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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第五章 建国の章

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そして……(オリム城 イルスデン)

「あぁ、大丈夫ですかねぇ……お返事とか来るかなぁ……」


 アデルはオリム城の会議室でそわそわしていた。ヴィーケン王国と北部連合に書簡を送ってから数日、ずっとこんな調子であった。


「落ち着きなよ。女の子へのラブレターじゃないんだからさ」


 ラーゲンハルトがあきれ顔で言う。


 アデルたちは北部連合の領土を大きく奪い、カザラス軍を撃退し、ヴィーケン軍も撃退した。しかし国内問題が山積みの神竜王国ダルフェニアも戦争どころではない。そこでラーゲンハルトの提案で外交での時間稼ぎをする計画が立てられた。


 まず前提として、神竜王国ダルフェニアはカザラス軍からヴィーケンの民を守るという目的を持っている。そして本来その役目を担う立場であるヴィーケン王国はその役割を果たしておらず、北部連合は民を裏切り自分たちの保身に走ったと非難した。


 そこでヴィーケン王国に対しては神竜王国ダルフェニアを独立国として承認すること、またヴィーケン王国の代わりにカザラス軍を追い払った功績として金銭と食料の要求をした。


 北部連合に対しては武装解除と首謀者となった貴族たちの身柄の引き渡しを要求し、そしてその領土はヴィーケン王国と神竜王国ダルフェニアで分割すると伝えた。


 ヴィーケン王国はオリムでの大敗から、少なくともしばらくの間は神竜王国ダルフェニアに対して攻めては来ないだろうと思われた。ヴィーケン軍も立て直しの必要性があり、互いに交渉を引き延ばすことによって利益があるというのがラーゲンハルトの考えだ。


 北部連合に対しては最初から相手が要求を聞き入れるとは思っていない。ヴィーケン王国と神竜王国ダルフェニアが手を結ぶ可能性をほのめかすことで、北部連合の動きを封じることが目的だ。神竜王国ダルフェニアが今後カザラス帝国と戦っていくうえで、背後にカザラスと結びついている勢力があることは望ましくない。北部連合に関しては滅ぼすしかないというのがアデルたちの結論だった。


 ヴィーケン王国と北部連合が共闘し神竜王国ダルフェニアに攻めて来るという最悪のケースはないと判断された。レイコがいる以上、ヴィーケン王国は神竜王国ダルフェニアには攻めて来ないだろうし、神竜王国ダルフェニアと同じくカザラス帝国と協力関係にある北部連合の存在はヴィーケン王国にとっても容認しがたいものである。


 可能性があるとすればヴィーケン王国がカザラス帝国側に付いた場合のみ北部連合との共闘が考えられるが、ホプキン、コルト、ジョアンナら元ヴィーケン王国貴族たちの話によるとそれはないとのことだった。エリオット王はヴィーケン王国の独立にこだわっており、何度も帝国からの使者を追い返しているという話であった。


「まあ心配しても無駄なんだし、山積みの内政問題片付けようよ」


「そ、そうですね……」


 ラーゲンハルトの言葉にアデルは頷いた。


「アデル様、よろしいですかな?」


 コルトが手を上げる。コルトはミドルンをアデルたちに譲り渡し、神竜を祭る教会組織を作るために動いている。


「食料不足ということでしたが、ミドルンには保存がきく食料をため込んでいる商人がたくさんおります。戦争が続けば続くほど値上がりしますから、一番高く売れるタイミングを見計らっているのでしょう。彼らから食料を徴収しましょう」


 コルトが提案する。数日前まで領主としてそういう商人たちから袖の下をもらっていた立場だったのだが容赦はなかった。


「徴収は気が引けますね……適正価格で買い取りましょう」


 アデルの言葉に一同が頷く。またオリム、ハイランド、ルズレイ、カーン、ミドルンでフレデリカと共に降伏した民間人の受け入れ人数などが決められた。元カザラス兵たちはガルツ要塞に駐留している。互いに激しく戦ってきたカザラス兵とガルツ兵が同居するという奇妙な空間となっていた。


「オリム城の修復もしないといけません」


 オリムの守備を担当していたロニーが進言する。


「ミドルンを首都にしちゃうのもありだと思うよ。ヴィーケン内のどこに行くにも便利だし、もしカザラス軍にガルツ要塞を突破された場合、次に守りやすいのは川と山に挟まれたミドルンだ。オリムよりあらゆる点で優れてると思う」


「あー、なるほど……」


 ラーゲンハルトの提案にアデルがうなる。オリムはヴィーケン王国で建設された最初の都市であり、その伝統からソリッド州の州都となっていたが、カイバリーが首都となり他の町が発展していくとオリムはその存在感を失い、ガルツとカイバリーを結ぶ街道沿いにあるカーンやミドルンの方が発展していった。


