情報収集
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旧ハーヴィル領内の南東、死の砂漠からほど近くに位置する小さな町。染料くらいしか特産品のないその街のさびれた通りを二人の男が歩いていた。一人はみすぼらしい格好をしているが、体格が良く、どこか風格を感じさせる。一人は暑い日差しの中でフードをかぶり、もう一方の男を先導して歩いていた。
二人は一軒の建物へと入っていく。そこは冒険者ギルドであった。小都市の冒険者ギルドはほとんど酒場兼宿屋に冒険者ギルドの機能が付随しているものとなっており、入るとすぐに食堂スペースとなっている。いくつかあるテーブルで、二組の冒険者パーティーがくつろいでいる。注文した料理を見るに、そこそこ羽振りが良いようだ。
長引く戦争で兵士が地方からは間引かれており、治安は悪化している。そこで魔物や野盗から村を守るために冒険者に用心棒を依頼する村も増えていた。冒険者の中には自ら野盗行為を行い、後に野党の被害を恐れる周辺の村で用心棒としても雇われる冒険者も存在する。冒険者といえば聞こえは良いが、その実態は職にあぶれたゴロツキも多い。収入も安定せず、稼げるときに稼がねば生活ができない。たとえそれが正規の手段ではないとしてもだ。
「いらっしゃい」
店主兼冒険者ギルド長の中年女性が二人を迎える。店ではもう一人、若い女性が給仕兼ギルド職員として働いていた。もし冒険者ギルドの看板が無ければ、ただの親子で経営している食堂に思えるだろう。
「すまないが個室で頼むよ」
フードの男が言うと、ギルド長はその顔を一瞥した。
「どうぞこちらへ」
ギルド長は二人を奥の部屋へと案内する。質素なテーブルと椅子だけが置かれた殺風景な部屋だ。二人は席に着くと、男がフードを脱いだ。
「ふぅ。悪いが水をくれよ。砂漠を渡ってきて喉がカラカラだ」
フードを脱いだ男がニカっと笑う。それは死の砂漠に住む蛮族特有の日に焼けた肌の中年男、”境風”のラヒドであった。
「はいよ」
ギルド長が厨房へ水を取りに向かう。
「こんなところで情報が手に入るのか?」
もう一人の体格の良い男が眉間にしわを寄せる。ラヒドのもとに身を寄せている黒き森の木こり、ドレイクだ。
「冒険者ギルドは全国各地のギルドで重要な情報を共有してるんだぜ。情報収集でここよりアテになるところは無ぇ」
ラヒドは服の首元を持ってパタパタと服の中に涼しい空気を取り入れようと動かしていた。
「こんな施設が……? それが本当だとして、なぜお前にその情報を渡すのだ?」
ドレイクは険しい顔のまま尋ねる。
「冒険者ギルドは表向きは中立だが、裏では帝国と対立している。俺らも帝国……というか北側の人間たちとはずっと対立してるからな」
蛮族はカザラス帝国やハーヴィル王国が成立する前から、現在の死の砂漠よりも北側に住む人々に対して盗賊行為を行っていた。彼らが「蛮族」と呼ばれているのもそのせいだ。
「あんたは知らないかもしれないが、死の砂漠にも年々、緑が増えてきてるんだ。もしかしたら近いうちに死の砂漠が草原になって、帝国の重装備の軍が通れるようになるかもしれねぇ。そうなる前に帝国の力を削いでおかねぇと、俺たちなんてあっという間にやられちまうんだ」
ラヒドが肩をすくめる。
「あぁ、塔が死んだからな」
「は?」
ドレイクの呟きにラヒドが反応する。
「お待たせ。はい、どうぞ」
しかしそこにギルド長が水を持って来たせいで話はさえぎられた。
「それで、そっちの色男は?」
ギルド長が座りながらドレイクを見る。
「こいつは最近入った新入りでね。今日来たのも、こいつが情報が欲しいっていうから来たんだ」
「ふぅん。信用できるのかい?」
ラヒドの言葉に、ギルド長は口をすぼめてドレイクを品定めするように見た。
「できるわけないだろ。だから今日のところは言える情報だけでいいんだ。少なくとも自分で情報を集めるよりはマシだろうからな」
「へぇ。で、何が聞きたいんだい?」
ギルド長はテーブルに肘をついてドレイクに顔を近づけた。
「魔法に精通している組織を教えてくれ」
ドレイクは迷惑そうに顔をしかめつつ答えた。
「は? それだけ?」
ギルド長は拍子抜けした表情になる。
「そりゃ一番は冒険者ギルドさ。魔法使いも何人もいるからね」
「この程度では話にならん。他にないのか?」
自信満々のギルド長にドレイクは首を振った。
「はぁ!? 失礼だね!」
「す、すまねぇ! 俺たち蛮族の仲間だけあって、こいつも礼儀を知らねえんだ!」
怒るギルド長にラヒドが慌てて謝罪する。
「やれやれだね……まあ、いいよ」
ギルド長は大きくため息をつき、気を静めた。
「あとは帝国の宮廷魔術師団にラーベル教会。それに最近だとダルフェニア軍とかだね」
「ダルフェニア軍? なんだそれは?」
ドレイクが眉をひそめる。
「ダルフェニアって言うと、ヴィーケン内で新たに独立した勢力だろ?」
ラヒドが興味深げに尋ねる。
「そうだよ。今や北部連合も倒して、ヴィーケン内を統一しそうな雰囲気さ」
「ほう、そんなに……」
最新の情報を得られていなかったラヒドが神竜王国ダルフェニアの現状を聞き驚く。
「なんだ、そのダルフェニアというのは?」
一人話題から取り残されていたドレイクが言う。
「知らないのかい? ダークエルフやオーク、ドラゴンまでいる妙な国さ。詳しい事情はよく分からないけど、ヴィーケン王国の英雄ってもてはやされてたアデルってのが王になって最近作った国だよ」
「アデルだと!?」
ドレイクが急に席を立ちあがる。ラヒドとギルド長は驚き、ビクッと肩を震わせた。
「あいつめ……なぜそんなことを……!?」
怒りの表情のドレイクを見て、ラヒドとギルド長が顔を見合わせる。
「し、知り合いか?」
恐る恐るラヒドが尋ねた。
「あいつは俺の……」
ドレイクはそこまで言うと戸惑うような表情を見せた。
「いや、なんでもない」
そして椅子に座りなおすと、ドレイクはラヒドとギルド長の話が終わるまで考え込み、口をつぐんでしまったのだった。
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