「奴らの凶暴性はご覧になったでしょう? アデル様が去れば、また村を襲うに決まっています!」
エレイーズが眉間にしわを寄せてアデルに詰め寄る。
「えぇっ!? そ、そうですかね……」
アデルは苦笑いしながら首を傾げた。
「我もその小娘に賛成じゃな」
腕組をしたピーコが真剣な顔で言う。
「こんな美味しそうな匂いが漂っているのじゃ。許すわけにはいかぬ」
ピーコは鼻を引くつかせていた。焦げたコカトリスの匂いで食欲が刺激されているようだ。
「……ピーコには後で美味しいもの食べさせてあげるからね」
アデルはピーコの意見は考慮しないことに決めた。
「コケ! せ、せめて子供たちだけでもお助けください!」
シャモンがアデルの足にすがりつく。
「お、落ち着いてください! 大丈夫ですから!」
アデルはそんなシャモンをなだめた。
その時……
「ピヨピヨッ!」
カワイイ鳴き声とともに、コカトリスの集落から黄色い塊がアデルたちの方にトコトコと走ってきた。
(……ヒヨコ?)
その黄色い塊はコカトリスの子供だった。見た目はヒヨコそっくりで、大きさは平均で50cmほどだ。合計で二十羽ほどのコカトリスの子供が群れを成して近づいてきていた。
「こら、お前たち! 隠れていろと言ったのじゃ!」
慌てて止めようとするシャモンに子供たちが群がる。
「……死なないで、って言ってるの」
氷竜王が悲しそうな顔で言った。先日殺されてしまったというシマエナーガたちの姿をコカトリスに重ねているのかもしれない。
「はぁっ……!」
イルアーナは声にならぬ吐息を漏らして、コカトリスの子供を抱き上げた。
「かわいそうに……あのヒステリー小娘のせいで怯えているのだな」
イルアーナは黄色いモフモフに顔をうずめながらエレイーズを睨んだ。
「なっ!? ……ち、違います! わ、私はただ……アデル様にしっかり監督をしていただきたいと願っただけで……」
エレイーズもしゃがみ込み、足元に寄ってきたコカトリスの子供を抱きしめた。
「じゃあ、エレイーズさんも共存に賛成で良いんですね?」
自らもコカトリスの子供を抱きながら、アデルがエレイーズに確認する。
「……はい」
少し悔しさを滲ませつつ、かわいいコカトリスの子供にうっとりとしながらエレイーズは頷いた。
「やれやれ、仕方ないのう」
「ピヨピヨなの!」
ピーコと氷竜王もコカトリスの子供を抱きしめながら微笑んでいた。
しかし……
「ふ、ふざけるな……」
ヴィーケン遊撃隊の一人が小さく呟く。彼はコルチリ村の出身で、人一倍コカトリスへの憎悪が深かった。
「そんな魔物と共存できるかよ!」
彼は怒りを爆発させると、持っていた槍を大きく振りかぶった。
「よせ!」
エレイーズがそれに気づき叫ぶ。だが兵士の動きは止まることなく、手から槍が放たれた。その槍はシャモンの近くにいた一匹のコカトリスの子供に向かって飛んで行った。
「あっ!」
アデルはそれに反応しようとしたが、コカトリスの子供を抱いていたせいで反応が遅れてしまう。
(間に合わない……!)
