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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第七章 躍進の章

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戦力確認(ミドルン)

「あー、あちぃ。もっと涼しい時期に移動するんだったぜ」


 季節はすでに真夏だ。太陽の日差しが容赦なく降り注ぐ中、木陰に横になりながら”宣告者”ウィラーがぼやいた。


「ゼェ……ゼェ……」


 その視線の先では息を切らせながら冒険者チーム、リピーターズのギースとブライが素振りをしている。身体は汗だくになっていた。


「おいおい、剣は棒じゃねぇんだぞ。力任せに振ればいいってもんじゃねぇ」


 怠そうな声でウィラーは言うと、持っていた水筒から酒をあおった。


「ハァハァ……ウィラーさん、やっぱり北部連合じゃなくてダルフェニアに仕えたほうがいいんじゃないですか?」


 ギースが汗を拭いながらウィラーに声をかける。


「あ? そんなにいいとこなのか?」


「そりゃもう。美人は多いし、アデル王も立派なお方ですよ」


「へぇ! 会ったことあんのか!」


 ギースの言葉にウィラーが興味を示す。


「え? ええ、まあちょっとだけ……」


「やっぱ強えぇのか?」


「いや、戦ってるところは見たことないですけど……」


「そうかぁ、早く戦いてぇなぁ」


 ウィラーは仰向けに寝転がりながらアデルとの戦いを妄想していた。


「で、でもアデル王と言えばドラゴンを従える王ですよ! 止めたほうが……」


「そうだよなぁ。強えぇんだろうなぁ。楽しみだなぁ」


 ウィラーはほとんど話を聞いていなかった。


「俺もこれなしで戦えるような相手を見つけてぇんだよ」


 ウィラーは手にした水筒を振って見せた。


「それって……お酒ですよね?」


「あぁ。真面目に戦って相手になる敵がいなくなっちまったからな」


「は? 自分を不利にするために酔っぱらってるってことですか!?」


 ギースは唖然とした。隣でブライも呆れている。


「そうだよ。早く強い奴が現れてくれないと、このまま酒で死んじまうぜ。あっはっはっはっ」


 ウィラーは豪快に笑うと、再び酒をあおった。






 一方、ミドルン城に戻ったアデルは緊急会議を開いていた。


「状況はどうなってます?」


 アデルが部屋に入るなり尋ねる。部屋にはすでに主だったメンバーが集まっており、テーブルの上の地図を睨んでいた。


「北部連合軍はすでにカナンに帰還したよ」


 ラーゲンハルトがアデルに偵察情報を告げた。カナンから出撃した五百の北部連合軍はジブラの町で略奪行為を行い、物資をカナンへと持ち帰っていた。ジブラの住民の一部が難民となりミドルンへ向かっている姿も確認されている。


「どうして自分の領地で略奪なんて……」


 アデルは信じられないといった表情で言った。


「ソルトリッチからの補給が滞っているようだ。ラングールが交易どころではなくなったとはいえ、ソルトリッチ内の物資はまだ豊富にある。おそらくレネンが出し渋っているのであろうな」


 ダークエルフを取りまとめているギディアムが馬鹿にしたような表情で言う。人間の愚かさに呆れているようだった。


「それにガーディナの北部連合にはジブラを守るだけの戦力がない。略奪は戦争での常とう手段だ。うちにやられるくらいなら自分たちでと思ったんだろうね」


 ラーゲンハルトが肩をすくめて言った。


「ひどい……自分の国民から物を奪うなんて……」


 オレリアンが口に手を当てながら言う。


「物だけではありません。多くの住民が虐殺され、奴隷として連れて行かれた者もいるようです」


 ヴィクトリアが偵察情報を告げる。空中からの偵察の大部分を担っているのはハーピーだが、シャスティアもフレデリカのように会議の場は好かないようで、こういった報告はヴィクトリアが担当していた。そもそもハーピーは体の横に翼を広げるという体の構造上、眠るとき以外はあまり屋内にいたがらない。翼を畳んだままでも腕を使えるペガタウルスと違い、身体を自由に動かせない屋内はハーピーにとってストレスがたまる場所であった。


「自分の領民の生活を守ることこそ領主の役目であろう。自ら領民を殺すとは何事だ!」


 ハイランドの領主であったホプキンが憤慨する。


「ソルトリッチの北部連合軍は塩商人マーヴィーから没収した財産で傭兵を集めまくって戦力が増えてる。一度戦力をおさらいしておこう」


 ラーゲンハルトが地図上に戦力を模した駒を配置していく。ぱっと見でも神竜王国ダルフェニアの駒が多く、かつ形も様々だった。


「まずうちの戦力だけど、ガルツ要塞守備隊が千五百に各都市の守備隊合計千五百、さらに救帝兵団千五百人にフレデリカ隊百、まだ訓練中の騎馬隊が百ってとこ。これが人間ね。ダークエルフ隊が総勢五百人。オークの突撃隊が二百に歩兵が三百。ゴブリン弓歩兵が八百にケンタウルスが三百。さらに空中だとハーピーが百人にペガタウルスが十人。ここに加えて竜王や他のドラゴンの助力などがある」


