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旅立ち

 翌日、里の面々に見送られながらアデルは出発した。一緒に居るのはイルアーナとエイダ、そしてポチだ。3人はウルフェンに乗っており、アデルの家に着いたらエイダがウルフェンを連れて帰ることになっている。ポチは連れていくかどうか悩んだが、アデルのそばを離れようとしないので連れていくことにした。


 アデルはダークエルフ用に作られた黒い皮の鎧を貰って着込んでいた。さらに顔を隠すために目元を隠す革製の仮面ももらっていた。


 町では仮面の男と包帯まみれの女という怪しすぎる二人組になってしまうことになるが、イルアーナは「大丈夫だ」と自信満々に言っていた。


 それと風の精霊魔法で通信するためのネックレスを与えられている。このネックレス自体に風の精霊が宿っているわけではなく、あくまでも目印になるだけだそうだ。誰かがアデルにメッセージを届けたい場合は、アデルがいる方角にメッセージを託した風精霊を放つ。すると風精霊がネックレスを目印にアデルの元にやってきてメッセージを再生してくれる仕組みらしい。


 風精霊は感知範囲が広いのでだいたいの方向に放てばメッセージを届けてくれる。ただし風精霊の到着時に密閉された空間にいるとメッセージが届かないらしい。


(携帯電話みたいだな……)


 アデルは日本を思い出した。




 ウルフェンのスピードもあり、早朝に出発した一行は昼にはアデルの家の付近に到着した。アデルの父親がダークエルフを受け入れてくれるかどうかはわからないので、他の二人はポチとともに家の外で待つことになっている。


 アデルの家はドレイクが手作りした丸太組の粗末な家だった。慣れ親しんだ家のはずだが、ひどくみすぼらしく感じた。夏は暑く、冬は隙間風だらけ。不満な点だらけだが、アデルが人生の大半を過ごした、間違いなく彼の「家」だ。


「ただいま」


 アデルは肉体的には数か月ぶり、しかし精神的には前世の我が家の扉を開ける。


「……ア、アデル……!?」


 テーブルで食後のお茶を飲んでいたドレイクはアデルの顔を見ると驚愕のあまり立ち上がった。その勢いで椅子が倒れるがまったく気にしていない。


「父さん、ただいま」


 懐かしい顔だが、それはアデルが知るドレイクの表情ではない。記憶の中のドレイクはいつも無表情で、こんなに感情をあらわにした彼を見るのは初めてだった。


名前:ドレイク

所属:ファーザー

指揮 68

武力 120

智謀 73

内政 47

魔力 36


(所属がファーザーって……えっ、武力120!?)


 ドレイクのとんでもない能力値にアデルも驚愕する。イルアーナが普通の人間が黒き森に住めるわけがないと言っていたが、本当だったようだ。


「お前は……死んだんじゃなかったのか?」


 普通であれば子供が生きていたとなれば喜びそうなものだが、ドレイクは困惑した表情を浮かべていた。見ようによっては喜び、見ようによっては落胆の表情にも見える。


(変わらないな……)


 アデルはドレイクと過ごした日々を思い出す。ドレイクはいつも何を考えているかわからない男だった。感情がないわけではない気がするが、それを表に出さないようにしている。もしくは色んな感情が混ざり合った結果、無表情になっている。アデルはそう感じていた。


「カザラスに暗殺されたってことになってるけど、実際はマイズ様が僕を殺そうとしたんだ……でも、なんとか一命をとりとめたよ」


「そんな……いったいどうして……」


 ドレイクは心ここにあらずといった感じで、肩を落としてただテーブルを見つめていた。


「それで……また旅に出ようと思うんだけど……」


「お前が戦争に行くときに言ったはずだ。好きに生きろとな。ただし……」


 アデルの言葉を遮り、ドレイクは椅子を直しながら淡々と語る。


「ちゃんと死ね」


 直した椅子に座ると、ドレイクはアデルの目をまっすぐ見ながらそう言い放った。


「……わかったよ」


 アデルはさっき自分が入ってきたばかりの扉に手をかける。外に出る前に一度だけ振り返った。


「……いままで育ててくれてありがとう、父さん」


 うつむいたドレイクの表情はアデルからは見えず、アデルの言葉を聞いてどう思ったのか、そもそも聞いていたのかすらわからない。


 こうして短い再会は終わった。


「もういいのか?」


 意外なほど早く出て来たアデルにイルアーナは驚きながら尋ねる。


「ええ。顔も見れましたし……さあ、行きましょう」


 イルアーナは何か言いたげだったが、その言葉を飲み込んだ。

お読みいただきありがとうございました。

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