秘伝(コカトリスの集落)
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アデルは顔を引きつらせてコカトリスたちと対峙していた。
「ど、どうも……この辺りを治めさせていただいているアデルと申します」
アデルがそう言うと、リーダー格らしい大きなコカトリスがアデルをギロリと睨んだ。
「ゴブリンやダークエルフまでおるんじゃい。いったい何の用じゃ?」
コカトリスはアデルの後ろにいる討伐部隊を見回す。アデルの言っていることは通訳なしでもコカトリスに通じているようだった。
「い、いや、ちょっとお話をさせていただけないかなと……」
「コケ。人間が下手に出てくるとは珍しいじゃ。その殊勝な態度に免じて一度くらいは話くらいは聞いてやるじゃ」
「あ、ありがとうございます」
とりあえず話し合いができそうなのでアデルはほっとした。
「あの……人間の村を襲うのをやめていただきたいんですが……」
「コケ? 襲われとるんはこっちじゃ! わしらの食事中に弓など撃ってきおって」
「え?」
コカトリスの話にアデルはキョトンとする。
「で、でも、人間の畑の作物を荒らしたりしてるんですよね?」
「なんじゃ? 地面に生えてるもの食って何が悪いんじゃ」
コカトリスは腕を組むように羽を交差させてアデルを見下していた。
「いや、でも、それは村の人々が育てたもので……」
「知るじゃ! この世は弱草強食。お前ら人間はわしらの残り物でも食えばいいんじゃ。文句言うならボンジリから手羽先突っ込んで、くちばしカクカク言わせたろじゃい!」
「ひぃっ!」
すごい剣幕で怒鳴るコカトリスに、アデルは小さく悲鳴を上げて後ずさった。
「ふっ、交渉決裂か?」
そんなアデルの前に、嬉しそうにピーコが進み出る。
「コケ? このクソガキは?」
「誰がクソガキじゃ! 我は風竜王じゃぞ!」
倍以上の身長差のあるコカトリスだが、ピーコは全く恐れる様子もなく食って掛かった。
「ふ、風竜王?」
コカトリスはその名を聞いてたじろぎ、冷や汗を浮かべた。
「カ、カシラ! 風竜王って言ったらあの伝説の……!?」
「じゃ、じゃけど本当に実在するわけありませんじゃ!」
リーダー格の後ろにいた二羽のコカトリスが慌てだす。
「お、落ち着くんじゃ! 本物かどうかなどわからんじゃ! じゃがもしそうだった場合は大変なことじゃ……」
コカトリスたちは不敵な笑みを浮かべるピーコの前でオロオロしていた。
(信じないかと思ったけど、めっちゃ怖がってる……ニワトリだけにチキンなんだろうか……?)
アデルはそんなコカトリスたちの様子を見ながら思った。
「そ、そうじゃ! そこの人間のカシラ! わしとタイマンじゃ!」
リーダー格のコカトリスがアデルを指す。
「えっ? 僕?」
「そうじゃ! オスらしく、正々堂々と勝負じゃ! 負けた方は全員、相手の言うことに従うんじゃ!」
「えぇっ!? ちょ、ちょっと急にそんな……」
アデルは慌てふためく。
「そうか。頼んだぞ」
しかしピーコはアデルの背中をポンポンと叩くと、後ろに下がった。
「うぅ……」
アデルは顔色を悪くしながら、仕方なく自分の倍近い大きさのコカトリスと対峙した。
「アデル王にお任せして大丈夫なんでしょうか?」
エレイーズが眉をひそめてイルアーナに尋ねる。
「ふっ、何の問題もない。黙って見ていろ」
氷竜王を抱いたイルアーナが自信満々に答えた。ちなみにイルアーナやエレイーズはコカトリスの言葉がわからず、氷竜王が通訳をしていた。イルアーナはムラビットが使う関西弁のような言葉はだいぶ理解できるようになっていたが、コカトリスはまたイントネーションや言い回しが独特で違う言語に聞こえるようだ。
「アデル王! やっちゃってゴブさい!」
サベットをはじめとしたゴブリンたちから声援が飛ぶ。
「やったれカシラ! ケツ羽一本残さずむしり取るんじゃ!」
コカトリスたちからも声援が飛び、周囲は一気に喧噪に満たされた。
「決まりじゃ。覚悟するんじゃ」
余裕の笑みを浮かべてリーダー格のコカトリスがアデルを見る。後ろについていたコカトリスは距離を取って応援に回った。
名前:シャモン
所属:コカトリス
指揮 45
武力 96
智謀 38
内政 44
魔力 61
(け、結構強いぞ……!)
