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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第七章 躍進の章

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お茶会 2(イルスデン)


「ほ、本気で言っているの? ヒルデガルド!?」


 マギヤが驚く。ヒルデガルドの内乱を起こしてでも帝位を取るという宣言に、エスカライザもフローリアも言葉を失っていた。


「もちろんです。ここに帰ってくるまでに、私は再び暗殺されそうになりました。父上もアーロフも私を殺そうとしている。もしそれが民のためになるというのなら私も納得いたします。しかし彼らは大陸統一という野望を掲げ、無用な血を流しているだけ。勝つためであれば守るべき民衆ですら犠牲にしています。皇帝が道理から外れた行いをするのであれば、それを正すのも皇族に生まれた私の役目です」


 ヒルデガルドの強い言葉に、しばらく誰も言葉を発することができなかった。


(ヒルデガルド……ずいぶん強くなったわね)


 マギヤはそんなヒルデガルドの様子に感激していた。


「し、しかし……帝国を相手に戦うなど、正気の沙汰では……」


 エスカライザがうめくように声を漏らす。


「いつも父上を簒奪者などと罵っているのに随分と弱気ですね。実際に行動に移す勇気は持ち合わせていらっしゃらないのですか?」


「バ、バカを申すな! 勝算のない戦いをしても自滅するだけであろう!」


 挑発するようなヒルデガルドの物言いにエスカライザが声を荒げる。


「少ない戦力でも帝国軍相手を打ち負かせることはダルフェニア軍が証明しています。それに……」


 ヒルデガルドは一息置いて、エスカライザの目を見据えた。


「私を支持する勢力とそちらの勢力。併せればかなりの力になるのではないですか?」


 ヒルデガルドの言葉にエスカライザは息を飲んだ。


「……私を呼んだ理由はそれか」


 エスカライザはヒルデガルドをしばらく睨みつけていたが、やがて表情を緩めるとため息をついた。


「お前が命知らずなのはようわかった。しかし私もお前も皇帝の座を目指すライバル同士。手を組む道理などなかろう」


 そのエスカライザの言葉にヒルデガルドは首を振る。


「いいえ。アーロフもその弟イェルナーも皇帝になる為の実績はありません。全ては父上が次期皇帝に推しているという一点のみ。もし私たちが帝国民が納得できるような実績をあげたり、アーロフたちの評価が下がるようなことがあれば、私にも機会が巡ってくるはずです」


「それはそうだが、私とお前が手を組む理由にはならぬであろう?」


 エスカライザが首をひねる。


「最後まで話をお聞きください。そもそもあなたが欲しているのは皇帝の座ではないはずです」


「なんじゃと?」


 ヒルデガルドの言葉にエスカライザが眉をひそめた。


「カザラス帝国は紛れもなく父上が作り上げた国。あなたが、父上が奪ったと主張しているのはローゼスの王位です」


「なっ!? ま、まさか……」


 エスカライザの目が見開かれた。


「私が皇位を継承した暁には、ローゼス王家の再興と、帝国内の自治領として独立を認めます」


 ヒルデガルドの話に、再び一同は言葉を失った。


「実際にどれだけの領土となるかはあなたの働き次第ということで、いかがでしょうか?」


 しかしヒルデガルドは冷静な表情で話を続ける。


「私にお前の下につけと申すか。生意気な……」


 圧倒されながらもプライドが許さないのか、エスカライザはヒルデガルドを睨みつけた。


「ええ。恐縮ですがその通りです。私は二度も身内から暗殺されそうになりました。それだけ私の存在が父上やアーロフたちにとって脅威ということ。実際、私の人気や戦力からしても、より皇帝の座に近いのは私の方かと思います。それとも帝国全土をお望みですか?」


「そんなもの望んでいるわけがなかろう!」


 エスカライザは苛立ちから声を荒げた。


「皆、私が過去の栄光にすがる惨めな元王族として見ている。それで皇帝の座に執着しているのだろうと嘲笑っている。笑いたければ笑うがよい。だが皆、我々がロデリックを認めぬ理由をわかっておらぬ。奴は下級貴族の出身で、王家の血筋ではない。確かにそれも理由ではあるが、一番大きな理由は他にある。奴は歴代のローゼス王がもっとも大事にしていた大切な掟を破ったのだ。だから我々は奴をローゼス王の継承者として認めず、簒奪者と呼んでいるのじゃ!」


 エスカライザの言葉に、今度はヒルデガルドが息を飲んだ。


「そんな理由が……しかし、そこまで父上を皇帝と認めない理由となるほどの掟とはいったいなんなのですか?」


 ヒルデガルドはエスカライザに尋ねた。


「ローゼス王国は由緒正しいアステリア七国の中心として、ずっと伝統を守り続けてきた。それは『他国に介入、干渉しない』という掟じゃ。その閉鎖的な姿勢から国は衰退し、崩壊してしまったが、王家の者は絶対にこの掟に従わなければならないと幼いころから言い聞かせられてきた」


 ため息交じりに言うエスカライザに、ヒルデガルドが目を見開いた。


「他国に介入しない……? 不思議ですね。ヴィーケン王国やラングール共和国にも同じような規則があると聞きました」


「なに?」


 エスカライザが眉間にしわを寄せる。


「七国のうち三国に同じような掟が? なぜそんなことが……」


「神竜王国ダルフェニアには竜王やダークエルフなど長命の者が存在します。彼らが言うには、元々アステリア大陸には巨大な魔法文明による国家が存在しており、それを崩壊させた奴隷たちの指導者が七国の祖なのだとか……」


 ヒルデガルドは神竜王国ダルフェニアで聞いた話を説明した。


「なるほどな。確かにそれなら似たような掟があるのも頷けるが……」


 エスカライザは顎に手を当てて考え込む。


「だが、かつての仲間だったというのであれば、普通は友好関係を築くものではないか? なぜ『干渉しない』という掟になるのだ……?」


「それはわかりません。ですが七国すべてに同じ掟があるのだとすれば、カザラス帝国という脅威に対して各国がほとんど連携しなかったのもわかります。イズミは分裂状態でそれどころではないのでしょうが……」


 ヒルデガルドたちはしばらく奇妙な掟の考察をしたが、とくに結論はでなかった。


「まあよい。お前の言う通り、ローゼスの王位とカザラスの帝位を切り分けていなかったのは事実じゃ。確かに私はローゼス王家が再興できればそれでよい。ただし自治領という部分は納得がいかぬな」


 エスカライザがヒルデガルドを見る。その視線はさきほどまでの蔑むようなものではなかった。


「良くも悪くも、父上の築き上げた帝国はすぐにどうにかなるものではありません。条件に関しては今後の活躍や力関係によってすり合わせればよいのではないでしょうか」


 ヒルデガルドの言葉にエスカライザは鼻を鳴らす。


「ふっ。お前の下につくなど冗談ではない。だが打倒ロデリックを目指すなら、状況次第で協力くらいはしてやろう」


「ありがとうございます」


 ヒルデガルドは微笑んで頭を下げる。


「礼など要らぬ。それがこちらの利にもなるのだがらな。私が自力でロデリックを退けることを諦めたわけではない。よいか、私がお前の下につくわけではないぞ? わかったか!」


 エスカライザは何度も念押ししながら会話を打ち切り、部屋を出て行ってしまった。ヒルデガルドは苦笑いを浮かべそれを見送る。しかし何はともあれ、ヒルデガルドは帝位継承を目指すうえで強力な味方を得たのであった。



お読みいただきありがとうございました。

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