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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第八章 急転の章

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魔黒(黒き森)

誤字報告ありがとうございました。

 黒き森を進んでいたアデルたちは魔黒の群れと遭遇していた。魔黒の強烈な攻撃でいままで愛用していた剣が折れてしまったアデルは、ドレイクから託されたミスリルの剣を抜き放った。


(どうも軽すぎて違和感があるんだよなぁ……)


 ミスリルの剣の軽さにアデルは不安を覚える。ミスリルの剣は普通の剣の半分以下の重さしかなく、見た目の重厚さとは裏腹に木の棒を振っているような手応えしかない。重量も武器の威力を決める要因となる。アデルにはこの軽い剣で、鉄の剣をへし折った魔黒を倒せるとは到底思えなかった。


「ポチ、人間はどうやってこれでドラゴンと戦ってたの?」


 アデルはポチに尋ねる。


「よく見たのは光を纏わせて戦ってた」


(光……? ビームサーベルみたいな感じか?)


 ポチの答えを聞き、アデルはイメージを膨らませて剣に魔力を注ぎ込む。


「うっ……!?」


 アデルは立ち眩みのような感覚を覚えた。そして剣が分厚い赤い光に覆われる。


(魔力が剣に吸われてるのか……?)


 アデルは頭を振って意識をはっきりさせた。


「アデル、何をボーッとしておる!」


 ピーコの叱責が飛ぶ。アデルの目前に一匹の魔黒が迫っていた。


「くっ!」


 アデルは魔黒の突進を剣で受け止め、再び衝撃が腕を襲った。しかし今度は剣が折れることはなく、魔黒は逃げるようにふらふらと方向を変え飛んで行った。


(うまくいったのか?)


 アデルはひとつ安堵の息をつく。


「そんな棒みたいな光じゃなくて、もっと薄くて鋭い感じ」


 しかしポチはアデルの魔法にダメ出しをした。アデルの剣にはロボットアニメやSF映画でよく見る、棒状の光に包まれている。これはエネルギーで相手を焼き切るような戦い方である。


「薄くて鋭い……カミソリみたいな感じ? でもそれじゃ剣で戦う意味なくない?」


「今もそうでしょ? それに私も剣で戦ったことないからよく知らない」


 アデルの問いにポチはそっけなく答える。確かにポチはミスリルの武器を使った側ではないのだから詳しくは知らなかった。


(難しいな……とりあえず刀身を薄く包む感じでイメージすればいいのか……?)


 アデルは剣を見つめながら四苦八苦している。アニメや漫画で見たことのないものをイメージするのは難しかった。その間も魔黒はアデルたち目掛けて飛んで来る。


空気衝雲エアリークッション!」


 イルアーナの魔法が発動し、空中に白いもやのようなものが出現する。その中に突っ込んだ数匹の魔黒の動きが鈍った。レネンの軍と戦った時にダークエルフ隊が使用したこの魔法は、本来このように高速で飛行する鳥などを捕まえるための魔法であった。


 魔黒は苦しそうにもがいていたが、やがて動かなくなった。マグロと同様に魔黒も泳いでいないと呼吸ができなくなり窒息してしまうのだ。


「アデル、何でもよいから早くしろ! 無理に使い慣れない魔法を使うな!」


「は、はい!」


 イルアーナに叱責され、アデルは剣を構えなおす。


(キングサーモンとの戦いで使った高速振動剣にしよう……)


 アデルは集中し、剣に風魔法をまとわせる。やはり立ち眩みするような感覚に襲われた。ミスリルの剣に魔法をまとわせるのは普通の剣の何倍も魔力を消耗するようだ。


「そっちへ行ったぞ!」


 イルアーナの魔法を避け、回り込んだ魔黒がアデルのほうに飛んで来る。しかし回り込んだため、速度は今までよりも遅かった。


「はい!」


 アデルはサイドステップで魔黒をかわし、すれ違いざまに剣で薙ぎ払う。しかし完全に敵を捕らえたと思った攻撃に、アデルは手応えを感じなかった。


(あれ、外れた?)