アデルはコカトリスのリーダー、シャモンの能力値を見て思った。
「あほじゃの、弱い人間がわしと戦うとは。どうせあのガキが風竜王と言うのも嘘じゃろ」
シャモンは勝利を確信した様子でくちばしを歪めた。
「じゃが、わしは慎重派。まずはこれじゃ」
バサバサとシャモンの羽が忙しなく動いた。その動きに合わせ魔力が高まっていく。
「硬化鳥巣!」
「うわっ!」
シャモンの魔法によって、アデルの足元の地面から数本の石の触手が出現した。その触手はアデルを囲んで絡み合う。あっという間にアデルは石でできた鳥籠に閉じ込められてしまった。
「コケコケコケッ! これでもう身動きは取れんのじゃ!」
シャモンが勝利を確信し、笑い声をあげる。
しかし……
「よっ」
アデルはミスリルの剣を抜き放つと、鳥籠を切断した。石でできた鳥籠が地面に滑り落ち、重い音を立てる。
「なっ!? 奴らの魔法の石をいとも簡単に……!」
エレイーズが驚きの声を上げる。ヴィーケン遊撃隊の攻撃ではコカトリスが作り出した石を壊すことは困難だった。
「あぁ、ビックリした……」
アデルは鳥籠の残骸を跨ぎながら呟いた。
「お、おう……なかなかやるじゃ」
シャモンは戸惑いながらもまだ余裕の態度を崩さなかった。
「屠履刺身!」
シャモンの呪文とともに地面から石が伸び、石の槍を形成する。シャモンはその槍を翼の先で掴んだ。
(……あの小さな体でわしに勝てるわけがないんじゃ!)
シャモンは石の槍を構える。
だがその目の前にはすでにアデルが迫っていた。
「えいっ」
「コケーッ!?」
一気に距離を詰めたアデルが蹴りを放つ。シャモンはその衝撃で数メートル吹き飛ばされた。
(柔らかい……!)
アデルはほとんど手応えを感じていなかった。シャモンの体はふわふわの羽毛で覆われており、打撃ではほとんどのダメージが吸収されてしまうのだ。
「な、なんじゃ! わしをコケにしよって……!」
シャモンは体勢を立て直し、怒りの形相で羽ばたいた。その体が宙に舞い上がる。鉤爪には地面の土が握られていた。
「高空落石球!」
シャモンの魔法で、鉤爪に握られていた土が丸い石へと成形される。シャモンはその石をアデルに向けて放った。
「わわっ!?」
アデルは横っ飛びでその石を躱す。今までアデルがいた場所の地面にシャモンの放った石がめり込んだ。
「コケコケッ! 空中にいれば手出しができないじゃ!」
シャモンがそんなアデルを見て嘲笑う。
しかしそんなシャモンが見ている先で、アデルの剣にバチバチと音を立てる青白い光がまとわり始めた。
「コケ? それはワイバーンの……」
シャモンの顔色が一気に青ざめる。
シャモンに向かってアデルは電撃をまとわせた剣を振った。
「秘伝雷撃刃!」
アデルの剣から放たれた雷撃がシャモンを襲う。
「コケーッ!?」
雷撃に貫かれ、シャモンの体が激しく痙攣した。そしてそれが治まるとシャモンの体は力なく地面に落ち、周囲には香ばしい匂いが漂ったのだった。
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