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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第八章 急転の章

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風評(ミドルン)

誤字報告ありがとうございました。

「お、おかえりなさいませっす!」


 カナンでの行事を終え、ミドルンへ帰還したアデルたちを街の入り口で守備隊長のヒューイが迎えた。ガルツ要塞の守備隊長となったロニーの後任で、若手の成長株と期待されている。


(確かに能力上がったよなぁ)


 アデルはヒューイの能力を見て思った。


名前:ヒューイ

所属:神竜王国ダルフェニア

指揮 65

武力 71

智謀 48

内政 51

魔力 20


 ヒューイはもともと指揮と武力はなかなかの値であったが、低かった智謀も平均近くまで上がっていた。もともと剣の訓練も軍の指揮もまともに学んだことがない状態であの数値だったのだ。経験を積むことでさらなる成長が期待できるであろう。


「留守中どうでした?」


「そ、それが……デスドラゴン様が『オークちゃんが少ない!』と騒いでおりました。ジョアンナ様が抑えてくださったので大事には至りませんでしたが……」


「あぁ……」


 困り顔のヒューイの報告にアデルは顔をひきつらせた。オークをペットのようにかわいがっているデスドラゴンであったが、オークたちの大部分は戦争に参加するためミドルンを空けていた。そして現在は休暇として黒き森へ帰っている。しかし一部のオークは祭りに参加するため、ミドルンに来ていた。


「オークさんたちにデスドラゴンさんの機嫌を取ってもらえないか頼んでみます」


「よろしくお願いしますっす!」


 アデルが言うとヒューイは顔を輝かせた。余程困っていたらしい。何せ相手は国の象徴ともなっている神竜であり、かつ成体のデスドラゴンはその気になれば簡単に街を滅ぼせるほどの力を持っている。ヒューイも気が気ではなかったことだろう。


 そんな話をしながらアデルたちはミドルンの通りを歩いた。ミドルンでも戦勝記念の祭りが予定されている。前回は国として、もしくは国から商人や飲食店に働きかけて屋台を出していた。だが稼げると分かったのか、今回は多数の商人や飲食店から自発的に出店の許可を求めてきていた。ヒューイはダークエルフなどの助けも借りながら、出店場所の調整などの慣れない仕事も行っていた。


(ん?)


 そんな中、アデルは一軒の屋台に目を奪われる。祭りまではまだ数日あるが、早々に準備をして営業する屋台もあり、それはそのうちの一軒であった。


(あれはまさか……チョコバナナ!?)


 その店の店頭には串に刺さった黒くて細長いものが並んでいる。アデルは小走りでその店に近付いた。


「らっしゃい」


 屋台の主人はみすぼらしい格好をしており、少し訛りがある。どうやら貧者高原の村の出身のようだった。


「これってもしかして……」


 アデルは顔を輝かせていたが、近くで見るとそれが期待したものではなかったことに気づいた。そもそもチョコもバナナも神竜王国ダルフェニアでは流通していないものだ。


「おっ、ご存じですか? バーランドオオカブトムシの幼虫の黒豆ダレ焼きです」


 説明を聞いてアデルは唖然とした。バナナに見えたのはキュウリほどの大きさがある虫の幼虫だったのだ。香ばしい匂いがあたりに漂っている。


「おお、うまそうじゃのう」


 背伸びして屋台を覗いたピーコが目を輝かせる。ポチもヨダレを垂らしながら屋台に顎を載せていた。アデルは後ろにいたイルアーナとヒューイを振り返るが、二人とも首を振っていた。どうやら一般的に食べられている料理というわけではなさそうだ。


「えっと……じゃあふたつ……いや、ちょっと待ってください」


 アデルはポチとピーコの分だけ注文しようとして考え込む。


(祭りに来た人に、ダルフェニア人はみんなこれを食べてると思われたらどうしよう……しかもマズかったら……)


 アデルは少しの間戸惑うと、意を決して注文した。


「やっぱり三つください!」


 国の評判のためにも、アデルは実際に食べて判断することにした。


「はい、まいど」


 店主から串を受け取ったものの、アデルは食べるのを躊躇する。こんがりと焼かれた幼虫が恨めし気にアデルを見つめていた。ポチとピーコは受け取るや否やムシャムシャと頬張り始めている。


「ピーコ、どんな味なの?」


 アデルは尋ねる。ポチはともかく、ピーコの味覚はアデルでも理解できるものだった。


「ふむ、洞窟コオロギに近い味じゃな」


 ピーコが味をたとえてくれたが、アデルにはさっぱりわからなかった。すぐ近くでは、なかなか食べないアデルを屋台の店主が不思議そうに見つめている。


(ちょ、ちょっとだけかじってみよう……)


 アデルはためらいつつ、ムシ焼きの尻尾の方をかじった。黒豆ダレのしょっぱさとカリカリに焼かれた皮の食感。中はトロッとしており甘みのあるピーナツペーストのような味だった。


「……美味しい」


 アデルはなぜか敗北感を感じながらつぶやいた。


「あ、そうだ。ポチ様とピーコ様を見て思い出したんすけど」


 ヒューイがひとつ手を叩いて言った。


「地竜王って方がいらっしゃってます。レイコ様やデスドラゴン様ともお知り合いのようだったので、客間にてお待ちいただいてますが……」


「地竜王さんが?」


 アデルは驚いた。


「す、すぐ行きましょう!」


 アデルは城に向かおうとしたが、足を止める。


「……ピーコ、レイコさんたちや地竜王さんもこれ食べるかな?」


 アデルはムシ焼きを示しながら尋ねる。


「まあ食うじゃろ」


「食べなかったら私が食べる」


 口から串を出したままピーコとポチがそれぞれ言った。


「すいません、もう三つ追加で」


 アデルは屋台に戻ると店主に注文する。


「おや、おかわりですか? 気に入ってもらえてうれしいですぜ」


「あはは……」


 笑顔の店主にアデルは愛想笑いをする。そしてムシ焼きを受け取ると、足早にミドルン城へと向かった。


 しかし翌日からこの屋台が「アデル王がおかわりするほど気に入った店」と噂されるようになることは知る由もなかった。

お読みいただきありがとうございました。

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