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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第八章 急転の章

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金竜王(ミドルン)

 ミドルンでは祭りの当日を迎えていた。旧ソリッド州の住民は生活も安定してきており、多くの人々が祭りに訪れていた。


 ポチは川の近くで川オークたちの社会見学に付き合っている。川オークは完全に体が乾いてしまうと死んでしまうらしく、川から離れたセルフォードやカナンの祭りには参加できていない。とりあえず人間がどんな家に住んだりどんなものを食べているのか、またお金のことなども教えてあげていた。アデルは若干、ポチが教えるということに不安があったが、間違っていることがあれば後で訂正すればいいかと思って任せていた。


「アデルさん」


 街を歩きながら祭りの様子を眺めていたアデルにヴィクトリアが声をかけてきた。余談だが、ダルフェニア軍ではヴィクトリアをはじめとするペガタウルスの美しさのせいで、馬の尻にも興奮するようになってしまった兵士が続出している。


「あ、ヴィクトリアさん。どうしました?」


「合計で二百ほどの騎馬兵がこちらへ向かっています」


「騎馬兵が……?」


 アデルは首をひねる。


(二百人の騎馬兵だけでどうするつもりなんだろう……)


 たとえヴィーケン王国側の人数が上回っていたとしても、攻城兵器もなしに都市を攻めることは難しい。心配にはなったが、危険はないだろうとアデルは判断した。だが祭りに気を取られていたこともあり、アデルは「合計で」という大事な一言を意識せずにいた。


「まあ大丈夫でしょう。一応、守備隊には気を付けるように言っておきますね」


「はい、よろしくお願いします」


「ご報告ありがとうございました。」


 アデルとヴィクトリアはペコペコと頭を下げ合う。


 アデルはヴィクトリアと別れ、散歩へと戻った。






 そして祭りは順調に進んでいった。夜には祭りのメインイベント、レイコの神竜姿のお披露目がある。見たことがない者は興味津々で、見たことのある者は再びその神々しい姿を見られることに感謝し、ミドルン城の周りに集まっていた。


「はぁ……困りますわ。わたくしが美しいばかりに、こんなに大勢から好奇の視線にさらされてしまう……」


 ミドルン城のテラスから、居並ぶ聴衆を見渡しながらレイコが言う。しかしその口の端は若干ニヤけていた。オリムでも神竜として真の姿を現したことがあったが、今回はその三倍ほどの聴衆がレイコを待っていた。


「よ、よろしくお願いします」


 アデルが苦笑いを浮かべて言う。周囲には神竜王国ダルフェニアの主だったメンバーが顔を見せていた。


「仕方ありませんわ……」


 レイコの体がまばゆい輝きに包まれる。そしてレイコの身体は膨張し、爆発的にその大きさを変えて夜空へと舞い上がった。


 その体は一般的なドラゴンのイメージよりも細身だ。西洋の竜と東洋の龍の中間といった姿に見える。大きさはミドルン城より大きく、細身ではあるが頭から尾の先までの全長はデスドラゴンよりも上であった。背中には煌めく大きな翼があり、その翼は割れた鏡の破片のようなもので構成されていて光を反射している。体は金色に輝く鱗で覆われており、夜のミドルンの町を昼間のように明るく照らしていた。


「おぉ……」


 ため息ともに感嘆の声が聴衆から漏れる。オリムの建国宣言のときも聴衆をくぎ付けにしたレイコであったが、夜の闇の中で光を放つレイコの姿はより一層、えていた。


「これが竜王……」


 様々な魔物の知識があるメルディナやウィラーですらレイコの姿に息を飲む。グリフィスやクレイマンなどはただただ目と口を大きく開けて絶句していた。


(あらあら、また皆さんを虜にしてしまいましたわ……ほんとにわたくしは罪深い女……)


 聴衆の視線をくぎ付けにしたレイコは、さらなる自己顕示欲を膨れ上らせた。


(少しサービスしてさしあげましょうか)


 レイコは息を大きく吸い込む。


「あっ!」


 アデルはレイコのしようとしていることに気づいたが、止める間もなかった。


舞麗光ぶれいこう!」


 レイコの口から光線が放たれた。光線は夜空を切り裂き、南の方角へと走り抜けていった。


「うわぁっ!?」


 人々はその眩しさと、光線が周囲にまき散らす熱波に顔を伏せた。レイコは体をくねらせながらドヤ顔でミドルンの上空を旋回している。


「す、すごい……これがヴィーケン軍を壊滅させた『神の光』か……!?」


「レイコ様がいればこの国は無敵だ……!」


「レイコ様バンザーイ!」


「ダルフェニア、バンザーイ!」


 呆気にとられた人々の中から、徐々にレイコを称賛する声が広がり始める。新たにダルフェニア軍に加わった兵もレイコの神々しい姿と恐ろしい力を目の当たりにし、熱狂的に叫んでいた。その熱狂の輪はあっという間に広がり、すぐに大合唱となった。サクラなど仕込まれていない、自然発生の大合唱だ。


 そしてしばらくの間、夜のミドルンはレイココールとダルフェニアコールに包まれたのであった。


お読みいただきありがとうございました。

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