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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第五章 建国の章

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臥竜王(オリム周辺)

「ひゃぁぁっ、大変だ、大変だっ!」


 ホプキンは意味もなくオリムの会議室を歩き回る。


「ホプキン様、落ち着いてください」


 オリムの防衛を任されているロニーはややイラつきながらホプキンに言う。ダルフェニア軍の中での上下関係はあやふやだが、ロニーは伯爵であったホプキンに対しては敬語を使っている。


「落ち着いていられるか! ヴィーケン軍が攻めてくるなど聞いておらん! ついさっきまでアデル様がカザラス軍に勝ったと聞いて喜んでいたのに!」


 オリムはアデルのカザラス軍撃退を聞きお祭りムードであったが、その直後にヴィーケン軍が迫っていると聞き、そのムードは急変した。


「ホプキン様はハイランドに戻られてはいかがですか」


「い、いや、国家の危機を放り出して自分だけ安全な場所に逃げるなど……ま、まあでもちょっとだけなら……」


 迷い始めるホプキンを無視し、ロニーは考え込む。


(しかし、なぜオリムなのだ……カザラス帝国にガルツ要塞が落とされれば、オリムでカザラス軍を迎え撃つことなどできぬだろう……)


 ヴィーケン軍が迫っている情報はダルフェニア軍も把握していた。しかしその動きはミドルン、カーンを無視してガルツ要塞に向かうか、もしくはミドルン、カーンを落としながらガルツ要塞に向かうか。そのどちらかと思われていた。ガルツ要塞を失えばヴィーケン軍にカザラス軍を撃退する手立てなど残されていない。ヴィーケン軍の目的地はガルツ要塞以外に考えられない。それが常識的な判断であった。


「ヴィーケン軍の動きはどうなっているのですか?」


 ロニーはダークエルフの一人に尋ねた。


「まっすぐこちらへ向かっている。間もなく視認できる距離になるだろう。もうすぐ陽が落ちる。恐らく夜明けとともに攻撃をしてくると思われる」


 ダークエルフが情報をまとめ報告する。


「アデル様たちは?」


「急ぎ戻ってきてくださるだろうが、騎乗兵だけでも一日はかかるだろう。歩兵部隊は二、三日といったところか」


 ダークエルフの言葉にロニーはため息をつく。


「兵を広場に集めろ」


 ロニーは副官に指示を出す。副官は敬礼をすると会議室を出て行った。


「レイコ様のお力は借りられないのですか?」


 ロニーはダークエルフに尋ねる。ダークエルフは首を振った。


「やれやれ……とんだ神竜様だな……」


 ダークエルフたちや士官の間では、レイコが戦力として期待できないということは共有されている情報だった。


「とにかく時間を稼ぐしかない。アデル様のお帰りを待ちましょう」


 これといった良案が出ることもなく、会議はロニーの一言で締めくくられた。


(降伏するのも選択肢か……)


 廊下を歩きながらロニーは考える。しかし途中で頭を振った。ロニーは外に出る。


 そこにはロニーの指示により守備兵たちが集まっていた。不安げではあるが、皆闘志を奮い立たせロニーを見ている。


「聞け、兵士たちよ! 敵は千五百のヴィーケン軍、対してこちらの兵数は二百。状況は絶望的だ! そう思うか!?」


 ロニーが大声を張り上げ、兵に尋ねる。


「思いませんっす!」


 同じく大声を出して答えたのはヒューイだ。アデルに直談判をして軍に入った彼は、平均より高い指揮の能力値があったため小隊長に任命されている。


「その通りだ!」


 ロニーは不敵に笑った。


「アデル様は三万もの精強なカザラス兵を撃退した! 我らの相手はたった千五百、しかも臆病者のヴィーケン兵だ! やつらはガルツ要塞に押し寄せるカザラス兵に恐れをなし、閉じこもっていた! そのまま臆病者として過ごせばいいものを、奴らは卑怯にもアデル様がガルツ要塞に救援に向かった隙を突き、我々の町を攻撃しようとしている! 臆病で卑怯なクズどもだ!」


