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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第六章 富国の章

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不義(ガルツ要塞)

 ヨーゼフたちを受け入れたアデルはさらに事情を聴いた。


 ローゼス王国の大商人であったヨーゼフはのちに皇帝となるロデリックの才覚に惚れ込み、経済的な後ろ盾となった。しかしロデリックが皇帝になるとその帝国主義に反対し、次第に距離を置いた。


 しかしヨーゼフの息子であるエイムントが商会の実権を握ると、妹を皇帝に嫁がせ帝国との結びつきを強める。爵位を買い貴族となったエイムントは家名をとったレーヴェレンツ商会を立ち上げその勢力を拡大した。ヨーゼフ商会はその始まりの地である実家の一商店だけとなり、ほそぼそと営業するのみとなっていた。


「もう隠居の身でしたからの。孫のために店も畳んでやってきたのですが……アデル様がお優しい方で安心いたしました」


 ヨーゼフが目を細めた。


「いえいえ、そんなことは……それより、ヒルデガルドさんはどうしてこんなにひどい目に遭わされるんですか?」


 アデルは憤った。


「やはりロデリック様がお気に入りの第二妃の子供たちに帝位を継がせたいから……なのでしょうな」


「ラーゲンハルトさんもひどい目にあってましたよね。同じ自分の子供なのにどうして……」


「それは……」


 ヨーゼフが難しい顔になる。しかし意を決すると口を開いた。


「あくまでも想像にすぎませぬが……第二子のユリアンネ様と第三子のラーゲンハルト様は不義の子供なのではないかと」


「えっ、不義の子供!?」


 ヨーゼフの言葉にアデルは驚いた。


「はい。ローゼスの王は娘であるフローリア様をロデリック様に嫁がせましたが、フローリア様は下級貴族にすぎぬロデリック様との婚姻に乗り気ではありませんでした。またロデリック自身には、そのころから懇意にしていたのちの第二妃マリエッタがおりました。第一子であるジークムント様がロデリック様の血を引いているのは外見的にも間違いありませんが、ユリアンネ様とラーゲンハルト様が生まれたころはロデリック様とフローリア様の仲は冷めておりましたし、外見的にも……」


 ヨーゼフは言葉を濁らせる。ロデリック王は浅黒い肌と黒い髪、瞳を持つデーライ人だ。一方、フローリアは白い肌と金髪碧眼のローゼス人である。ジークムントはデーライ人の特徴を有しているが、ユリアンネとラーゲンハルトの見た目はローゼス人のものであった。


「ジークムント様が生きておられればこのような事態にはならなかったのかもしれませんが、ジークムント様が亡くなったことでロデリック様のお心に色んな感情が芽生えたのかもしれませんな」


 ヨーゼフが遠い目をして語る。


「ヒルデガルドも外見的にローゼス人色が濃いですからな。そのあたりもロデリック様に好かれない要素なのかもしれません。また”剣者”ルトガー様の愛弟子であり、剣技大会での優勝経験もあります。国民の人気も高く、アーロフらを皇帝につける障害になると思われているのかもしれませんな」


 ヨーゼフがヒルデガルドに目をやる。ヒルデガルドは暗い表情で俯いていた。


「しかしアデル様、どうしてあなたはヒルデガルドに良くしてくださるのですか?」


「え? なんでって……まぁ、もともとは雇われたからなんですけど……」


 ヨーゼフの問いにアデルは口ごもる。


「私を暗殺から救ってくださったのもアデルさんたちなんです」


 ヒルデガルドがそう言うと、ヨーゼフが驚いた。


「なぬ? フレデリカ殿たちではないのか?」


 ヒルデガルドがヨーゼフたちに暗殺事件の顛末を説明する。


「なるほど、それでフレデリカ殿はアデル様の元へ……ふむふむ……」


 複雑な話を咀嚼するようにヨーゼフは考え込んだ。


「しかしそうなると、やはりアデル様はヒルデガルドのお味方ですよね?」


「まあ、敵対したいとは思ってませんけど……」


「慎重な物言いですな。まあ良いでしょう。私がヒルデガルドと交換するつもりで持ってきた食料とお金をアデル様に差し上げます」


「え、いいんですか!?」


 アデルは馬車の列を見て顔を輝かせる。根本的な食糧問題の解決にはなり得ないが、食料が底をついているガルツ要塞にとってはありがたい話だ。


「ただし条件がございます。アデル様には今後ともヒルデガルドにご協力いただきたい。ヒルデガルドは帝国内に有力な協力者が少ないですからな」


「え~と……出来る限りってことであれば問題ないですけど、僕らが帝国内でヒルデガルドさんに協力できることなんてそんなにあるんでしょうか……?」


 ヨーゼフの出した条件にアデルは戸惑った。


「すでにヒルデガルドの危機を二度も救ってくださっているではありませんか。それにもしヒルデガルドが帝国から追われるようなことがあれば、その逃亡先が確保できるだけでもありがたいことかと」


 ヨーゼフの言葉にヒルデガルドが頷く。


「私はアデルさんたちに危機を救っていただきました。なのに何のお返しもできずに心苦しく思っておりました。おじい様には申し訳ないのですが、いつか必ずお返しを……」


「かまわんよ。かわいい孫のためじゃ。ふぉっふぉっふぉっ」


 恐縮するヒルデガルドにヨーゼフが笑いかけた。


「じゃあ、ありがたくいただきます」


 アデルはヨーゼフの提案を受け入れることにした。


「それとできればわしらも、アデル様のところにしばらく御厄介になりたいのですがよろしいかな? ヒルデガルドの身も心配ですしのう」


「ええ、かまいませんよ」


 こうしてヨーゼフたちはしばらくアデルたちの元に滞在することとなった。その後、アデルたちは元々いたガルツ守備兵のみを残しオリムへと引き上げた。そして束の間の平和の中で、アデルたちは内政に励むことになるのであった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ずっと気になってたけど、 何故ヒルデガルドはイルアーナに惚れてるんですかね どうも言動を見てると自分を助けたのはアデルだと感じてるし、 実際フレデリカたちの放つ矢から助けたのはアデルで…
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