 地図上の神竜王国ダルフェニアの上にはチェスのように様々な形の駒が並べられた。


「それとヴィーケン王国だね」


 地図上のヴィーケン王国の上に汎用歩兵を表す小さな駒がまばらに置かれた。


「カイバリーの北東、カナンとジベルとの中間地点にある都市ノーウェアに二千の兵を集めてる。ここなら北部連合にもうちにも睨みを利かせられるからいい位置だね。ただ北部連合同様、うちに隣接する地域の防衛はあきらめてる感じだよ。まともに兵がいるのはダルム州都ジベルの五百くらいだ。他にはカイバリーの王都守備隊が千人。ただしどちらもオリムへの奇襲失敗で大損害を受けて補充した直後だ。もはやヴィーケン軍はどうにか数だけ集めたってだけで練度も低く、正直言って戦闘に耐えれるレベルかどうかも疑わしいよ。後は各地の守備兵がいるけど、数が足らな過ぎて治安が悪化している。収穫期が近いのに人手を取られて庶民も怒ってるし、放っておいても国が崩壊しそうな勢いだね」


 ヴィーケン軍関係者が聞いたら卒倒しそうな酷評をラーゲンハルトが言った。


「ただ……基本的にヴィーケン王エリオットは消極的な戦略をとってくるけど、オリムの奇襲みたいに、ここぞというときは常識外れの奇策を使ってくる場合がある。用心はしておいた方がいいね」


 ラーゲンハルトの言葉に一同が頷いた。


「続いてガーディナ州の北部連合軍。州都カナンとその南のフォリッジの町を防衛線としていて、合計で千五百人ほどの兵がいる。他の守備は捨ててる感じだね」


 ラーゲンハルトは地図上のカナンに一個の大きめの駒を置いた。


「兵も半分ほどは徴集兵で兵数以上にうちとは戦力差がある。ただカークス直属の神聖騎士団百名は精鋭らしい。だよね、アデル君?」


「はい。前に見たときは強そうでしたね」


 ラーゲンハルトに話を振られ、アデルはそう答えた。


「んで、最後はソルトリッチ州の北部連合軍だ。州都のセルフォードに二千、ガーディナ州との州境ヨークの町に千の兵士を集中して配置している」


 ラーゲンハルトは地図上に二個の駒を置いた。


「こちらも半分は徴集兵や食いあぶれた傭兵で兵数程の戦力はない。強そうなのは金獅子傭兵団三百に、最近雇われたコヨーテ傭兵団が百人。コヨーテ傭兵団はそこそこ名の知れた傭兵団だけど、負け戦になるとさっさと逃げることがあるからあんまり評判は良くないね。あとは兵士や傭兵の中から腕利きを集め、”ソルトリッチ十二戦鬼”っていうレネン直属の隊を作ったそうだよ」


「ソ、ソルトリッチ十二戦鬼!?」


 アデルはその響きのかっこよさに食いついた。


「まあうちみたいに常識外れの強い人間がいるとは思わないけど、それでも頭に入れておいた方がいい。オリム三本槍とかも相手が悪かっただけで、狭い城内に精鋭部隊とか配置されると厄介だからね。それと最近、ヴィーケンから亡命してきた宮廷魔術師ルフとその弟子数名がレネンの元にいるらしい」


「きゅ、宮廷魔術師!?」


 アデルはその響きのかっこよさに再び食いついた。


「ふん。魔術師と言っても所詮は人間だろう。恐れるに足りぬ」


 エルフのメルディナが鼻を鳴らす。


「カザラス帝国にも宮廷魔術師隊がいて火球の術を見たことがあるけど、たしかに威力はそこまでじゃなかったね。ただし見た目が派手で、兵士に与える心理効果は結構なものだと思うよ」


 ラーゲンハルトが手で火球の弾ける様子を表しながら言う。


「……でもそれより怖いのは冒険者ギルド三傑の一人、”宣告者”ウィラーがソルトリッチに向かったってことだね」


「”宣告者”ウィラー?」


 アデルが聞いたことのない名に首をかしげる。


「アデル君知らないの? 対人最凶って言われる剣士だよ。強すぎて『普通に戦ったらつまらない』って剣技大会に酔っぱらってやって来て出禁になったんだ」


「そ、それはすごそうですね……」


 ラーゲンハルトの話にアデルは何とも言えぬ表情になった。


「しかし剣技大会では最強でも、一人の人間が軍隊相手に戦い続けることは不可能です。体力も集中力も持ちません」


 ラーゲンハルトの副官フォスターが冷静に話す。


「そうだね。それになんでか知らないけど、リピーターズの二人がウィラーさんと行動を共にしているらしい」


「ギースさんたちが?」


「そうそう。だから幸いにもウィラーさんの居場所は掴める。もし戦うことになったら注意しよう」


「そうですね」


 ラーゲンハルトの言葉にアデルは頷いた。そして戦力の確認を終え、会議は進んでいくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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