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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第五章 建国の章

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カゴ(マザーウッドの里)

 今は雨は止んでいるものの、最近の雨続きのせいで森の濃い匂いが充満している。鬱蒼とした森の中では少し風が吹いた程度では空気が動かない。枝やクモの巣を払いながらアデル一行は黒き森の中を突き進んだ。アデルに同行しているのはジェラン、ポチ、そしてイルアーナと数人のダークエルフだ。全員がウルフェンにまたがり(ポチだけアデルと一緒に乗っている)、最短ルートを走り続けていた。


「カエルの鳴き声がうるさいですね……一角蛙かな?」


 一角蛙は猫くらいの大きさの蛙で、頭に鋭い角が生えている。そして跳躍と共に獲物にその角を突き立てる厄介な蛙だ。


「アデル、レイコにあげるの、蛙でもいいと思う」


 アデルの前に座ったポチがつぶやく。


「蛙?」


「ん。鳥と似たような肉質だから」


「確かに……」


 アデルも子供のころから一角蛙は食べていた。しかし上半身には骨が多く、食べるのは主に足の部分だけである。


「雨続きで一角蛙もいっぱいいると思うから、捕っておいてもらうか……でも大きさの割に食べれるところ少ないよね」


「なんで?」


「なんでって……骨が……」


 アデルはそこまで言って思い出した。ポチが大抵のものはバリボリと食べてしまうことを。


「……レイコさんも骨とかあっても食べられるの?」


「当たり前。フェンリルがいちいち骨とか取って上げてたと思う? わたしよりアゴも強いし」


(確かにレイコさんが蛙一匹丸ごと食べてくれるなら、だいぶニワトリは節約できるな……)


 そう考えたアデルには、蛙の鳴き声が響く薄暗い森が宝の山に見えた。




「ダーリン!」


「ハニー!」


 出迎えたマティアとジェランが抱き合う。マザーウッドに到着したアデルたちは疲れたウルフェンを里にいたものと交代させた。また、ゴブリン・オークと交渉に行っている間に出来る限り一角蛙を捕まえておいてもらうようお願いする。


「アデル君、そういえばお父様から預かったものがあるの」


 マティアがアデルに向かって言う。


「え、僕にですか?」


 気まずく目をそらしていたアデルは驚いた。


「ええ、こっちに来て」


 マティアについてアデル一行はオークの鍛冶場がある方へ向かう。そこには牢屋のようなものが置かれていた。各片が2mほどの四角い形だ。その上には何か帯のようなものが付いている。


「これよ」


「これ……?」


 アデルはそれが何なのか分からず首を傾げた。


「前にワイバーンに荷馬車を括り付けて運ばせようとして失敗したでしょ? これは各所を鉄で補強して、ワイバーンに固定するのにもロープで結ぶのではなくてハーネスでしっかり固定することで安定させるようにした、空中輸送専用のカゴなの」


 モーリスは絶望の森でアデルがやろうとした、ワイバーンを用いた空中輸送の有益性を認め、それを実現しようと考えていたのだ。


「わぁ、すごいですね! ありがとうございます!」


「まだ試作品で、実際にワイバーンにつけてもらわないと使えるかわからないけど」


 マティアは優しく微笑んだ。


「アデルが大陸を統一すれば広大な領土を移動するのに時間がかかる。これが使えればかなり時間が節約できるな」


「た、大陸統一ですか……ははは」


 イルアーナの言葉にアデルは乾いた笑いを返した。


 そしてしばらく休憩を取り、アデルたちはいよいよ話し合いの場所へ出発しようとしていた。ダークエルフに従うゴブリンとオークの長、ブリザムとマピョンは先の目的地の手前まで行っているという。その待ち合わせの場所はグラーム湖の北端である。


「アデル君、私たちも一緒に行くわ」


 里に残っているダークエルフたちの指揮を執っていたエイダとリスティドがやってきた。


「ゴブリンたちを信用して大丈夫なのか? この人数では襲われたら危険だぞ。もっと手勢を連れて行くべきではないか?」」


 アデルは少数で話し合いに向かうつもりだったが、リスティドがそれを止める。


「確かにな。アデルの気持ちもわかるが、確かに失敗は許されぬ。もしお前が殺されてしまえばお前を信じてついてきた者たちを裏切ることになる。安全には配慮すべきだ」


 イルアーナもリスティドに同意した。


「う~ん……あの、相手はたくさんいるんですよね? どうしていままでこの里は襲われなかったんですか?」


 アデルは疑問を口にする。


「相手が数だけ多かろうが、戦闘能力が高いのは一部だけだ。ダークエルフが本気になれば確実に返り討ちにできる」


 リスティドが自慢げに笑った。


「じゃあ、いままでそのゴブリンとオークたちを放っておいたのはどうしてなんです?」


 さらにアデルが尋ねる。


「森は広いわ。ゴブリンやオークの居場所を探すだけでも一苦労ですもの」


 今度はエイダがアデルの問いに答えた。


「ということは、ゴブリンたちからすれば、総出で待ち伏せした場合、この話し合いがこちらの罠だったら大変なことになってしまうわけですよね? 危険を冒して話し合いに応じてくれたのは、向こうが僕に期待してくれているからだと思うんです。その期待を裏切るわけにはいかないと思うんですよ」


 アデルがたどたどしく説明する。その言葉にダークエルフたちは虚を突かれたようだった。


「……確かに、アデルの言う通りだな。こちらの罠の可能性がある以上、相手は大勢での待ち伏せはリスクが高い。あるとすればバレない程度に伏兵を忍ばせ、こちらが本当に少数で会談に現れた場合にそこを襲うくらいだろう」


 イルアーナが眉をひそめて言う。


「そうか、ならば確かに問題ないな。すまぬ、時間をとらせた」


 リスティドがアデルに詫びる。


「いやいや、問題なくはないと思うんですけど……」


「なぜだ?」


「なぜって……だ、大丈夫ですかね?」


「大丈夫だろう」


「な、ならいいんですけど……」


 アデルとリスティドの若干かみ合わない会話が続いた。アデルはリスティドたちが強いから、リスティドはアデルが強いから問題ないと最終的に判断したのだった。


 念のため族長であるジェランは里に残り、残りのメンバーでゴブリン、オークとの話し合いの場へと出発した。

お読みいただきありがとうございました。

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