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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第八章 急転の章

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メモリーセーバー(始まりの森)

誤字報告ありがとうございました。


 「はじまりの森」は「絶望の森」にあった世界樹の種を植えた、森とは名ばかりの場所だ。元は貧者高原の一部であり、まばらに雑草が生えるだけの荒野であった。だが今では、周囲の植物の成長を促すという世界樹の特性を利用した農園が広がっている。


「おお、アデル殿」


 やってきたアデルたちを世界樹の森の番人となっている老ダークエルフ、モーリスが迎えた。プニャタやダークエルフたちはガルツ要塞に向かっており、ここにやってきたのはアデルにイルアーナ、ラーゲンハルトにポチとピーコのみである。


 世界樹はまだ背はそれほど高くないものの葉っぱが生えだし、ようやく木らしい見た目となっている。その近くにはムラビットが作った地下室があり、世界樹を守る数人のダークエルフが寝泊まりしていた。しかし神竜王国ダルフェニアが周囲を領地としたことですでに隠れている必要はなくなったため、世界樹の近くには東屋が作られ、雨や日差しにさらされることなく世界樹を見守ることができる。農園で働く人々が寝泊まりする施設は外縁部に作られており、中心部からでは成長した作物等に遮られあまり見えなかった。


 農園にはジャガイモを中心に様々な作物が植えられている。作物の成長から見て本格的な冬が訪れる前にかなりの収穫量が見込まれていた。アデルが待ちわびる甜菜も成長し、花を咲かせている。


「ご無沙汰してます。だいぶ成長しましたね」


 アデルは世界樹を見て笑顔になる。最初はこんなところで芽が出てしまってどうなることかと思っていたが、その姿を見て安心していた。


「ほほほ、これもポチ様をはじめとする神竜様方のご加護かもしれませんな」


 柔和な笑みを浮かべてモーリスが言う。ダークエルフのプリムウッド族を率いていたころは険しい表情が多かったが、肩の荷が下りたのかよほど世界樹がかわいいのか、すっかり優しいおじいちゃんと化していた。


「アデル君、急がなくていいの?」


「あ、そうですね」


 ラーゲンハルトに言われ、アデルは頷く。アデルは一刻も早くガルツ要塞に行きたかったが、魔石のことを知るため仕方なくモーリスの元を訪れていたのだ。モーリスにも事前に強力な魔力のこもった魔石のことは知らせている。


「あの、これなんですけど……」


 アデルは袋を出すと、中から王冠を取り出した。


「ほう……覚悟はしていたが、これはすごいな」


 モーリスが王冠を見て険しい表情になった。


「何かご存じですか?」


「いや。これのことはわからぬ」


「そ、そうですか……」


 首を振るモーリスにアデルは残念そうに言った。


「だが……心当たりがないわけではない。もしそうであるなら大変なことになるが……」


「え? な、なんですか!?」


 奥歯にものが挟まったような言い方のモーリスにアデルは食いついた。


「あくまでも想像の範囲だが……古代魔法文明の人間たちがもっとも大事にしていた魔石。それは『メモリーセーバー』だ」


「めもりーせーばー?」


 モーリスの言った聞き慣れぬ単語にアデルはキョトンとした。


「ああ。人間の短い寿命では魔法の研究はたいして進められぬ。そこで人間は本などに知識を残す術を身に着けた。しかし知識が膨大になってくるとそれだけでは追いつかぬし、必要な知識がどこにあるかを探すのも大変だ。そのため人間は魔法で知識を管理する術を開発した」


「へぇー」


 アデルはわかっていないがとりあえず相槌を打った。


「人間は魔石に研究成果を蓄えることで、その知識を受け継ぐことに成功したのだ。魔術師たちは研究成果を巨大な魔石に蓄え、その知識を他の魔術師と共有できるようにした。それによって人間の魔法知識は急速に進歩したのだ。いつの間にか我々の手に負えないほどな」


(は~、インターネットみたいなものか。世界は違えど、人間の考えることは大体一緒なのかもしれない……)


 アデルはモーリスの話を聞きながら納得する。


「しかしこれがそのエブリーバーガーとやらとは限らぬだろう」


 ピーコが美味しそうな言い間違いをしながらモーリスに言った。


「確かにそうです」


 ピーコの言葉にモーリスが頷く。


「ですがこれに込められた膨大な魔力、そして人間が追い求めるほどの価値。そうなると候補として『メモリーセーバー』が考えられるかと」


「つまりコレから知識を得られれば魔法文明並みの力が得られるってこと?」


 モーリスの話にラーゲンハルトが割って入って尋ねた。


「いや、膨大な魔法文明の知識を収められるほどの大きさの宝石はない。『メモリーセーバー』はいくつかの宝石に分かれていたと聞く。我々はその封印を目指したが、残念ながら力及ばなかった」


 モーリスは遠い目で語った。


「だが魔法文明は奴隷の反乱によって滅びた。そのリーダーたちの末裔が今の人間の王族たちだ。最も価値がある『メモリーセーバー』を戦利品として分け合い、それを王位継承の証としていたとしてもおかしくはない」


