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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第七章 躍進の章

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ヨーク攻略1(ヨーク)

 ヨークの町はカナンとセルフォードの中間地点に位置する町だ。黒き森から流れるリード川の橋渡しから発展した町だ。セルフォードからの交易品やソルトリッチ州の北部にある銀鉱から取れる銀を運ぶルートとして重要な位置にある。また黒き森にも近く、木材の供給源である周囲の村を守る役目も担っていた。


「あっちぃな……もっと篝火減らそうぜ」


「仕方ないだろ。ダルフェニア軍は空からもやってくるって話だ」


 夜のヨーク城。監視塔の一つでヨークの守備兵たちが愚痴る。ヨークを囲む石壁やヨーク城には多くの篝火が焚かれており、夜間も上空も見張るように命令されている。長時間、上を向かなければならなくなった兵士たちの間では肩こりを訴えるものが急増していた。


「こんなとこにいきなりダルフェニア軍は来ないだろ。まずはカナンを落とさなきゃならねぇ。もしくは空から大軍が送れるって言うなら、こんなとこスルーしてセルフォードを襲うだろ」


 半分願望を込めてヨーク兵が言う。監視塔から見える周囲の情景は漆黒の闇に隠れていた。リード川と黒き森に囲まれたヨークの周囲にはほとんど人家が無い。


「でも空から来るのはハーピーだって噂だぜ。おっぱいプルンプルンの美女の魔物なんだとさ」


「そりゃいいな。だったらぜひ来て欲しいもんだぜ。がはははっ!」


「悪かったねぇ。ハーピーじゃなくて」


「えっ?」


 ヨーク兵の会話に突然、女の声が割って入った。ヨーク兵が声をした方を向く。そこには一人の美女の姿があった。しかしそこは監視塔の外。人が立てるような足場はないはずだった。


「お、おばけ……」


「違うよ、失礼だね」


 美女は驚愕するヨーク兵に向かって口から白い物を吐いた。


「な、なんだこれ……!?」


 たちまちヨーク兵の体が粘着力のある丈夫な白い糸に覆われる。顔まで覆われたヨーク兵はもごもご言いながら身をよじることしか出来なくなってしまった。美女の正体は下半身が大蜘蛛となっている女性型の魔物、アラウネのユキナであった。蜘蛛の足は城壁を音もなく登ることができる。城の奇襲にはうってつけの能力であった。


「中は頼むよ」


「任せて」


 ユキナの背後からべつの美女が現れる。しかしその美女の頭から生えているのは髪の毛ではなく、大量の蛇であった。いわゆるメデューサという魔物だ。


「おい、どうした!」


 下の階から非番のヨーク兵たちの声が聞こえる。メデューサは落とし戸を開けると、迷わず下の階へと姿を消した。


「なっ!? だ、だれ……うわっ!」


 落とし戸からフラッシュのようなまばゆい光が漏れる。メデューサは閃光を放つことで見た者を失神させる能力があった。


「制圧完了」


 ほどなくしてヨーク兵を縛り上げたメデューサの声が聞こえた。


「他も大丈夫そうだねぇ」


 ユキナが町の様子を伺う。他の見張りの兵も眠りの魔法を使えるサキュバスのエリス、並外れた肉弾戦闘力を持つラミアのジャミナなどによって制圧されていた。見張りが排除された場所からは縄が下ろされ、多くのダークエルフが潜入を始めていた。空からはハーピーの空輸によって一足先にアデルを中心とした最精鋭部隊がヨーク城に潜入しているはずだ。


「楽勝じゃないかい。アデルは何をあんなに怖がってるんだろうねぇ」


 ユキナは闇の中にそびえるヨーク城を不思議そうに見つめた。






 一方、薄暗いヨーク城の内部。いくつかの影がせわしなく動いていた。


鍵石キーロック!」


 イルアーナの魔法により兵士の寝ている部屋の入り口の石壁が歪み、扉の開閉を妨げる。他の数人のダークエルフもそれぞれヨーク兵が起きても外に出られないよう、扉を閉鎖していた。扉は頑丈に作られており、一般兵に支給されている槍やショートソードでは破壊が困難であった。


「よし、こっちは大丈夫だろう。アデルたちと合流するぞ」


 イルアーナたちは敵の一般兵を部屋から出られなくするためにアデルたちと別行動をしていた。アデルは最精鋭の部隊を率い、城主を捕縛するべく上階の制圧をしていた。


(作戦は順調だ。懸念すべき要素があるとすれば……)


