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初めてのクエスト

 ソリッド州都オリムはヴィーケン王国で最も古い都市と言われている。中央平原からやってきた人々は川が流れるこの平原こそ新天地だと信じた。しかしオリム周辺こそ肥沃な土地であったが、しばらくバーランド山脈側へのぼって行くと途端にその大地は不毛となることがわかり、そこを「貧者高原」と呼んだ。


 カナンを出発したアデルたちは街道を馬車で進み、途中で中都市ミドルンを通過、二日ほどかけてオリムへと到着した。ポチもずっと荷物袋の中ではかわいそうなので、商隊の人間にはペットだと紹介し、移動中の荷馬車では外に出していた。街中で外に出さないのは珍しい生き物なので誘拐されてしまわないか心配だからだ。


 時々、ガルツから帰還してくる兵とすれ違うのでアデルは顔を隠してやり過ごした。


「やっぱりガルツへの街道は危ないですね」


 数人の兵の一団をやり過ごした後、アデルがほっとしながら言う。


「少し街道を外れて進むしかないか」


 イルアーナが商隊からもらった売れ残りの野菜をポチにあげながら答える。


「きゅー」


 いつもと同じ表情でポチはキャベツの芯をぽりぽりしていた。色んなものを与えているが、どうやらポチは好き嫌いがないらしい。というよりいつも同じ表情をしており、何を考えているかわからない。


 オリムに到着して商隊と別れると、アデルたちはヨダ川沿いに北東の小都市ハイランドに向かうことにした。ハイランドは貧者高原の手前にある都市で、貧者高原にある村々への玄関口のような都市だ。貧者高原には川が何本か流れており、それがハイランド周辺で合流してヨダ川となり、オリムの北側を通ってカナンの南側を経て黒き森から流れ出るリード川と合流して海へ流れる。


 草原と点在する林、そして流れる川。温暖なヴィーケン王国ではよく見られる光景だ。




 ハイランドは三千人ほどが住んでいる。町の規模はそれほど大きくはないが、危険な魔物に備えて城壁は立派なものを備えていた。数十人の兵士が警備に当たっており、領主のホプキン・タウシッグ伯爵に率いられている。


 アデルたちは門番に通行料を払って町へ入った。街並みはカナンに似ているものの人通りはあまり多くない。あまりこの町の景気は良くないようだ。


 ハイランドの冒険者ギルドはオリムのものに比べるとだいぶこぢんまりとしていた。アデルたちが扉を開けて中に入ると、ちょび髭を生やした人の好さそうな中年の男性が迎えてくれた。ただし武力は70台でただ者ではない。


「いらっしゃい。冒険者かい?」


「ええ、そうなんです」


「私はギルドマスターのニコラリーだ。ギルドマスターと言ってもここは一人で切り盛りしてるんだがね」


 ハイランドの冒険者ギルドは入ってすぐ酒場になっていて、掲示板や受け付けは奥の方にあった。酒場には3人組と、2人組の計5人が座っていた。3人組の方は腰に剣やダガーを差しており冒険者のようだが、二人組の方は一般人のような格好をしている。能力値的にもとても冒険者に見えなかった。


「ここは元々、酒場だったところを冒険者ギルドにしたんだ。この町じゃ冒険者も少ないし、一般の人にも利用してもらってる」


「へぇー」


 町の情勢によって冒険者ギルドの形態もそれぞれらしい。


「あんたら、ここじゃ用無しだぜ。なんせ俺たち、引く手あまたのリピーターズがいるからな」


 三人組のほうの一人が声をかけて来た。アデルが能力値を見ると、二人の青年が武力60台、武力50台の少女が一人と、言うほど強そうには見えない。


「何言ってるんだ、ギース君。失敗ばかり繰り返してるからリピーターズだろ」


「う、うるせぇ! 俺たちはハイランド一の冒険者だ!」


「君たちしかいないからね」


 二コラリーはため息をついた。


「まあ申し訳ないけど、ここは景気が悪いんだ。仕事も少ないし、あっても危険なものが多い。正直、冒険者が来るには良い町じゃないよ」


 ニコラリーが申し訳なさそうに言う。


(正直で良い人そうだなぁ……)