「その通りだ!」


 ロニーの言葉に兵士の間から同意の声が上がる。


「アデル様は急ぎ軍をこちらに戻してくださっている! 恐れることはない! 祝勝会の準備をしてアデル様をお迎えするぞ!」


「おう!」


 兵士たちが勇ましくときの声を上げる。


(北部連合の時のような形ばかりの鬨の声ではない……劣勢にもかかわらずこれだけの士気。ダルフェニア軍は強いぞ……)


 ロニーは兵士たちの姿を見て確信した。




 アデルたちはウルフェンに乗り、オリムへと急いでいた。ガルツ要塞の指揮はフォスターに任せ、ラーゲンハルトやヒルデガルド、フレデリカ等、主要メンバーも馬に乗り同行している。プニャタらオークたちも負傷者を残して百騎ほどが後ろについてきていた。


「なんでヴィーケン軍がガルツを放っておいてオリムへ!? まさか僕らが勝ったことがもう伝わってるんですか!」


 アデルがウルフェンを走らせながら叫ぶ。


「向こうが僕らと同じかそれ以上の情報伝達能力を持っている可能性はあるけどね! でもヴィーケン軍は進軍速度が遅くなるにもかかわらず、投石機をわざわざ持ってきていた! 最初からオリム攻略が目的だった可能性もあると思うよ!」


 ラーゲンハルトが馬から叫んだ。


「ガルツ要塞を捨ててオリムを攻略だと!? ヴィーケン王は気が狂ったのか!」


 イルアーナがラーゲンハルトの話を聞いて言った。


「かもしれないけどね! でも両方取るつもりだったのかもしれないよ! だとしたらアデル君は相当、信用されてるね!」


「はあ? い、いったいどういうことですか!?」


 ラーゲンハルトの言葉に、アデルはただただ困惑するしかなかった。




「ダルフェニア軍がカザラス軍を打ち破っただと!?」


 陣の中でキャベルナは伝令の報告を聞き驚いた。ダルフェニア軍がガルツ要塞に向かったことは掴んでいたが、その後の戦況の情報は入っていなかった。いまダルフェニア軍が勝利したことを知ったのも、オリムの冒険者ギルドからの情報提供を受けたからだ。


「兄上の戦略眼はやはり曇っていなかったということか……」


 国内の停滞とカザラス軍の脅威。それに対して明確な対抗策を打ち出せないエリオット王に対しては国内でずっと批判がくすぶっていた。それが北部連合の離反を招いたりもしたのだが、キャベルナ総帥やブルーノ宰相等の重鎮はエリオット王を信頼し続けてきた。”臥竜王”エリオット、それが彼の力を知る者たちが呼ぶ名である。


「まさか本当にアデルがカザラス軍を破るとはな」


 オリム城を見つめながらキャベルナが唸る。


 エリオット王の作戦はこうだ。過去の行動からして、アデルがガルツ要塞の防衛に向かうのは間違いない。そしてアデルがカザラス軍を打ち破るであろうと予測した。その隙をついてヴィーケン軍はオリムを攻略するというものだ。


 最大の脅威であるカザラス軍の対処をダルフェニア軍に押し付け、自分たちはその恩恵を受けつつ領土まで獲得しようというのである。成功すれば、ヴィーケン軍はソリッド州を奪還、ダルフェニア軍はガルツ要塞に押し込まれることになる。ダルフェニア軍はカザラス軍への盾にされるばかりか、物資の自給が出来ないガルツ要塞ではすぐに干上がってしまうだろう。交渉次第ではそこでダルフェニア軍を降伏に追い込める。もし成功すれば一挙に領土を回復できる、まさにヴィーケン王国にとって起死回生の一手であった。


「全軍に伝えよ。夜明けとともに攻撃を開始する。見張りを厳にし、交代で休息を取れ」


 ダルフェニア軍の主力はほぼ出払っており、オリムには人間の兵士二百とダークエルフが数人しかいないという情報もキャベルナには伝わっている。総攻撃をかければアデルたちが帰還する前にオリムを攻略することも難しくはないと判断していた。


「神竜の加護とやら……どれほどのものか見せてもらおうか」


 オリム城を睨みながらキャベルナはそうつぶやいた。

お読みいただきありがとうございました。

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