「しかしオリム城を壊れたままにしておくわけにも行かないでしょう。やはり城は住民の心の拠り所ですから」


 ロニーが力説する。どうやら思い入れが出来たようだ。


「もちろん。あくまでもミドルンに首都を移しちゃえば、後回しにできるって話だよ」


「城だけではなく、神殿のこともお考え下さい。何と言ってもこの国の守り神は神竜様でございますから」


 今度はコルトが力説する。すっかり神竜の熱狂的な信徒となってしまったようだ。


(お金持ちが精神的に不安定になったら急に宗教にハマったりするけど、こんな感じなのか……)


 アデルはそんなコルトの姿を見て思った。


「確かに国として神竜を信仰すると言った以上、神殿も作らないといけませんね」


 アデルは頷く。


「グッズ展開の準備は順調みたいですし、信者の獲得も期待できそうですよ」


「ぐっずてんかい……?」


 アデルの謎の言葉にコルトがポカンとした。


「ただ……なにはともあれ、まずやりたいのはハイミルトさんのお葬式です」


 アデルの言葉にまた一同が頷く。ハイミルトの功績は敵側にあった者も認めるところであった。その遺体はガルツ要塞に埋葬されている。オリムへの襲撃があったため、ちゃんとした葬儀を上げることもできずガルツを離れてしまったのがアデルの心残りとなっていた。


「ハイミルトさんはダルフェニアにとっても英雄です。国を挙げて、盛大に弔わせていただきましょう」


 アデルは椅子の背もたれに体を預け、遠い目をして言った。






 一方そのころカザラス帝国の帝都イルスデンでは、英雄アーロフの功績を称え勲章授与式が行われていた。


「第一征伐軍団長、アーロフ・カザラス。病床の皇帝ロデリックに代わり、名誉勲章を授けます」


 謁見の間に”影の皇帝”ユリアンネの美しい声が響き渡る。ロデリックの長女であり帝国第二宰相でもあるユリアンネが代理として玉座の斜め前に立ち、アーロフを呼び寄せた。


 居並ぶ貴族たちが見つめる中、アーロフはユリアンネの前に進むと恭しく膝まづいた。


「姉上……これは一体どういうことですか?」


 顔を下げたままアーロフは姉であるユリアンネに問う。貴族たちには聞こえぬ程度の小声であった。


「これ以上、皇帝の一族の名を穢すわけには行きません。それに小国ヴィーケンに惨敗したなどとあっては我が国の体制そのものに亀裂が入ります。あなたも察しなさい」


 アーロフに箱に入った勲章を差し出しながらユリアンネが答えた。


 第五次ガルツ攻略戦。エルフの偵察不足により、新たな防壁が築かれたこともわからぬままアーロフ率いる第一征伐軍は開戦せざるを得なかった。第一征伐軍はダルフェニア軍の奇襲やドラゴンによる攻撃をかいくぐりつつ、防壁の突破に成功。


 しかしようやくガルツ要塞に攻め入ろうとしたとき、ダルフェニア軍は卑怯にも先陣を任されていたヒルデガルドを捕縛して人質に取り、カザラス軍の攻撃を封じた。アーロフは一方的に攻撃されながらも、その類い稀な軍才により、たった五千人の被害でその絶望的な状況から第一征伐軍を脱出させた。


 ヒルデガルドさえ捕まっていなければ、今回のガルツ攻略は成功していたであろう。今回の戦いの結果を軍部はそう発表した。


 ヒルデガルド隊三千人は一般人や、すでに軍を除隊した兵士として扱われ、記録には残されなかった。敗戦の責任をエルフやヒルデガルドに負わせ、アーロフは逆にカザラス軍を壊滅から救った英雄として扱う。それが今回のカザラス帝国の決定であった。


「……私にピエロになれと?」


 屈辱と憎しみが入り混じった表情でアーロフはユリアンネを睨む。


「どんなに愚かなピエロでも八千人も味方を傷つけないわ」


 ユリアンネは押し付けるようにアーロフに勲章を渡すと、手を取って立ち上がらせた。アーロフの背中側しか見えていない貴族たちは拍手する。


「父上があなたをかばうのもこれが最後です。肝に銘じなさい」


 貴族たちの視線が向く中、ユリアンネは笑顔のまま辛らつな言葉をアーロフに浴びせる。こうして勲章授与式は一見、つつがなく終了した。






 神竜王国ダルフェニアを囲む国々はそれぞれが打撃を受けた。周囲の国々は皆、神竜王国ダルフェニアの実力を測りかねており、次なる攻撃をためらっている。アデルたちは世界の注目を浴びながら、束の間の平和の間に国の基盤づくりに励むのであった。

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