村長の話
アデルたちが招かれた村長の家は他の家よりはマシといった程度の粗末な家だった。応接間などと言うものはなく、普段村長が食事をするであろうテーブルにつき話が始まった。4人掛けのテーブルの片側に村長とその妻、反対側にアデルとイルアーナが座る形になった。
「まあこんな辺鄙な村までよくお越しくださいました」
村長は最初とはうって変わって丁寧な口調で話し始めた。
「依頼というのはここから東に1日ほど歩いた山に住み着いているハーピーを退治して欲しいのです。奴らは村の大事な働き手である男をさらって行くのです。以前から被害はあったのですが、居場所がわかりませんでした。しかしひと月ほど前、さらわれた者が一人帰ってきたのです。その者によればもう二人、村の男がハーピーに捕らえられているとか。そして帰ってきた者も一週間ほど前にまた消えてしまいました……」
村長がうつむきながら話す。
「ハーピーが人をさらう理由は食料にするためか交尾の相手にするためと聞いている。前者だとしたらもう……」
イルアーナは最後、言葉を濁した。
「いえ、話によるとそのハーピーたちは交尾の相手として男をさらい、普段は雑用などをさせているそうなのです」
「ハーピーは何匹くらいいるんですか?」
アデルが村長に尋ねる。
「30匹ほどいたそうです」
「30匹の相手を男3人で?」
「そうなりますな」
「それは大変ですね……むふふ……」
「大変でしょうなぁ……うほっほっ……」
なぜかニヤつき合う男二人をイルアーナと村長の妻が冷たい目で見る。
「もしかしてその帰ってきた男性って……」
「ええ。居なくなる前に『やっぱり俺の居場所はここじゃない!』と言っておりました。恐らく自分の意志でハーピーの元へ帰ったのかと……」
「そうですか……そんなにすごいんですかね?」
「すごいんでしょうなぁ。私も若かったらぜひ……あっ」
村長は隣の妻から発せられる殺気に気づいて口をつぐんだ。
「……なるほどな。依頼内容が『さらわれた男の救出』ではなく『ハーピー退治』という理由がよく分かった」
イルアーナがこめかみを指でほぐしながら呟いた。
「どうかよろしくお願いします。このままでは村の男たちが全員いなくなってしまいます」
村長の妻が頭を下げる。
「わかりました。あ、それと村の近くにムラビットの群れがいるんですが……」
「ムラビット?」
「大きいウサギみたいなやつなんですが」
「ああ、大ウサギですか」
彼らの間ではムラビットは大ウサギと呼ばれているようだ。
「彼らは無害なので手を出さないでいただけますか? 来る途中に話したんですが、草しか食べない大人しい種族ですから」
「あれと話を? ……まあ害がないのなら、わざわざ手は出しません」
村長は怪訝な表情だったが、アデルの頼みを了承した。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
話がまとまるとアデルたちは村長の家をあとにし、ハーピーのいる山へと向かった。
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