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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第七章 躍進の章

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ソルトリッチ野戦6

誤字報告ありがとうございました。


 暴れまわるフレデリカ隊を目指し、金獅子傭兵団のオコーネルとアルバートは移動していた。


「お、親父! 何をする気だよ!」


 アルバートは慌てる。すぐ先ではフレデリカ隊にやられる金獅子傭兵団の悲鳴が上がっていた。


「いいから来い」


 オコーネルは有無を言わさず先へと進む。そこには一際目立つ赤い影があった。その影が舞う度に赤い花が咲いた。


(美しい……)


 その赤い影――フレデリカの姿を見て、オコーネルは場違いな感想を持った。


「フレデリカ!」


 オコーネルが叫ぶと、フレデリカが手を止めてオコーネルを見た。その頬にはまるで化粧のように返り血がかかっていた。


「この私と一騎打ちをしろ!」


「はぁ?」


 オコーネルの声にフレデリカは怪訝な表情になった。周囲の兵士たちも横目で二人の様子を伺っている。


「負けた方の部隊は全面降伏。それが条件だ」


 オコーネルが大声で叫ぶ。その提案を聞いていた兵士たちは驚き、思わず戦う手を止めていた。敵味方問わず、互いに目配せをして自分が聞き間違えたわけではないことを確認する。


「お、親父無理だって!」


 兵士と同様に驚き、言葉を失っていたアルバートが我に返りオコーネルを制止する。


「止めるでない、アルバート。この金獅子傭兵団は私が作り上げたものだ。私がその命運を握って何が悪い」


 そう話すオコーネルの目つきには決意がみなぎっている。その迫力にアルバートは再び言葉を失った。


 そんな様子を見ていたフレデリカはしばらく無言であったが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「老いぼれ一人倒せば勝ちかい。楽でいいね。その話乗ったよ。ただし部下共に、あんたが負けたら大人しく従うように言い聞かせな。特にそこの坊やにね」


 フレデリカの見下すような視線をアルバートは怒りのこもった目で見返す。しかしオコーネルが手で下がるよう命じると、アルバートは悔しそうな表情で後ろに下がった。


「そちらこそよく言い聞かせろ。お前のところの傭兵は素行が悪いからな」


 オコーネルも負けじとフレデリカ隊を揶揄する。


「もう傭兵じゃないよ。立派なダルフェニア軍の一員さ」


「ほう」


 フレデリカの言葉にオコーネルは驚きの声を漏らした。


「……大人になったな、フレデリカ」


 オコーネルが表情をやわらげ、感慨深げにつぶやく。金獅子傭兵団でも一番手の付けられなかったフレデリカが、自分を「軍の一員」などと言うのがオコーネルには信じられなかった。


「勝手に師匠面するんじゃないよ。思い出に浸るのはその辺にしな、ジジィ」


 フレデリカは不機嫌そうに言うと剣を構えた。オコーネルも一瞬苦笑いを浮かべるが、すぐに気を引き締めて剣を構える。周囲の空気が張り詰め、緊張と静寂に包まれた。


 両軍の兵士たちは完全に戦う手を止めて対決の行方に注視している。その勝敗で自分たちの運命が決する以上、一兵士同士が戦う意味がなくなったからだ。


「行くぞ!」


 オコーネルの鋭い斬撃がフレデリカを襲う。フレデリカは眉をひそめ、それを剣で弾き返した。続けて二度、三度とオコーネルが攻撃を畳みかけ、フレデリカは防戦に徹していた。


「いいぞ団長!」


「やっちまえ!」


 金獅子傭兵団の応援がオコーネルを後押しする。


「ほう、見事な剣捌きだ」


 クレイマンがオコーネルの動きに感心した。


「まあ年の割にはよく動いてるな」


 しかしフレデリカ隊の面々は余裕の顔で戦いを眺めている。


(……衰えたね)


 フレデリカはオコーネルの攻撃を受け流しながらそう感じていた。かつては大陸一と呼ばれるにふさわしい傭兵であったが、今はフレデリカ隊の一隊員程度の強さになっていた。それでも充分強いのだが、昔の強さを知っているフレデリカは哀愁を感じずにはいられなかった。


 最初の一撃から実力差を把握したフレデリカであったが、あえて昔を懐かしむようにオコーネルの攻撃を何度か受け止めていたのである。

 

「せあっ!」


 オコーネルが大振りの一撃を放つ。フレデリカは軽いステップだけでそれをかわした。オコーネルは肩で息をしており、額には大粒の汗が浮かんでいる。その目はフレデリカを睨んでいるものの、なにかすがるような意思をフレデリカは感じた。


