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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第六章 富国の章

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美女たち(ミドルン)

 会談が終わり、イルヴァたちはハーピーが送っていくことになった。北部連合と敵対するような発言があったため、一応安全を期してのことだ。マーヴィーたちを何日か監禁すればイルヴァたちが帰国するまでその情報が漏れることはないのだが、マーヴィーたちが何も悪い事をしていないのに監禁することをアデルが嫌ったため、こういった手段がとられた。空を飛べるとイルヴァも喜んでいた。


 そしてハイミルトの葬儀は二日目を迎える。異種族交流コーナーのハーピーやペガタウルス、ムラビットのブースはリピーターでごった返していた。逆にオークやゴブリンは暇そうにしている。もともと人気が無いのもあるが、彼らは今や街中でも見ることができるため、既に存在が浸透しつつあるとも言える。


 葬儀にやってくるのは男が多い。この世界でも兵士になるのはやはり男だ。ハイミルトの葬儀にやってくるのも徴兵経験のあるものが多かった。そんな事情からハーピーやペガタウルスなどの美女が人気になるのも仕方がなかった。


 その対応として異種族交流コーナーでは整理券を配布し、さらに時間制限を設けることにした。制限時間を迎えた場合には兵士が強制的に来訪者を引き剥がす。


(なんかアイドルみたいになってきたな……)


 ごった返す異種族交流コーナーを見ながらアデルは思った。ちなみに整理券を配布したことにより、待ち時間でついでにオークやゴブリンのブースに行くものが増え、混雑は平均化している。


「いらっしゃーい!」


 同じように混雑していたのはミドルン城の前に開店したばかりの酒場であった。カーンの名産であるワインを振舞っている。そこで働いているのもたくさんの美女――「魅惑の館」という娼館で働いていたジャミナたちだ。ジャミナたちの正体はラミアやサキュバスといった魔物であり、魔法で人間そっくりの姿になり働いている。


 人間の血を欲する彼女たちは、当初の計画ではここにキャバクラを作り、血を代金として客を楽しませるという健全な店舗とする予定であった。


 ところがダルフェニア軍内でどこからかラーゲンハルトから話を聞きつけた多くの血気盛んな男たちが志願兵として名乗り出た。そのため城内の一室に「献血コーナー」を作るだけで事足りてしまった。献血をした兵士はそこでジャミナたちとおしゃべりをしたりお酒を飲んだりすることができるという特典がある。


 そのためミドルン城前には現在、メイド酒場がオープンしている。ジャミナたちはミニスカメイド服とニーハイソックスで絶対領域を展開していた。


「なぜメイド服なのか?」


 メイド服での給仕を強く推すアデルにそう疑問の声が寄せられたが、実際にオープンしてからは、


「なるほど」


 と男性陣は感心している。女性陣はいまだに納得していない。ジャミナたちはこれまでもセクシーなドレスなどを着ていたため、むしろ露出度が低くなり「これで男性が喜ぶのかしら?」と心配していたが、「露出度=エロさじゃないんですよ!」というアデルの力説により押し切られた形となった。


 ジャミナたちには給仕をしながら町の人々や旅人から、神竜王国ダルフェニアへの不満や評判を聞き出すという任務も任されていた。一般人から血をもらう必要がなくなったことで、人間そっくりに化けられるジャミナたちは正体を隠したまま諜報活動を行うことができる。ジャミナたちを異種族交流コーナーに招かなかったのは、その存在を秘密にしておきたいというアデルの考えでもあった。


 ちなみにジャミナたちは今まで人間から血を吸う際、眠りの魔法で相手の意識を奪っていたためその正体は知られていない。事前に酒を飲ませたりリラックス効果のある香を嗅がせることで警戒心をなくし、魔法が効きやすい環境を作っていた。アデルたちが訪れた際に甘い香りが漂っていたのもそのせいだ。


 ちなみにこの酒場の店名は「アンラミアーズ」。カワイイ格好の女性店員がもてなしてくれる店、という意味だとアデルは説明している。


 神竜王国ダルフェニアの食糧事情もあり、あまり食事メニューは充実していないが、女性店員がパンにジャムでハートマークを書いてくれる「心臓パン」や、切り込みを入れたウィンナーを焼くことで切り込みが開き、たくさんの足が生えているように見える「クラーケンさんウィンナー」などが人気メニューである。


