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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第四章 脱出の章

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河豚

 オリムが陥落する前、アデル率いるウルフェン隊はオリムの手前、ヨダ川のほとりにいた。そこでルズレイを落としたジェラン率いるダークエルフの隊と合流しオリムを攻撃する手はずとなっていた。その数は二百だ。モーリス達は黒き森に残っており、ポチもレイコに好き勝手させないように留守番をしていた。まだ昼過ぎで周囲にはさんさんと日の光が注いでいる。


「お待たせ!」


 アデルたちの少し後ろを付いてきていたラーゲンハルトとフレデリカの一行が合流した。馬がウルフェンに怯えるため、少し離れていたのだ。ホプキンもハイランドが落ち着き次第、合流することになっている。


「まさかあんたと同僚になるとはね……」


 フレデリカがうんざりとした顔でラーゲンハルトを見た。ここに来るまでにだいぶおしゃべりに付き合わされたようだ。


「それにしても大胆な作戦だよね。ハイランドに攻めてきた歩兵中心の敵を機動力のあるウルフェン隊で圧倒、そして手薄な他の町を同時に攻略。それだけじゃ済まさず、まだ守備が整っていない相手の本拠地を急襲……風魔法の通信で互いに綿密な連携が取れるダークエルフならではの作戦だねぇ」


 ラーゲンハルトはしきりに感心している。アデルはラーゲンハルトを信用し、自軍の情報を色々と話していた。


「本当にこの男は信用できるのだろうな?」


 リスティドが疑わしそうにラーゲンハルトを睨む。


「ええ。絶対……とは言いませんけど、まず大丈夫です」


 アデルは自信ありげに言う。アデルの能力で見えるラーゲンハルトとフォスターの所属、それが「アデル軍」となっているのだ。少なくともそう見えているうちは相手が裏切ることはないだろうとアデルは確信していた。


「嬉しいなぁ、そんなに信用してくれて……僕たち、親友だね!」


「ま、まずはお友達から……」


 おどけてすり寄るラーゲンハルトをアデルはやんわりと引き剥がした。


(本当になんでこんなに信用してくれるんだ? ただのお人好しなのか……?)


 笑顔の下で、ラーゲンハルトは冷静にアデルの思考を分析しようとしていた。しかしそれを妨げる出来事が起こる。


「ケピピーンッ!」


 ヨダ川の方がにわかに騒がしくなった。


「なんだ?」


 アデルたちは騒ぎの原因を確かめるために川に近寄った。貧者高原を流れる川が数本まとまったヨダ川は水流が多く、川幅も広い。その川の真ん中あたりで何かの群れがバシャバシャと水しぶきを上げながら暴れていた。


「……馬?」


 アデルは呟く。その目には川の中で暴れる馬のような生き物が数匹見えていた。しかし時折見えるその下半身は馬ではなく魚のようだ。


「あれはケルピーだな。まあ水中で生活する馬のようなものだ」


 アデルの傍らに立ったイルアーナが言った。さらにそのケルピーたちにまとわりつくように別の生き物が十匹以上見える。


「それと……ふぐ?」


 またアデルは呟いた。ケルピーたちにまとわりついているのは半魚人のような生き物だったが、顔はアデルの言う通りフグのように丸く膨れていた。


「川オークか。普通のオークより体格は劣っているが、水魔法を使う。気を付けろ」


 イルアーナが再びアデルに教えた。


(川オーク……フグって漢字だと「河豚」って書くんだよなぁ……)


 日本での知識を思い出し、アデルは複雑な表情になった。


 ケルピーの捕獲に夢中になっていた川オークたちだったが、アデルたちに気づいてそれを中断した。アデルたちに向き直ると少しひょうきんな顔で睨みつける。ケルピーたちはその隙に逃げ出した。