 アデルは攻撃が当たらなかったと思い振り返る。そこには地面に転がった、真っ二つになってジタバタともがいている魔黒の姿があった。


「え?」


 アデルは茫然と、真っ二つになった魔黒と自分の剣を見比べる。


(当たったかわからないくらい切れ味が鋭かったってこと……!?)


 ミスリルの剣の切れ味にアデルは戦慄した。そして多くの仲間を失った魔黒はアデルたちを襲うことを諦め、飛び去って行ったのであった。






「大量じゃな!」


 並んだ魔黒を前にピーコが嬉しそうに言う。その脇ではイルアーナがピーコを叱ろうか迷っていたが、結局何も言わず、ただため息をついた。


 アデルたちは合計で六匹の魔黒を倒していた。そのうち一匹はアデルに斬られ、真っ二つになっている。


「アデル、さっそく魔黒を切り分けるのじゃ」


 ピーコが真っ二つになった魔黒を指さす。


「これ、生で食べて大丈夫なのかな……」


 アデルは短剣を取り出すと、魔黒を刺身のように切り始めた。


「魔黒は新鮮なうちは生で食べて大丈夫」


 ポチが刺身を見つめながら言う。


(う~ん、もっと上手く魔法を使いたいな……)


 刺身を作りながらアデルは先ほどの戦いを反省していた。


(そもそも剣に魔法をまとわせる意味って何だろう……)


 アデルは早々に剣に炎をまとわせる魔法を習得したが、剣が当たっている時点で相手にダメージを負わせることができる。炎をまとわせたところで剣で斬りつけた一瞬だけでは火傷すら与えることができず、むしろ魔法に集中することで戦闘力が落ちてしまうためほとんど使っていない。


 ゲーム等でも剣に魔法をまとわせるシーンはよく見るが、剣に光や炎をまとわせるとなぜそんなに攻撃力が上がるのか改めて考えてみると、アデルにはよく理屈がわからなかった。


(僕の魔法の使い方が下手なんだろうか……?)


 アデルは剣や矢など、特定のものに魔力をまとわせることは得意だ。しかしダークエルフがよくやるような範囲に作用する魔法はイメージがしづらく、不得意であった。イルアーナに尋ねると、人によって魔法の得手不得手はかなりハッキリしているそうだ。イルアーナも直接的に人を攻撃するような魔法は不得意らしい。逆にムラビットのように魔力が低くても土魔法だけは得意で、さらに使い続けることで練度を上げている場合もある。


「ふむ。やはり新鮮な魔黒は美味いのう」


 ピーコは魔黒の刺身を食べて満足そうにしていた。当然、醤油などないので塩をかけて食べている。ポチとイルアーナもモグモグと刺身を食べていた。ウルフェンもヨダレを垂らしていたので、アデルが肉の塊や骨の部分をあげるとすごい勢いで食べ始める。


「僕も食べてみようかな」


 アデルは魔黒の刺身を食べてみた。マグロと言うよりカツオに近い味だ。そして魔黒を食べたアデルは体がポカポカと温まるのを感じた。


(これがマナ味ってやつ……?)


 その熱は魔力を消耗したアデルの体に元気を取り戻してくれるような感覚がした。アデルは地面に転がっている魔黒たちに目をやる。


「ポチ、腐敗を止める魔法使えたよね? この魔黒にも使える?」


「腐敗を遅らせるだけ。でもマザーウッドまでなら使わなくてもいいんじゃない?」


 ポチはもちゃもちゃと刺身をかみながら答える。魔黒はマザーウッドに運び、ダークエルフたちにふるまおうという話になっていた。


「一匹……いや、できれば二匹、その魔法をかけてほしいんだけど」


「別にいいけど」


 アデルの頼みを聞き、ポチは魔黒に魔法をかける。


 そして食事を終え、たくさんの魔黒を抱えたアデルたちは再びマザーウッドへと向かうのであった。




お読みいただきありがとうございました。

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