「ハイミルト将軍は僕らカザラス軍から見ても素晴らしい将軍でした」


 式典ではラーゲンハルトが聴衆に向かって演説をしている。二日目は「栄光の式」ということで、ハイミルトの功績を称える演説などがされていた。祭壇には昨日までハイミルトの遺品が飾られていたが、遺族に渡すためにキャベルナが持って行ってしまったため、今は石碑と宮廷芸術部に描かせた遺影しかなく、ちょっと寂しくなってしまっている。しかし大きな事件等もなく、二日目の式典も無事に終了した。


「ふぅ、明日も平和だといいなぁ」


 アデルは気が抜けた表情でミドルン城内を歩いていた。この世界に戻ってきて以来、怒涛の展開続きだ。日本での日々のように、しばらくぼけーっと過ごしたいと思っていた。


「あっ、アデルさん」


 廊下の向こうからやってきたハーヴィルの女騎士、オレリアンがアデルに気づき声をかけた。オレリアンは「せっかくだから国の運営の勉強をしろ」とウルリッシュに言われ、いろんな部署に顔を出して勉強をしている。能力の高いオレリアンは邪魔になることはなく、むしろ手伝いになると重宝がられていた。


「あ、オレリアンさん……」


 アデルはオレリアンを見る。


名前:クロディーヌ・パトリシャール

所属:ハーヴィル王国

指揮 74

武力 76

智謀 82

内政 79

魔力 19


(やっぱり同じ名前だなぁ……)


 アデルは昨日の話し合いの中で聞いた、ハーヴィル王家の名前がパトリシャールという家名であるというのが引っ掛かっていた。


「ちょうど聞きたいことがあったんです」


「えっ、ボクに? なんですか?」


 アデルの話にオレリアンが首をかしげる。今まで少年として過ごしてきていたが、年頃になり誤魔化すのが難しいほど美少女となっている。その瞳に見つめられ、アデルはドギマギとしながら視線をそらした。


「いや、その……たぶん勘違いだと思うんですけど、オレリアンさんってハーヴィルの王女だったりしませんよね? あはは……」


 アデルが笑い交じりに言う。しかしその言葉にオレリアンの表情が豹変した。


「わーっ、ダメです!」


 オレリアンはアデルに向かって突進すると、体ごとぶつけるようにアデルの口を塞いだ。勢いあまってアデルの体が壁とオレリアンに挟まれる。意外と大きなオレリアンのぱいレリアンがアデルに押し付けられた。


(こ、この柔らかさ……まさに、ぷりんセス!)


 オレリアンの手で口を閉じられていたおかげで、アデルのしょうもない言葉が世に放たれることはなかった。


「そ、それは絶対に内緒にしてください! というか、なんで分かったんですか!?」


 アデルの耳元に顔を寄せ、オレリアンは小声でまくし立てる。余計に体が密着し、アデルは悶絶した。


「あ、あの、なんと言うか……なんとなく、そう思っただけで……」


 体を押し付けられていることによる呼吸のしにくさと興奮により、アデルは絶え絶えに言う。顔も同様の理由により真っ赤になっていた。


「他に知っている人は?」


「い、いないです……」


 オレリアンの問いにアデルは反射的に顔を横に振ろうとした。しかしオレリアンが顔をアデルの耳元に近づけているため、オレリアンの頭に顔を押し付けるような形になってしまった。オレリアンの柔らかな金髪にアデルの顔が埋まる。


「あ」


 そこにポチが通りかかった。口には厨房でもらって来たらしいリンゴの芯を咥えていた。


「あ」


 アデルとポチが目が合った。そしてアデルは自身の状況を理解する。他人から見ればオレリアンと抱き合っているようにしか見えない。しかもかなり濃密に。


 ポチはしばし、ジト目でアデルたちの様子を観察する。アデルとオレリアンは頭が真っ白になり固まっていた。


「ふーん」


 そしてポチはそれだけ言うとスタスタと歩き去ろうとした。


「ふーんって何!? ポチ、ふーんって何!?」


 アデルは慌ててポチに駆け寄り、事情を説明したのであった。

お読みいただきありがとうございました。

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