 アデルはそんなニコラリーの様子に和んだ。


「かまわん、そう都合よく依頼があるわけないことはわかっている。ところで部屋は空いているか?」


「もちろん空いてるよ。それと料理にも自信はある。ぜひ食べて行ってくれ」


「あぁ、頼む」


 イルアーナとニコラリーのやり取りを聞きながら、アデルは掲示板に貼られた依頼書を眺めていた。「ワイバーン退治」と書かれた危なそうな依頼書から目を離した先にアデルの注意を引いた依頼書があった。


「ニコラリーさん、あそこの依頼書……ハーピー退治って、あのハーピーですか?」


「あぁ、あのハーピーだよ」


「あのプルンプルンの?」


「そう、ボインボインの」


「へぇ~、そうなんですねぇ。あはは……」


「そうなんだよねぇ、ふふふ……」


 謎の笑みをかわすアデルとニコラリーをイルアーナは訝しげに見つめた。


「やめとけやめとけ、ハーピーは群れで行動してるし、倒そうにもいざとなったら空を飛んで逃げちまう。お前らがどれほど腕利きなのかしらねぇが、割に合う相手じゃねぇよ」


 会話を聞いていたギースが口を挟んできた。


 ハーピーは一見、人間の美女に見えるが、肩から先は鳥のような翼になっており、膝から下も鳥のようになっていて足も鉤爪になっている魔物だ。見た目に反して力も強く、人間を一人掴んで飛ぶことも可能だ。


「そんな……僕たちを待っている、おっぱ……困っている人がいるんですよ。放っておけません」


 アデルは使命感に燃えているフリをした。


「じゃあワイバーン退治も引き受けるかい?」


「それはやめておきます」


 ニコラリーの提案をアデルはきっぱりと断った。


「依頼主はここの領主か?」


「いや、東に行ったズールという小さい村だよ」


「依頼を引き受けて辞めたい時や失敗したときはどうすればいい?」


「特にギルドに断りを入れる必要はないよ。成功した場合のみ報告してくれ。なんせ失敗した場合はだいたい……報告できるような状態じゃないからね。辞めたい時も、成功するまでは他の冒険者も依頼を受けれるから、特に連絡は必要ない」


「最初から信用されてないというわけか」


「まあね。でもその方が君たちも気楽に依頼を受けられるだろ?」


「確かにそうだな」


 イルアーナが細かい確認をテキパキとしていく。


(まあ危なそうだったら、おっぱいだけ見て帰ろう)


 アデルは下心満載でこの仕事を受けることにした。


「依頼を受けるなら冒険者手帳を貸してくれ」


 ニコラリーに言われ、手帳を差し出す。


「ほう、カナンで登録したのか。あそこは雑だっただろ」


「ええ、まぁ……」


「悪く思わないでくれ。大きい町は冒険者も多いし、今は戦争があって兵役や税から逃れるために村を捨てて冒険者に登録する者も多いんだ」


「はぁ、なるほど……」


 ニコラリーは手帳に町の名前と依頼内容を書き込んだ。


「これでよし、と。依頼を達成したらここに完了印を押して報酬を払うから、また来てくれ」


 手続きを完了するとアデルたちは部屋に荷物を置いて夕食を食べた。新鮮な野菜と焼いた魚が美味しかった。後で食べたいからと、パンと野菜を少しもらって、部屋でポチに食べさせる。長い間、荷物袋に入れられていたことに抗議する様子もなく、ポチはご飯を平らげると自分で荷物袋に戻っていった。もうそこが自分の家だとでも思っているのだろうか。


 こうしてアデルたちはハイランドでの一日を終えた。

お読みいただきありがとうございました。


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