閑話 名探偵アデル王の事件簿
全編下ネタを含んでおります。
苦手な方はお読み飛ばし下さい。
「いとーしさと、せつーなさを、兼ね備ーえてる、バンシー!」
ある日の城内。食料問題が解決し、少し余裕の出たアデルは鼻歌を歌いながら歩いていた。
「ん?」
その途中、アデルは廊下にぽっかりと穴が開いているのを見つけた……いや、穴ではない。なにか黒いものが廊下に落ちていた。
「なんだ?」
アデルは近付く。黒いものは三角形に近い形で、材質は布のようだった。それだけではなく、手の込んだ装飾で縁取られている。
「こ、これは……!?」
アデルは駆け寄ると恐る恐る手を伸ばし、落ちている三角形を手に取った。
「まさか……おパンティっ!?」
そう……それはパンティであった。一部の男性にとってはとんでもない価値があるものだ。浜田太郎の世界では古の漫画にも登場する。それは七つ集めると願いが叶うという竜玉が登場する漫画。その漫画では冒険の末に竜玉を集めることに成功した勇敢なオークが「ギャルのパンティを授けたまえ!」と叫び、願いが叶えられるという描写がある。パンティには一般的な願い事、つまり金銀財宝や不老不死に匹敵する価値があるということだ。
「い、いったい、誰のおパンティなんだ……?」
アデルはパンティを見つめながら脳味噌をフル回転させた。そう、一口にパンティと言っても、それが誰のものなのかによってその価値は一変する。
「黒ということはセクシー系美女か……? いや、しかし布面積的にはそこまで小さくない。清楚系もあり得るぞ……!」
「何をしている?」
「どひゃぁっ!?」
アデルは飛び上がり、慌ててパンティを隠す。振り向くと、イルアーナが不思議そうにアデルを眺めていた。
「どうした、そんなに驚いて?」
「い、いや、何でもないですよ。あははははっ!」
「変な奴だな」
誤魔化すアデルの瞳を、イルアーナが小首をかしげて見つめた。
(もしかしてイルアーナさんの……? 確かにイルアーナさんはダークエルフ。「黒」には繋がりがある……)
アデルは冷や汗を流しながら考える。パンティを落とすという失敗を犯した人物、つまり「犯人」が誰なのかを。
(いや、違う……イルアーナさんは「白」だ!)
アデルは首を振った。しばらく一緒に旅をする中で、アデルはほぼほぼ偶然、イルアーナのスカートの奥まで目に入ってしまうことがあった。その時のイルアーナはすべて「白」であったのだ。
(イルアーナさんが「黒」とは考えにくい……)
アデルはイルアーナは「犯人」ではないと確信した。
「ちょっと色について考えてまして……」
「色?」
イルアーナが怪訝な顔をする。
「あっ、いや……色々、考えてましてね」
「そうか。王ともなると大変だな。何か協力できることがあればいつでも言ってくれ。あまり根を詰めるなよ」
イルアーナが優し気に微笑む。
「は、はい。ありがとうございます」
去り行くイルアーナをアデルはドギマギしながら見送った。
「ふぅ……」
アデルはため息をつき、再びパンティを見つめる。
「いったい誰のパンティなんだろう……」
「パンティがどうしたって?」
「ぷふぇぇっ!?」
声をかけられ、再びアデルはパンティを隠す。声をかけて来たのはフレデリカであった。
「一国の王とはいえ、年頃の坊やだね。頭の中はパンティでいっぱいかい?」
フレデリカがからかうように笑う。
(お、落ち着け! 黒いおパンティとなれば、フレデリカさんは容疑者筆頭。「犯人」を探すうえで避けては通れない人物だ。これは飛んで火にいる夏のセクシー、ナマ足・魅惑の女騎士……!)
アデルはあわあわしながらもフレデリカに向き直った。
「そ、そんなことないですよ! それより……フレデリカさんはおパンティをプレゼントされるとしたら、どんなおパンティがいいですか?」
「はぁ!? プレゼント? パンティを?」
フレデリカは怪訝そうな顔になる。
「そ、そうです! もしプレゼントされるとしたらですよ! 敢えてですよ、敢えて!」
守勢に入ったら負けると判断したアデルは攻めの姿勢で言葉を畳みかけた。そのおかげもあってかフレデリカが思案顔になる。
「まあ……敢えてもらうなら、黒くてセクシーなやつかねぇ」
「ほうほう!」
アデルは前のめりになってフレデリカの言葉を聞いた。
「やっぱり女はそういう下着をつけると気分が乗るからね」
「なるほど! もう少し詳しく!」
アデルが鼻息を荒くしていると、フレデリカがアデルの顎に手を当て、妖艶な笑みを浮かべた。
「もっと詳しく知りたいなら……あたしを口説いて、実際に見てみることだね」
「むひょ~っ!」
フレデリカの圧倒的なセクシーに、アデルは顔面を強打されたかのように後ずさった。
「ま、あんたがその気ならいつでも相手してあげるよ」
フレデリカは肩をすくめる。
「か、からかわないでください!」
「ふふっ、かわいいねぇ」
慌てるアデルにウィンクをすると、フレデリカは去っていった。
「これは……間違いない、フレデリカさんは『黒』……『犯人』確定か!?」
興奮冷めやらぬ様子でアデルが呟く。
「『犯人』……何か事件ですか?」
「ええ、そうなんですよ。実はおパンティが……って、あどぶぱぁっ!」
考え事をしていたアデルは我に返ると、盛大に驚いて飛び上がる。
声をかけて来たのはカザラス帝国の皇女、ヒルデガルドであった。
「おパンティ?」
キョトンとした表情のヒルデガルドが首をかしげている。
「い、い、い、いやぁ。ちょっと大事件がありましてね」
アデルは慌てて平静を取り繕う。
「そうなんですか。ダルフェニアには色々事件が起こりそうですから、それをまとめるアデルさんは大変ですね」
ヒルデガルドがその美しい顔に慈愛に満ちた笑みを浮かべる。女神がいるとすればまさに目の前にいるような女性のことだろうとアデルは思った。
(ヒルデガルドさんは清楚系の頂点な上に、なんてったって”白銀”という異名だ。「黒」ではないだろうな……)
アデルはそう思いつつ、念のため尋ねてみた。
「ちなみになんですけど、ヒルデガルドさんは黒い下着なんて履きませんよね」
「え? 履きますけど……」
戸惑いつつ応えるヒルデガルドの返答に、アデルは後頭部を巨人が振るうウォーハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。
「なっ……なんですってぇ!? 本当ですか!?」
「ええ。激しく動いたときに……その……白い下着だと目立つので……」
ヒルデガルドは恥じらいつつ言った。
(な、なんてことだ……見えないようにするのではなく、見えたかどうかをわかりにくくすることで対応する……まさに女神のような優しさだ……!)
