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アデルの墓

 翌朝、アデルとイルアーナは冒険者ギルドの掲示板を眺めていた。


 グリフォン、ヘルハウンド、ランドワーム……普通の冒険者が出会ったら死を覚悟するような名前がいろいろ並んでいる。


(冒険者が本職じゃなくてよかった……)


 二人はカザラス帝国内に向かうために、まずは隣のソリッド州の州都オリム方面でなにか仕事がないか探した。ペガサス捕まえてきたら金貨百枚やら、幻のドラゴンと言われるツチノコを見つけたら金貨千枚だの、どれだけ時間がかかるかわからないものしかない。さすがに国の最重要防衛拠点であるガルツ要塞までの安全は確保されているようで、その方面に行くついでに受けられるような魔物退治や護衛の仕事はなかった。


「ちなみにこういう魔物を倒して手に入った素材を売ってお金儲かったりするんですよね?」

アデルはイルアーナに尋ねた。


「例えば?」


「例えば……このグリフォンとかヘルハウンドとか……」


「毛皮があるなら動物と同じで、キレイに剝げるならそこそこの値段で売れるだろうな」


「ランドワーム……ってそもそもなんですか?」


「地中に住む魔物で……まあミミズのバケモノだと思えばいい。あれは売れるところなどないだろうな」


「ゴブリンとかオークは?」


「あんなものの何を売るのだ?」


「……じゃあ、魔物を狩ってウハウハ、みたいのはないんですね」


「ウハウハの意味が分からんが……魔物を倒したら儲かるのであれば、冒険者にやらせずに国を挙げて倒しまくるだろう」


「言われてみれば……」


 日を跨いでもアデルの冒険者への幻想崩壊は止まらなかった。


「何か気になる仕事でもあったか?」


 昨日の受け付けハゲとは違う男性ギルド職員が尋ねてくる。ただ、同じくらい凶悪な顔をしていた。こういう人間じゃないと荒くれ者たちを抑えられないのであろう。


「オリム方面に行こうと思ってるんですが、ついでに出来る仕事はないかと思って……」


「向こうはないなぁ。オリムのギルドに行けばあの辺での仕事があるかもしれないが……広場にいる商隊が昼頃にオリムに向かって出発するはずだから、護衛するならただで馬車に乗せてもらえるぞ。道中で何かに襲われたら、手当くらい出してくれるかもしれん。そのくらいの仕事はギルド通さず直接交渉してくれていいぞ」


(のっけてもらうだけでただ働きかぁ……まあ仕事がないものは仕方がない)


 ギルド員にお礼を言って、アデルとイルアーナは冒険者ギルドを出た。


「昼まで時間もあるし、隣の道具屋を見ていくか」


「あ、はい」


 イルアーナの後ろに続いてアデルも隣の冒険者用品の店に入る。盾や剣から、鍋や食器、靴下やパンツまで色んなものが売っている。


(でもお金ないんだよなぁ……早く働いてイルアーナさんに返さないと……)


 アデルは懐事情を思い出し、惨めな気持ちになる。


「何か欲しいものがあれば買うぞ、アデ……ルガード」


「ありがとうございます……」


 イルアーナの優しさが心にしみる。本名を言いそうになったことは気づかなかったフリをしよう。アデルはそう思った。


 商品を物色していると、にわかに外の大通りが騒がしくなる。


 窓から外を見ると、立派な鎧に身を包み、馬に乗った騎士の一団が町の外へと向かっているところだった。その中の一人、ひときわ豪勢な鎧に身を包んだ男にアデルは見覚えがあった。


「マイズ様……!」


 それはアデルを暗殺しようとした張本人、マイズ・エルフレッド侯爵であった。


名前:マイズ・エルフレッド

所属:ヴィーケン王国 神聖騎士団

指揮 72

武力 79

智謀 70

内政 63

魔力 31


 マイズが近づいてくるたびにアデルは古傷が疼くのを感じた。


「神聖騎士団……どこがだよ」


 アデルは小さく呟く。


「魔の巣食う森からこの国を守るから神聖騎士団らしいぞ」


 いつの間にかイルアーナも隣で隊列を眺めていた。騎士団と言っても爵位を持っているのはマイズだけで、他は立派な装備を身に着けてはいるが立場上は平民である。


「どうする? やるか?」


「いやいや、さすがにこんなところでは……マイズ様の隣にいるのは?」


「あれは側近のカークスだな」


「あの人が一番厄介そうですね」


 アデルはマイズの横にいる男に目を向けた。


名前:カークス

所属:神聖騎士団

指揮 77

武力 86

智謀 84

内政 50

魔力 15


 他の騎士たちも武力70前後の者ばかりだ。


(いつか彼らと戦う日が来るんだろうなぁ……)


 アデルは未来の敵になるであろう者たちを目に焼き付けた。




 店を出たアデルたちは町の広場に向かった。そこで路上販売をしていた商隊に話を付け、一緒にオリムまで乗せていってもらえることになった。


「ところで……アデルって人の記念碑が出来たと聞いたんですが」


「あぁ、あれだよ」


 商隊の男が指さした先。初めは花壇かと思ったが、近づいてみると手向けられたたくさんの花だった。


 その花に埋もれるように小さな石が置かれている。そこにはアデルの名と、ガルツ要塞を守って死んだ事が簡潔に彫られていた。


「これが国を守った男の扱いか」


 イルアーナが憤慨する。


「いえ、良かったです」


「なぜだ?」


「死んでもないのに、すごい豪華な石碑を建てられてたらどうしようかと……」


 アデルたちは記念碑に背を向け、商隊とともにカナンをあとにした。

お読みいただきありがとうございました。

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