 イルアーナは十名ほどのダークエルフと共に薄暗い廊下を駆ける。敵の抵抗を受ける前に順調に制圧が進んでいるにもかかわらず、同行するダークエルフたちの顔にも緊張の色があった。


 廊下の先には上に行く階段と左右への分かれ道がある。イルアーナたちは階段を目指して進んでいた。


「ぬっ……!」


 ダークエルフたちが一斉に足を止める。それは突如、現れた。


「うひょー、やっぱりこっち来て正解だったぜ!」


 通路の曲がり角から笑みを浮かべながら一人の男が姿を現す。手には酒の入った水筒と暗闇でなお輝くサーベルを手にしている。


「”宣告者”ウィラーか」


 その姿を見てイルアーナが呟いた。


(まったく気配が捉えられなかった……)


 奥歯をかみしめるイルアーナの額に汗がにじむ。しかし背筋にはゾクリという冷たさを感じた。精霊力を感じることができるダークエルフは人の気配にも敏感だ。しかし多くの人が生活する城の中では感知が鈍り、なおかつ武に秀でたものは気配を隠す術にも長けている。気配を隠すという行為は実は己から発せられる各種の精霊力を抑えるということであった。


「ダークエルフか。流石だな。二人しか間に合わなかったぜ」


「なに?」


 ウィラーの言葉にダークエルフたちが怪訝な表情になる。


「そこのあんたとそこのあんた。十秒だ。遺言を聞いてやる」


 二人のダークエルフを顎で指してそう言うと、ウィラーは酒をあおった。


「は?」


 ダークエルフたちは疑問の表情で互いに顔を見合せた。


「化け物が」


 その時、階段の方から低いつぶやきが聞こえた。薄暗い城内に金色の輝きが現れる。


 モデルのような優雅な歩き方で現れたのはエルフのメルディナであった。


「あ? エルフまでいんのかよ? すげーな、ダルフェニアは」


 興味深そうにウィラーはメルディナを見つめた。


「イルアーナ、急いでそいつらの治療をしろ」


 メルディナは腰に下げていた剣を抜き放ちながらイルアーナに指示を出した。


「……しまった、そういうことか! 二人を寝かせろ!」


 イルアーナは慌てて二人のダークエルフを床に寝かせる。二人の胸元にはいつの間にか大きな赤い染みが出来ていた。


「こ、これは……!?」


 刺された本人であるダークエルフが驚きの声を上げる。本人たちですら気付かぬ間にサーベルで胸を刺されていたのであった。すぐにダークエルフたちが治癒魔法をかける。


「ほぉん。俺の動きが見えたのかい。やるねぇ、あんた」


 ウィラーが感心の笑みをメルディナに向ける。


「ダークエルフと一緒にするな」


 メルディナは氷のような視線でウィラーを睨みつけた。


「メルディナ、気を付けろ! そいつの強さは異常だ!」


「黙って治療に専念しろ。ダークエルフが死ぬのは構わんが、アデルからお前たちの援護に行くように言われたのだ。お前たちが死んだら私が無能だと思われるではないか」


 イルアーナの言葉にメルディナが返す。しかし視線はウィラーを捉えたままであった。


「アデル来てんの? うっひゃー、前線に近いヨークの方で雇われて正解だったぜ!」


 ソルトリッチに傭兵として雇われに来たウィラーであったが、王都となっているセルフォードではなく、よりアデルと戦える可能性が高いと踏んだヨークで雇われていたのだ。しかし冒険者ギルド三傑と名乗れば”権王”レネンの元で仕えるように言われてしまう。そこでウィラーはわざわざ無名の傭兵としてヨーク城で雇われ、下層の一般兵と同じ区画で寝泊まりをしていたのである。


 ウィラーがヨーク城にいるという情報を掴んでいたアデルは最精鋭部隊をヨーク制圧に送り込んだ。しかし一般兵と同じ扱いを受けているとまでは知らず、ウィラーほどの人物であれば来客用の豪華な部屋で寝泊まりしているだろうと上階の制圧に本体を回してしまっていたのであった。


「残念だがお前がアデルに会うことはない。お前の相手は私だ」


「いいねぇ。積極的な女は嫌いじゃないぜ」


 メルディナとウィラーは互いに剣を構えると、対照的な表情で対峙した。


お読みいただきありがとうございました。

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