(そんな表情するんじゃないよ。まったく……)


 大振りの攻撃を放ち態勢の整っていないオコーネルに向かって、フレデリカは大きく踏み込むと剣を突き出した。


「ぐふっ!」


 オコーネルの口から苦悶の呻きが漏れる。フレデリカの突きはオコーネルの腹部を捉え、剣は背中へと貫通していた。その剣を赤い鮮血が伝った。


 両軍の兵士たちが息を飲む。


「ありがとう、フレデリカ……」


 己の腹部に剣を突き立てたフレデリカの耳元でオコーネルが囁いた。


「勝手に責任を押し付けて逝かないでおくれよ」


 フレデリカはぶっきらぼうに言い放つと、剣を引き抜いた。オコーネルの体が力なく仰向けに倒れる。


「団長!」


「親父!」


 金獅子傭兵団員が声を上げ、アルバートが倒れたオコーネルに駆け寄り膝をつく。オコーネルの腹部から溢れる鮮血を見て、アルバートの顔が青ざめた。


「死なせたくなかったら傷を押さえてな」

 

 フレデリカが剣を納めながらアルバートの背中に声をかける。その声を聞き、青ざめていたアルバートの顔が怒りに赤くなった。


「……くそっ、親父の仇! 俺と勝負しろ、フレデリカ!」


 アルバートが剣に手をかけ、立ち上がろうとする。


 しかしその腕をオコーネルが掴んだ。


「よせ」


「親父……なんでだよ?」


 弱々しく呟くオコーネルにアルバートが瞳を潤ませる。


 しかしそんな父子の別れの時にフレデリカがズカズカと近寄ると、アルバートを思いっきりぶん殴った。


「ぐへぇ!」


「うるさい、クソガキ。全てをかけたあんたの親父に勝ったんだ。いまさらピーピー喚くんじゃないよ」


「て、てめぇ……」


 アルバートが殴られた頬を押さえ、仁王立ちするフレデリカを睨む。


「わからないのかい? あんたの親父は息子や団員たちを救うために、自分の命を差し出したんだよ。それを無駄にするつもりかい!?」


「なっ……!?」


 フレデリカの言葉にアルバートは目を見開く。そして遅ればせながらオコーネルが無謀な一騎打ちを申し出たわけを理解した。そして涙を浮かべ、倒れた自分の父親を見る。オコーネルは荒い息をつきながら、優しい笑みを浮かべた。


 そんな様子を見つめ、フレデリカはため息をつく。


「さっさと傷口を押さえな! うちのダークエルフは治癒魔法を使える。呼んでやるから言うこと聞けって言うんだよ!」


 フレデリカがアルバートにそう言うと、アルバートの顔が輝いた。


「ほ、本当か? 本当に助かるのか?」


「知らないよ! 黙ってやりな! もう一回、ぶん殴られたいのかい!」


 フレデリカが言うとアルバートは慌ててオコーネルの傷口を押さえた。


 しばらくしてダークエルフが二人、駆け付けてきてオコーネルの治療を開始した。


「スアード、十人連れてダークエルフの警護をしな。ダークエルフを殺されでもしたらアデルにどやされるよ」


 フレデリカがスアードに命じると、スアードは恭しく頭を下げた。


「承知いたしました。この”旋風”スアード、命に代え――」


「クレイマン、金獅子傭兵団の武装解除を」


 スアードの返事を最後まで聞くことなく、フレデリカはクレイマンに指示を出す。スアードは顔をしかめたが、すぐに気を取り直して護衛の編成を始めた。


 一方、クレイマンはフレデリカの言葉に小さく頷く。


「すでにその指示を出しております」


 クレイマンの言葉通り、神聖騎士団たちが金獅子傭兵団から武器を取り上げ一か所に集め始めていた。負傷者の応急手当ても始められている。


「頼んだよ。ある程度落ち着いたら、あたしは部下を連れて敵の本陣に向かうよ」


 フレデリカは損害状況の確認などに部下を走らせた。


「くそ、レネン様を落とすのはやっぱりお前らかよ」


 アルバートが悔しげに言う。しかしフレデリカは首を振り、肩をすくめた。


「あたしらの仕事はここまでさ。本陣を落とすための戦力は充分だからね。まあ、念のためだよ」


「はぁ?」


 アルバートは不思議そうにレネンの本陣を振り返る。レネンの周囲はわずかな護衛たちのみとなってしまっていた。しかしダルフェニア軍の姿は、まだその周囲には見えなかった。

お読みいただきありがとうございました。

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