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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第六章 富国の章

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二人の英雄(オリム郊外)

 一方そのころ、オリム郊外の空き地には木刀を打ち合わせる音が鳴り響いていた。


「ぐっ……!」


 苦悶の表情で”万年弟子”ヴィレムが片膝をつく。その後ろでは先に敗北した”盲目”のエマが戦いの行方を見守っていた。


「まだまだだな。カザラスのひよっこ共」


 今は亡国となってしまったハーヴィル王国の英雄”白獅子”ウルリッシュが訓練用の木刀を肩に担ぎ、不敵に笑った。


「次は私です。よろしくお願いします」


 ”白銀”のヒルデガルドが木刀を構え、ウルリッシュの前に立つ。ヒルデガルドたちは自分たちの剣の師匠であった”剣者”ルトガーの好敵手、ウルリッシュに手合わせを願い出ていたのであった。


「ほう……若いのに、ずいぶんと様になっておるな」


 ウルリッシュの顔から笑みが消える。


 ヒルデガルドとウルリッシュは木刀を突き付け合いながら対峙した。


(懐かしいな……)


 ウルリッシュはヒルデガルドの姿にルトガーの姿を重ね合わせた。


「はっ!」


 ヒルデガルドが渾身の突きを放つ。ウルリッシュはヒルデガルドの突き出した木刀に自分の木刀を当て方向を逸らすと、踏み込んでヒルデガルドの腹を木刀で打ち払った。


「うっ……!」


 ヒルデガルドがうめき声をあげ、膝をつく。


「すまんな。手加減できなかった」


 木刀を置き、ウルリッシュがヒルデガルドを心配し横にしゃがんだ。


「いえ……心配はご無用です」


 苦しげな声ながらもヒルデガルドは気丈に返事をした。


「それにしても……おぬしが携えている剣はルトガーの愛剣であろう? あやつは隠居でもしたのか?」


 ウルリッシュはヒルデガルドが腰に携えている剣――”覇剣”リヒトシュトラールを見ながら尋ねた。


「ルトガー様は……お亡くなりになりました……」


「なに? 病気か?」


 伏し目がちに言うヒルデガルドの言葉にウルリッシュは目を丸くした。


「違います。私が襲撃された際、私たちを守って……」


「奴が負けた? 敵はさぞ大人数であったのであろうな」


「敵の数は三倍ほどでした。ルトガー様は敵の奇襲による毒矢でお亡くなりになりました……」


「毒矢だと……ルトガーほどの男に対してそんな卑怯な手を使うとは……軍人の風上にも置けぬ!」


 ヒルデガルドはもちろん、ウルリッシュもそれ以上に悔しさに顔を歪ませていた。


「いったい、どこのどいつなのだ! ルトガーを殺したのは!?」


「それは……」


 ヒルデガルドは無意識にある方向に視線を向けた。そこには百人の部隊となったことで、指揮の訓練をするフレデリカ隊がいた。


「まさか……あやつか!」


 ウルリッシュはフレデリカの姿を見て、猛然と駆けだした。


「お、お待ちください!」


 慌ててヒルデガルドたちはウルリッシュを追いかけた。






「ほら、スアード! あんたの隊、遅れてるよ!」


 思い通りに動かない部隊にイライラしながらフレデリカは大声で叫んだ。剣の腕には自信があるフレデリカも指揮官としての能力はそこまで高いわけではない。古参の兵たちは組織に馴染めなかったならず者がほとんどだ。部隊としての統制が取れた動きなど、彼らが最も不得意とするものであった。


 しかし一度接敵してしまえば個の強さで敵を圧倒出来るのがフレデリカ隊だ。アデルもラーゲンハルトも彼らを他の兵のように通常の軍の一角とは考えてはいない。お行儀よく隊列の一部に組み込むのではなく、ここぞという状況下に投入することによって爆発的な戦果を挙げることを期待している。だからこそ精鋭を優先的に配置しているのだった。


 とはいえ部隊が思うように動かず、その「ここぞという状況」に間に合わなくては意味がない。フレデリカもそれはよく承知しており、最低限、部隊をスムーズに動かせるように悪戦苦闘をしていた。


「フレデリカ!」


 そこにウルリッシュがやってきた。後ろにはヒルデガルドたちもついてきている。


「あぁ? なんだい?」


 明らかに怒気を帯びているウルリッシュをフレデリカが煩わしそうに見る。


「わしと勝負しろ!」


「はぁ? なんであんたと戦わなきゃなんないのさ?」


 フレデリカは呆れたように言う。


「貴様がルトガーを卑怯な手で殺したと聞いた! あやつはそんな死に方をしてよい男ではない!」


「そんなことかい。だったらお断りだよ」


 怒るウルリッシュをおちょくるようにフレデリカは肩をすくめた。


「やはり正々堂々とは戦えぬか、卑怯者め!」


 ウルリッシュは挑発するように言う。


「馬鹿だね。戦えるわけないだろう? あんたはダルフェニアの正式な臣下じゃない。客人扱いなんだ。あたしがアデルの許可もなしにあんたをぶちのめすわけにはいかないのさ」


 フレデリカはそんなウルリッシュを諭すように言った。


「な、なんだと!?」


「あたしだって、慣れない指揮でたまった鬱憤をあんたで晴らしたいとこだけどさ。あたしはアデルに誓っちまった身だからね。なんだっけ? ほら、あれ……」


 フレデリカは後ろの部下たちに視線をやった。


「忠誠ですかい、姉御?」


「そう、それだよ。組織ってやつは色々めんどくさいね」


 傭兵であろうが雇われれば組織の一員であり、単に今までフレデリカが組織の指示に従ってこなかっただけなのだが、アデルの元では個人よりも組織を優先するというのがフレデリカの考えのようだ。


(あの”千”のサウザンドフレデリカが忠誠を……!?)