アデルは思わず目をつぶる。だが一陣の風が駆け抜けると、何かが地面に落ちる軽い音がした。
「ん?」
アデルが恐る恐る目を開けると、兵士が放った槍は真っ二つになって地面に落ちていた。
「こ、これは……いったい誰が……!?」
アデルは茫然と呟いた。
「我じゃ」
「ひょーちゃんなの!」
アデルの呟きにピーコと氷竜王が同時に答えた。
「我が風で槍を切断したんじゃ!」
「ひょーちゃんが槍を落としたの!」
ピーコと氷竜王が主張し合う。なぜか互いが抱いているコカトリスの子供も加勢するようにピヨピヨと鳴き声を上げていた。
「槍を落とした?」
アデルは首をかしげる。
(風で槍を切断っていうのは鎌鼬みたいなのなんだろうけど……氷をぶつけて槍を落としたんだろうか……)
アデルは落ちた槍の周囲を見てみるが、特に氷の破片のようなものはない。
「ぴゅーってするの!」
氷竜王がシュノーケルから息を吸い込むようなジェスチャーをする。
「こやつは力を吸い取る能力を持っているのじゃ」
「力を吸い取る……?」
ピーコの話を聞き、アデルは考え込む。
(力……運動エネルギーを吸い取ったってこと? そういや飛び掛かってきたキングサーモンが急に川に落ちてたけど、あれもそうなのか……)
アデルはどうにか氷竜王の力を理解することができた。
「なるほど……じゃあ凍らせるのも熱エネルギーを吸い取ってるってことなんだ」
「アデルちゃん、かしこいなの!」
氷竜王がニッコリと笑う。どうやらアデルの考えは当たっていたようだ。
「それで、アレはどうする?」
イルアーナが顎で示した先には、先ほど槍を投げたヴィーケン遊撃隊がいた。数人のゴブリンによって地面に押さえつけられている。
「ジョニー! なぜこんなことを!?」
エレイーズが押さえつけられた兵士に駆け寄った。
「こいつらのせいで、どれだけ俺の村が苦しめられたか……ただの軍人ごっこをしているあんたにはわからないんだ!」
ジョニーと呼ばれた兵士が必死の形相で叫ぶ。
「なっ!?」
その言葉にエレイーズはショックを受けたようだった。
「ダメな子! ぴしぴし!」
「うわっ、冷た!」
氷竜王が水鉄砲を放つと、ジョニーは悲鳴を上げた。
「やめろ。放してやれ」
イルアーナが言うと、ジョニーを押さえていたゴブリンたちが後ろに下がる。
掛けられた冷水を拭いながら立ち上がるジョニーをイルアーナが冷ややかに見つめた。
「お前の言い分は分かった。ならば好きに戦うがいい」
「は?」
イルアーナに言われ、ジョニーはキョトンとする。
「あのコカトリスたちが許せないのだろう? ならば戦えばよい。もちろん我々はコカトリスの側に味方するがな」
「そ、そんな……」
イルアーナに言われ、ジョニーはたじろいだ。シャモンがすごい形相でジョニーを睨んでいる。
「待ってください!」
アデルがそんなジョニーの前に進み出る。
そしてジョニーの顔を真剣な表情で見据えた。
「ジョニーさんのお気持ちもわかります。でもしばらくは僕らに任せてはいただけないでしょうか? 絶対にコカトリスさんたちが村を襲わないようにするとお約束します。それに村への食糧援助も行います。ジョニーさんの憎しみはいつまでも消えないかもしれません。ですが、それを納得して堪えていただけるような良い国を作ります! もし僕らが約束をたがえるようであれば、その時にどうするかお考えになればいいじゃないですか!」
「くっ……しかし……」
アデルの説得に、ジョニーは奥歯をかみしめる。
「それに魔物は凶暴な魔物ばかりではありません。かわいい魔物もいますし、美女系の魔物もいます。プリンプリンでパインパインなんですよ!」
「なん……だと?」
アデルが熱く語ると、ジョニーの表情が変わった。
「プリンプリンで……パインパイン……?」
「ええ。人によってはもう、ダッダーンッって感じです」!
「ダッダーンッって……そんなすごいのか?」
「もちろんです! しかもハーピーさんたちの娼館も作られる予定です。そうなったらもうパピョンパピョンですよ!」
「そうか……」
ジョニーは目を閉じ、しばらくアデルの言葉をかみしめていた。
そしてその瞳が開いたとき、ジョニーの表情は穏やかなものへと変わっていた。
「……わかったよ、俺の負けだ。しばらくはあんたに……いや、アデル様を信じてお仕えいたします」
ジョニーがアデルに頭を下げる。
「分かってもらえてよかったです。一緒に頑張りましょう!」
アデルはジョニーの手を握った。
そんな二人の様子を、イルアーナとエレイーズが冷ややかな目で見つめていた。
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