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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第六章 富国の章

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美女の餌場(ミドルン)

 ジャミナの娼館「魅惑の館」で彼らの正体がミドルンの裏社会を仕切る「人消し鬼」だと知ったアデル。そしてさらにジャミナは半人半蛇の魔物、ラミアだと聞かされた。


「ラ、ラミアって……下半身が蛇の……?」


 アデルはスリットの入ったドレスから覗くジャミナの白い足を見て言った。


「あら、私の下半身が見たいの?」


「は、はい! ぜひ!」


 ジャミナの誘いにジェット噴射のような鼻息を出しながらアデルが即答する。


「魔法で変身しているのだ。見たって人間と変わらないぞ」


 イルアーナが不機嫌そうにアデルに言う。


「人間と変わらない……だったら余計に……」


「なに?」


「い、いえ! なんでもないです!」


 イルアーナの視線が鋭くなったのでアデルは慌てて首を振った。


「ふふ、残念ね。でも良かったわ、変身するにはかなりの魔力を使うから」


「あ、そうなんですか」


 ジャミナの言葉をアデルは意外に思った。ポチやピーコは変身するのに「ちょっと疲れる」程度だと聞いている。


(そりゃ体の構造をまったく別の物に変えるんだからな……すごい魔法なんだろうな……)


 やはり幼体とはいえ竜王は別格なのだとアデルは思った。


「ジャミナ、そういう重大な秘密を勝手に話さないでいただけますか?」


 エリスが横目でジャミナを睨む。


「まあ悪い方々ではないようですけど。あなたの下手な芝居にも付き合ってくれたみたいですし」


「下手な芝居って何よ。完璧だったでしょ?」


 ジャミナが口を尖らせるがエリスは無視した。


「領主のコルトが一緒にいるということはあなたがアデルで間違いないようですね」


 エリスはアデルを見据える。


「いい加減、お前たちが接触してきた理由を話したらどうだ。世間話をするためではなかろう?」


「逆にこんな美女たちが世間話するために声かけてくれたのなら嬉しいけどね」


 イルアーナの言葉にラーゲンハルトが茶々を入れる。


「これから話すところです。私はジャミナの補佐をしているエリス。種族はサキュバスです」


「サ、サキュバスですって!?」


 アデルが目を見開く。サキュバス――それは「実際に見てみたいモンスターランキング(浜田太郎調べ)」の堂々一位に輝く、それはそれは男の浪漫を掻き立てる存在である。


「男の精気を吸って生きるサキュバス……実際にいるんだね」


 ラーゲンハルトが興味深げに言う。


「そんなわけのわからないもの吸いません」


 エリスはラーゲンハルトの話を否定した。


「私たちは人間の社会に隠れ住み、人間の生き血を吸うのです。栄養や少量ですがマナも含まれていて効率が良いですから」


「それに簡単に人目のない場所で二人きりになれるしね」


 エリスの話に続いてジャミナがウィンクする。どうやらこの娼館は彼女たちにとって絶好の餌場となっているようだ。


「そ、それって、人間を食べたりするってことですか……?」


 アデルが不安げに尋ねる。


「私たちラミアやサキュバスは食べないわ。血を吸うだけ。アラウネやメデューサたちは食べるけどね」


 ジャミナが悪戯っぽい笑みを浮かべ、周囲の美女を見る。どうやらラミアやサキュバスだけでなく、いろいろな種類の女性型魔物が共存しているらしい。ちなみにアラウネは上半身が美女で下半身が大きな蜘蛛の魔物、メデューサは体は人型だが頭から無数の蛇が生えている魔物だ。


「食べる理由は主に殺した人間の死体の処理です。わざわざ人間を好んで食べるわけではありません」


 エリスが付け加える。


「まあ、新鮮だから安い肉よりはおいしいけどね」


 周囲の美女の一人がからかうように言った。


「殺した人間……というのはどういう理由で?」


 アデルが真剣な顔でエリスに尋ねる。


「この町の裏社会で悪い事――あなた方人間の基準にのっとっても悪事と呼べるようなことをする輩を殺したりします。さすがに誘拐や人さらいが頻発すれば衛兵が介入してくるかもしれませんからね。面倒は避けたいのです。どうせそちらが捕まえたところで死刑になるような者たち。こちらで有効活用しても問題ないでしょう」


 エリスが淡々と話す。


「それに変な薬とかバラまかれると、その血を飲む私たちにも悪影響があるしね」


 ジャミナが口を挟んだ。


「人間を食べる……そのことにあなた方人間は当然、嫌悪感を抱くでしょうが、それは同時に恐怖心でもあります。厄介者を処理すると同時に、今後同じようなことが発生することを防げる……効率的ではありませんか?」


「た、確かに……」


 エリス達の話にアデルはうなった。


「厄介者というが、お前たちとて人間からすれば同類なのではないか? まるで自分たちは悪くないと言っているように聞こえるが」


 イルアーナは相変わらず鋭い視線を美女たちに向けながら言う。


「ふふ、怖い顔ね。確かに私たちは馬鹿な男をだましてお金と生き血をもらっている。だけどこの辺りの治安を守り、貧しい人には施しを行ったり食事も提供しているの。だから税金みたいなものだと思って」


「お分かりかもしれませんが、ジャミナは明るくて嘘が付けない性格です。よくトラブルも起こしますが、この辺りでは有名人で敬愛されています」


 ジャミナを見ながらエリスが言う。アデルはジャミナに出会ったとき、町の住民がジャミナについて話していたのを思い出した。


(敬愛されてるかは知らないけど、有名人なのは確か……それで悪いことしてれば捕まってるだろうし、とりあえずは信用して大丈夫か……)


 アデルは一人納得した。


「そして噂のアデルくんがこのミドルンを統治すると聞き、私たちはあなたに接触することに決めたの」


「アデル……くん」


 女性から「くん」付けで呼ばれることに慣れていないアデルはちょっと照れた。


「私たちがあなたに接触すると決めた理由はふたつ。ひとつは異種族に寛容なアデルくんであれば私たちを受け入れてくれるんじゃないかという期待。もうひとつは今までみたいに隠れていても、異種族に詳しいアデルくんたちが来れば簡単に見つかってしまうかもしれないということ。いろいろ迷った結果、あなたに接触してみたの」


「私たちの希望は私たちの存在、活動を容認していただきたいということ。代わりに、私たちにできることがあれば協力いたします」


「な、なるほど……」


 ジャミナとエリスの話を聞き、アデルは考え込んだ。


お読みいただきありがとうございました。

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