 それを聞いたヒルデガルドは驚いた。フレデリカと言えば金に目が無く命令無視も日常茶飯事、とにかく扱いづらい問題児というのがカザラス帝国内での評判だ。その口から「忠誠」などという言葉が出るとは夢にも思わなかった。


(この短期間でいったい何が……)


 ヒルデガルドが数か月前にアデルたちと別れたとき、フレデリカはあくまでもアデルを利用しているに過ぎなかった。この短い間にフレデリカにどういう心境の変化があったのか、ヒルデガルドには想像もつかなかった。


「ふん。剣はともかく、口の巧さは確かなようだな」


 ウルリッシュがフレデリカを見据えながら鼻を鳴らす。


「戦ったところであたしが勝つよ。あんたにもルトガーにもね。アデルに聞いてみればいい。あいつの人を見る目は確かだからね」


「なに……!?」


 フレデリカの言葉にウルリッシュは口ごもる。確かにアデルの人の強さを見る目が異常なことは、神竜王国ダルフェニアの幹部の中では常識となっていた。


 もはや何も言えず、ウルリッシュはただフレデリカを睨む事しか出来なくなっていた。その時……


「おじいちゃーん! アデルさんが帰ってきたよー!」


 オレリアンが遠くから呼びかける声が聞こえた。


「……わかった。互いの強さはカザラス軍をどれだけ倒せるかで証明しよう。それなら貴様も文句はあるまい」


「勝手にしな。無茶して軍の統制を崩すような真似はしないでおくれよ」


「わしを誰だと思っておる。たかが百人の指揮で四苦八苦しておる貴様に言われる筋合いはないわ」


「なっ……!?」


 痛いところを突かれ、むっとするフレデリカの顔を満足げに見つめると、ウルリッシュはオレリアンの方へと歩き去った。


「まったく……元気な爺さんだね」


 フレデリカは苦虫をかみつぶしたかのような表情でその背中を見送る。


 しかしその視線を遮るようにヒルデガルドがフレデリカの前に立った。


「なんだい、姫さん?」


 フレデリカは呆気にとられ、ヒルデガルドを見つめる。


「ルトガー様もウルリッシュ様も……もっとお若ければ、あなたになど負けはしませんから」


 ヒルデガルドはフレデリカを睨みつけた。


「だろうね。だけど今はあたしの方が強いって、あんたも認めてるってことだろ」


 フレデリカは肩をすくめる。


「私が言いたいのは、お二人とも偉大な人物であり、あなたはただ若いから勝てただけ。そのことをよくわきまえるべきだということです」


 ヒルデガルドはいつになく強い口調で言った。


「わきまえるのはあんたの方だよ」


 フレデリカは冷たい視線でヒルデガルドを見下す。


「名誉がどうのなんて言ってるのは、お偉いさんだけさ。戦場で使い捨てにされるあたしらみたいな兵隊は死んじまったら終わりなんだよ。卑怯だのなんだの、言いたければ言うがいいさ。何をしようが、生き残ったら勝ち。死んだら負け。それが全てさ。あんたも人を率いる立場なら、そのことを肝に銘じな。名誉なんてもののために兵士が死ぬことが無いようにね」


「っ……!?」


 フレデリカの言葉にヒルデガルドは何も言い返せず、押し黙った。人生経験も、死線を潜り抜けてきた数も違うフレデリカの言葉の重みに、ヒルデガルドは為す術もなかった。


 フレデリカはニヤリと笑い、踵を返して部隊の訓練に戻ろうとする。しかし何かを思い出したかのように、ヒルデガルドの方を振り返った。


「もしくは……アデルみたいに強くなりな」


「えっ……?」


 悔しさに俯いていたヒルデガルドはキョトンとする。


「あいつくらい強ければ勝ち方を選べるみたいだからね。あたしやあんたが今、生かされてるみたいにさ」


 フレデリカは手を振り、訓練へと戻った。


(もっと……強く……)


 取り残されたヒルデガルドはしばらく考え込むと、踵を返して走りだす。


「ヒルデガルド様!」


 エマとヴィレムが慌ててそのあとを追う。ヒルデガルドが目指したのはオリム城へと向かうウルリッシュの背中であった。


「ウルリッシュ殿!」


 ヒルデガルドに声をかけられ、何事かとウルリッシュとオレリアンは振り返った。


「私に……剣の稽古をつけていただけませんか?」


 ヒルデガルドの言葉にオレリアンは驚き、ウルリッシュは黙ってヒルデガルドを見つめていた。


 そしてしばらくの沈黙の後、ウルリッシュが口を開く。


「良かろう。ただし、『ルトガーはこうだった』などと口答えしたらぶん殴るぞ」


 ウルリッシュが不敵に笑うと、ヒルデガルドは深々とお辞儀をした。


 こうしてエマとヴィレムともども、ヒルデガルドは”剣者”ルトガーと”白獅子”ウルリッシュという、歴史に名を残す二人の英雄から剣を教わることとなった。

お読みいただきありがとうございました。

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