「怒ってる……んですかね?」


「さあな。あいつらの表情はまったくわからん」


 アデルとイルアーナはただただ川オークたちと見つめ合った。すると急に川オーク数匹の頬がプクッと膨れた。


「危ない、みんなしゃがめ!」


 イルアーナが警告する。慌てて一同が姿勢を低くすると、川オークが吐き出した水の塊が猛スピードで頭上を飛んでいった。


「水弾か……この距離なら大したことはないが、至近距離で食らえばなかなか痛いぞ」


 イルアーナは言いながら川オークを睨む。しかし川オークたちはあざ笑うかのように水面をバシャバシャと叩いていた。


「川の中じゃ近づけないし、近付いたところでまともに戦えないね……どうするんだい、アデル君?」


 ラーゲンハルトが川オークを警戒しながらアデルに近づいてきた。


「まあ放っておいてもいいかなと……」


「えーっ! アデル君の弓が間近で見れると思ったのに!」


 ラーゲンハルトが残念そうに言った。


「いや、父上たちがやってくるのは川の向こうからだ。安全を確保しておく必要がある」


「そうなんだ。やったね、アデル君!」


 イルアーナの言葉にラーゲンハルトが喜ぶ。


「わ、わかりましたよ……ん?」


 弓を構えようとしたアデルの動きが止まる。何かが近付いてくる気配を察知したのだ。


閃雷光輪スパークリング!」


 大きな光の輪が川オークの元に飛んでいった。


「フググ?」


 川オークたちは不思議そうにその輪を見つめる。そしてその輪が水面に触れると同時に、バチバチと音を立てて光を発した。


「フゴォォッ!」


 川オークたちの体を硬直しつつも激しく痙攣する。どうやら感電しているようだ。そして白い煙を上げながら気絶してしまった。


「我が友、アデルを襲うとは愚かな魚じゃ」


 アデルが空を見上げる。風竜王の姿のピーコが翼をはためかせ空中に浮かんでいた。


「ピーコ!? どうして……」


「しばらくおぬしらと旅をしていたら、巣にいるだけでは退屈でのう。ハーピーのところで遊んでいたのじゃ。そうしたらハーピーにおぬしらからお呼びがかかったじゃろ? 我だけ一足先に来させてもらった」


 ピーコはアデルの近くに降りると、トコトコと歩いてアデルに近寄った。


「そうなんだ、ありがとう」


 アデルはピーコを抱きかかえて撫でる。


「ピーコちゃん……風竜王だったってのはアデル君から聞いたけど、こんな感じなんだ……」


 ラーゲンハルトは不思議そうにピーコを見つめた。


「おお、ラーゲンハルトか。久しいな。なんじゃ、こんなところで?」


「ちょっとアデル君と友達になってさ」


「なんじゃと!? アデルと友達……ということは我とも友達ということか?」


「そうなるね。あっ、ここにいるフォスターも僕の友達なんだ。だからみんな友達だね!」


「勝手に巻き込まないでください」


 そんな話をしつつ、気絶した川オークたちは念のため縄で縛られた。


「フググッ?」


 川オークが意識を取り戻し、まん丸の目で周囲を見回す。


「あ、目を覚ましたみたいですね」


「フググ! フググ!」


 川オークは必至で何かを訴えている。


「俺たちを食べても美味しくないぞ、と言っているな」


 ピーコがその言葉を通訳した。


(若干、美味しそうなんだよなぁ……)


 アデルは川オークの魚感が強い体を見て思った。


「川オークって何を食べるんですか?」


「魚とかは食べているだろうが……あとはなんだろうな?」


 イルアーナは首をひねる。アデルはピーコに質問してもらった。


「フゴ」


「水麦というのが主食らしい。水中の畑で育てているそうじゃ」


「そんなのあるんですね……ケルピーは食べるために?」


「フグ」


「捕まえて労働力にするため、だそうじゃ」


「なるほど……」


 アデルは顎に手を当てて考え始めた。


「……聞いてる限り、そんな悪さしそうな魔物とは思えないんですけど……けっこう人を襲ったりするんですか?」


 アデルはイルアーナに尋ねた。


「川オークはそこまで悪さをしているとは聞かぬな。縄張りに入ったりすれば襲われるだろうが……ただ泥オークという魔物もいて、そちらは色んな生き物を襲う。人間からは混同されて嫌われているようだ」


「へぇ。それはかわいそうに……」


 イルアーナの話を聞いてアデルは少し気の毒に思った。


「人やダークエルフを襲ったりしないと約束すれば、解放してあげてもいいですかね」


「別に構わないと思うが……お前に任せるぞ」


 イルアーナと話したアデルはピーコの通訳で川オークに条件を飲ませ、縄をほどいた。川オークたちはピョコピョコとした動きで川に戻ると、水面から頭の部分だけ出してしばらくアデルたちを見つめた後、ちゃぷんと音を立てて川の中に消えていった。

お読みいただきありがとうございました。

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