男たちの話
「待って、カラ」
「なんでだよ、族長」
シャスティアがカラを制す。
(清楚系の方が族長なのか!?)
てっきりカラの方が偉いのかと思っていたアデルは驚いた。
「アデルさんでよろしいかしら? どうしてそんなに話し合いにこだわるのですか?」
「どうしてって……何事も暴力で解決するのは良くないですし、それに人間とハーピーの皆さんは仲よくした方が良いと思うんです。皆さん、お美しいですから……」
「あら、お上手ですね」
シャスティアはアデルの言葉に微笑む。
「それで、具体的にどうして差し上げればいいのかしら?」
「ええと、人間の男をさらうのをやめていただきたいんですが……」
「そう言われましても、私たちはご覧の通り女だけの種族です。交尾だけでなく働き手としても、人間の殿方がいなければ種族として存続できないのです」
シャスティアは申し訳なさそうに伏し目がちになった。
「う~ん……男性たちと話をさせてもらうことはできますか?」
「ええ、かまいませんが……」
アデルの頼みを了承し、シャスティアが様子を伺っていた男たちに声をかける。ハーピーの人垣の間から三人の男がビクビクしながら前に出て来た。カラとシャスティアは数歩下がり、様子を伺っている。
「みなさん、ご無事ですか?」
「き、君たちは何なんだ?」
男の一人が怯えながら言う。三人の男は初老、中年、青年と年齢層はバラバラだが、一様に痩せ細っていた。
「僕たちはズールの村からハーピー退治の依頼を受けた者です」
「ハーピー退治だって!? だ、だめだ! 絶対だめだ!」
初老の男が怒りだす。
「お、落ち着いてください! 僕も出来れば退治はしたくないので、あなた方にここでの生活のことを聞きたいんです。ひどい目に遭ったりはしてないんですね?」
「もちろんだ。税金も兵役もないし、ハーピーたちも優しくしてくれる」
男たちは熱弁をふるう。
「食事もちゃんともらえてるんですか? だいぶ痩せていらっしゃいますけど」
アデルは男たちの体を見て言った。
「ああ。近くに池があって農業もしてるしね。ハーピーたちも手伝ってくれるよ。ただね……」
「ただ?」
「……夜が激しいんだよ」
「そんなに……?」
「ああ、そんなにさ……」
男たちは疲れたようなあきらめたような、それでいて誇らしげな表情をした。会話の内容さえ違ければ缶コーヒーのCMで使えそうな「男」の顔だった。
「でもみなさん、家族はいらっしゃらないんですか?」
「私はいないよ。家族も金もなくて、借金から逃げて貧者高原に来たんだ。最初ハーピーにさらわれたときは怖かったけど、いまじゃここが私の居場所さ」
中年の男が語る。初老の男も賛同するように頷いた。
「俺はこんな所に一生いるのは嫌だと思って逃げたんだけど、俺がいなくなってハーピーたちが寂しがってると思ったら、結局戻ってきちまった」
青年が言う。彼がズールの村で言っていた男なのだろう。
「確認だが、ハーピーに脅されてそう言うように指示されているわけではないな?」
横で聞いていたイルアーナが確認する。
「当たり前だ!」
その言葉に男たちは憤慨した。
「わ、わかりました、お話ありがとうございました!」
アデルは男たちをなだめ、話を切り上げた。
「いかがでした?」
男たちとの話が終わったのを見計らって、再びシャスティアとカラが近づいてきた。
「みなさん、ここでの生活に満足しているようで、安心しました」
「当たり前だよ。男はみんなここでの生活に満足するさ」
アデルの言葉にカラが胸を張ってこたえる。大きな胸がぷるんと揺れた。
「あなた方に人間の男性が交尾相手や働き手として必要なのはわかりました。だとすればなおさら平和的に人間と共存する方法を探すべきではないでしょうか?」
「どうやって? アンタら人間はアタイたちを化け物と呼んで殺そうとするだろ? さらってきてしばらくすればもうアタイたちの虜になるけどさ」
「それはちょっと考えがあるんですけど……実は僕、諸事情で国を造らなきゃいけないんです」
「……諸事情?」
「ええ。人間とダークエルフが共存できる国を造るんですけど、そこならハーピーの皆さんも受け入れられると思います」
ちなみにイルアーナは顔を隠すために包帯を巻いたままだ。さらわれた人間の男たちもいるのでその方がいいだろうとアデルたちは判断した。
「ダークエルフと?」
「はい。そこで娼館で働いてはいかがでしょうか?」
アデルは思い切った提案をしてみた。
「娼館とはいったいなんですか?」
シャスティアはあまり人間の町のことを知らないようで首をかしげている。
「男性と女性がその……お金を払って交尾する所ですね」
「お金と言うと人間の方々が取引に使うものですよね? 私たちはお金なんて持っておりませんわ」
「いえ、だいたいは男の方が払うので、皆さんは払わなくて大丈夫ですよ。そのお金で必要なものを買ったりできますし」
「そんな便利な所があるんですね。でもどうして殿方はわざわざお金を払うんですの?」
「ええと……なんででしょうね。男は女性を幸せにしたいから……?」
「なるほど。確かに殿方は色々頑張ってくださいますわ」
「色々」の部分が意味深だが、シャスティアは納得したようだ。
「娼館など必要か?」
横で聞いていたイルアーナが口をはさむ。
「僕は興味ないんですけど大きな町には必ずあるものですし、僕は興味ないんですけど人が集まったら必ずそういう需要が生まれるので、僕は興味ないんですけどやはり建てないわけにはいかないですよ。僕は興味ないんですけど」
アデルは大事なことなので四回言った。イルアーナは眉をひそめ、腕組をしてしばらく考え込んでいる。
「……わかった」
アデルが四回言った甲斐があり、イルアーナはしぶしぶ納得した。
お読みいただきありがとうございました。