アデルは心の中で感涙を流した。
「わ、私の下着の色が事件と何か関係が?」
「ええ、そうなんです! 大変参考になりました!」
アデルは力強くヒルデガルドの手を握った。
「そ、そうですか……お力になれたなら良かったです。頑張ってくださいね」
ヒルデガルドは頬を赤く染めながら、逃げるように去っていった。
(これは大変なことになったぞ……もしヒルデガルドさんのおパンティなら国宝級だ!)
沸き起こる興奮を抑えながらアデルはこぶしを握り締めた。
「なに興奮してるの。キモっ。ゲロゲロザムライ珍道中の巻き」
「え?」
アデルがふんふんと鼻息を荒くしていると、廊下の向こうからデスドラゴンが歩いてくるのが見えた。隣にはデスドラゴンと仲の良い老女、ジョアンナも一緒に居る。
(待てよ……「黒」と言えばデスドラゴンさんじゃないか!)
アデルは衝撃の事実に気づいた顔になった。デスドラゴンは黒髪に女子高生の制服のような黒いブレザーと黒いブリーツスカート、それに黒いネクタイにニーハイソックスに革靴と、ワイシャツ以外全身黒のコーディネートだ。
アデルがポチに尋ねたことがあるのだが、竜王たちが人間時に来ている服は鱗や体毛などが変化したものらしい。とはいっても人間でいうところの髪の毛一本ほどのものであり、脱いだりしてもまったく体に影響はない。魔法での変身のため、どのような服装にするかは本人たちの自由だ。つまりデスドラゴンはこのコーディネートが好きで着ているということになる。
(「黒」が好きということは、おパンティも「黒」である可能性は限りなく高い!)
アデルは鋭く目を光らせ、デスドラゴンを見つめた。
「な、なによ、その目は。エクストリーム・ギガンティック・キモーション!」
デスドラゴンがたじろぐ。いつもは一軍女子を思い起こさせるデスドラゴンに対しておどおどしているアデルであったが、今日は様子が違った。
(ふふふっ……苦手な相手かどうかと、興奮するかどうかは別問題……いや、むしろ他の相手より興奮する可能性まである!)
アデルが謎の不敵な笑みを浮かべると、デスドラゴンは思わず後ずさった。
「あらあら。今日はなんだかいつもより凛々しくていらっしゃいますね、アデル様」
そんなアデルに優しく微笑みながらジョアンナが声をかけた。
「あ、ジョアンナさん。どうされたんですか?」
少し冷静さを取り戻し、アデルはジョアンナに尋ねる。
「それが……」
ジョアンナは俯きながら言った。
「お恥ずかしいのですが……この辺りで、下着を落としてしまいまして……」
「……は?」
ジョアンナの言葉にアデルは固まった。
「年甲斐もなく派手なものなので、慌てて探しに来たのですが……」
ジョアンナは顔を赤くして語った。
「もしかして……これ……ですか……?」
アデルは震える手で持っていた黒いパンティを差し出す。
「ああ、それです! ありがとうございます!」
ジョアンナはアデルが差し出した黒いパンティを手に取った。
「良かったわ。アデル様のような紳士的な方が拾ってくださって……」
「あははははは……」
真っ白に燃え尽きたアデルは乾いた声で笑いながら、頭を下げ去っていくジョアンナたちを見送った。
「そうだ……おパンティなんで最初から無かった……つまりノーパンだったんだ……」
アデルは目に見えて肩を落とすと、とぼとぼと歩き出そうとした。
「アデル様」
そこに凛とした女性の声が掛けられる。
「……ほえ?」
顔を上げると、そこにはヒルデガルドの付き人であり”盲目”と異名が付くほどヒルデガルドへの忠誠心が高い眼鏡美女メイド、エマがいた。
「エマさん、どうされました?」
アデルは覇気のない顔でエマに尋ねる。
「実は先ほど皇女殿下より、アデル様からどんな下着を履いているのかと質問されたとお話を伺ったのですが」
「……あっ」
アデルははっとした顔になり、エマを見つめる。
「どういう事情で我らが皇女殿下にそのような卑猥なご質問をされたのか……詳しくお聞かせ願えますか?」
眼鏡の奥で、エマの瞳が凶暴かつ冷徹な光を放った。
「ひ、ひぃっ!」
背筋が凍るようなエマの視線に、アデルはただただ怯えるしかなかった。パンティ・パニック・パラダイス。
お読みいただきありがとうございました。