 イルアーナがモーリスの話に補足する。


「そういえばハーヴィル王国の王位継承の証もなんか大きな宝石だってウルリッシュさんが言ってましたね」


 アデルは記憶を探りながら言った。


「しかし奴隷のリーダーは八人いたと聞くが……『メモリーセーバー』は七個だけだったのだろうか……?」


 モーリスが首をひねりながらつぶやく。


「奴隷のリーダーが偶然その魔石と同じ人数だったって可能性も低いですからね。それよりも、もしこれがその『メモリーセーバー』ってやつなら、一個でも相当な知識を得られるのかな?」


「どうかな。何の知識が入っているかもわからぬし、使おうにも魔力が必要だからな」


 ラーゲンハルトの疑問にモーリスが答える。


(七個の宝石……「ドラモンボール」みたいだな)


 アデルは日本でやっていた漫画を思い出す。「ドラモンボール」はドラゴンの入った宝石であるドラモンボールを手に入れた主人公が、ドラモンマスターを目指して旅をする漫画だ。主人公が操る黄色い雷竜「ピカリュー」は人気キャラクターである。そして七つのドラモンボールをすべて集めると願い事が叶うという内容の設定だった。もっとも、最終的には勇敢なオークにドラモンボールを揃えられてしまい、願い事として美女のパンティーが与えられる展開は賛否両論であった。


「もしかして……全部集めないと効果が発揮できない、なんてことありますかね?」


 アデルがドラモンボールを思い出しながらつぶやく。


「なるほど。それなら謎が解ける……」


 アデルの思い付きの一言にラーゲンハルトがはっとした表情になる。


「へ?」


「ほら、いろんな国に『他国とかかわるな』みたいな掟があったでしょ? なぜかわからなかったんだけど、各国の王家が『メモリーセーバー』を持っていて、アデル君の言う通りそれが集まったら効果が発揮されるならその掟の説明がつくんだ」


 呆け顔のアデルにラーゲンハルトが熱弁する。


「つまり魔法文明を倒した英雄たちは魔法文明の知識が再び復活しないように、それぞれが『メモリーセーバー』を持ち去った。そして子孫たちにも『メモリーセーバー』を集めたりしないように『他国とかかわるな』という掟を作り受け継いだんだ。『メモリーセーバー』に蓄えられた魔力が消えるか、破壊しても安全なレベルになるまでね。具体的な内容を伝えていないのは、それを知ってしまうと逆に集めようとする者が出てきてしまうからだと思う」


「ええっ!? な、なるほど……」


 アデルは驚き、息を飲んだ。


「カザラス皇帝ロデリックは『メモリーセーバー』の価値に気づき、集め始めたということか?」


 イルアーナが険しい表情でラーゲンハルトに尋ねる。


「聞いたことはないな。それに世界征服の目的が『メモリーセーバー』とは限らないし。だけど誰かが入れ知恵したとしたらラーベル教会かもしれないね。魔法を使える彼らなら、何かのきっかけでその情報を手に入れられた可能性もある。だけど魔法が使えない父上が『メモリーセーバー』を集める意味あるのかな? それで教会がすごい力を手に入れちゃったりしたら、国を乗っ取られる危険もあるのに」


 ラーゲンハルトは眉をひそめた。


「どうでしょう……だいたい悪役が欲するのって不老不死とかですけどね」


 アデルがポツリと呟く。


「それだ!」


「え?」


 アデルの一言にラーゲンハルトが食いついた。


「ずっと疑問だったんだよ。カザラス帝国は征服した地域に平定軍を置かないといけないくらい安定していない。にも関わらずヴィーケン、ラングール、イズミと戦争を繰り広げている。多方面と同時に戦争するなんて、はっきり言って愚策だよ。たぐいまれな軍略でその地位を築いた父上の作戦とは思えない。だけど大病を患った父上が不老不死を欲したのなら話は分かる。自分の命が尽きる前に全ての国を征服して『メモリーセーバー』を集める必要があったんだ。軍の犠牲には目を瞑ってね」


 時折、自分でも頷きながらラーゲンハルトが語る。


「まあ、あくまでもそれが『メモリーセーバー』なら、って話だけどね」


 ラーゲンハルトは王冠を顎で指した。


「ふむ。魔法文明が復活するかもしれないとなると聞き捨てならんのう」


 渋い表情で腕組をしたピーコが言った。


「エリオット王がやたら独立にこだわってたのもこういう背景だったんですかね……」


 アデルが感慨深げにつぶやく。


「結局ラーベル教会の怪しげな兵士の対策はわからなかったが、この王冠が非常に危険なものである可能性はわかった。真偽のほどは定かではないが、ラーベル教会が固執していることは確かだ。より一層注意が必要だろう」


「怪しげな兵士?」


 イルアーナの言葉にそれまで黙って聞いていたポチが口を開く。


「ああ。人間の体を使ったゴーレムのようだった」


「あ、そう」


 イルアーナの話を答えを聞き、ポチは興味を失ったようだ。


 そして王冠について集められるだけの情報を集めたアデルたちはガルツ要塞に向けて出発したのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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