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族長ジェラン

「それで……そいつを連れていくのか?」


「うん、すごく……有益な生き物だから」


 アデルはさきほどの白い生き物を抱きかかえていた。


「ねー、ポチ」


「きゅー」


「ポチ? そいつの名前か」


「はい」


 日本での名前が平凡なことを呪っていたアデルだったが、彼のネーミングセンスもなかなかであった。


「父との顔合わせ中に抱いているわけにはいかんだろう。ポチは私が預かっておこう」


 いま二人は屋敷の中をイルアーナの父親ジェランがいる部屋に向かって歩いている。ポチを抱いて癒されていたアデルだったが、イルアーナにポチを渡してしまうと緊張がぶり返してきた。


「ここだ」


 イルアーナの案内でついに部屋に到着した。イルアーナは重厚な木の扉をノックすると、返事も待たずに扉を開けた。


「父上、客人を連れて来ました」


「し、失礼しま……」


 部屋に入った途端、アデルは凍り付いた。とんでもない空気が部屋に満ちている。


「……貴様か、娘をたぶらかしているのは」


 まったく怒りを隠す気のない男がそこにいた。漫画であれば背後に「ゴゴゴゴッ」という文字が描かれているだろう。ダークエルフの特徴である銀髪に褐色の肌、長い耳に長身。見た目は若く、イルアーナの兄や恋人と言われても信じていただろう。ダークエルフの割には体格がよく、族長らしい威厳が感じられた。アデルの頭に能力値が浮かび上がる。


名前:ジェラン・マザーウッド

所属:黒き森

指揮 85

武力 93

智謀 68

内政 81

魔力 118


(さすがイルアーナのお父さん……というか能力値の上限って100じゃないのか……)


 アデルは恐怖と緊張で心臓が痛かった。


「は、初めまし……」


「勝負だ」


 アデルが絞り出した声はすぐさまジェランに遮られた。


「……えっ?」


「娘を預けられる男かどうか、この私が直に確かめてやる」


 ジェランの殺意をはらんだ言葉にアデルは真っ白に固まる。


(武力93に魔力118……死んだな……)


 チーンという音がアデルの頭の中に響き渡った。


「父上! 話が違います!」


 イルアーナがジェランを止めようとした。


(イ、イルアーナさん、頑張って!)


 アデルにとってイルアーナの説得が唯一の希望だ。


「私は手を結ぶような価値のある人間がいれば考えてやっても良いと言ったまでだ。その価値があるかどうか確かめるのは当然であろう。しかもその男は軍を率いているわけでも、土地を持っているわけでも、大金を持っているわけでもない。お前の話ではその男が持っているのは今のところ武の力のみ。そうであるならせめて私と対等に戦えるくらいの実力を持っていなければ話にならん」


(確かにその通りなんだけど……)


 困ったことにジェランの言い分にアデルは納得できてしまう。むしろイルアーナがなぜ自分をそんなに買い被っているのかがいまだによくわからない。


「し、しかし……」


「仮に私個人がこの男を受け入れたとしよう。だが他の者が納得しないだろう。我が一族に協力しろと言うのであれば、皆の前で実力を証明する必要がある。これはお前たちにとっても良い機会だ。安心しろ、手加減すると約束しよう。それとも、戦うことすらできぬ臆病者に一族の未来を託せというのか?」


「くっ……」


 言い返すことも出来ず、イルアーナはただ奥歯をかみしめた。


「決まりだな。イルアーナ、皆を広場に集めろ。準備ができ次第、始めるぞ」


 怒りが収まったのか、ジェランは心なしか柔和な顔つきになってイルアーナに指示を出した。


「アデル、すまん……だが、お前なら父上にその力を認めさせることができる。頑張ってくれ」


「きゅー」


 イルアーナはアデルにポチを預けると、部屋を後にした。


「それはお前のペットか?」


 ポチを見て訝しげにジェランが尋ねる。


「い、いえ、ついさっき出会ったばかりなんですが……なんの動物かご存じですか?」


「いや、見たこともない」


(博識なダークエルフの族長ですら知らないのか……)


 ジェランとポチはお互い不思議そうな顔をして見つめ合っている。


「イルアーナさんも知らない生き物だと言っていました」


「そうか」


「それにしても……すいません、急に押しかけてしまって……」


「そうか」


「あなたのおっしゃる通り、どうしてイルアーナさんが僕を選んでくれたのかはわかりません。でも一生懸命やるつもりです」


「そうか」


 ジェランはアデルの話を全然聞いていないようだった。


「あの……撫でますか?」


「し、仕方ないな。人間と言えども、そこまで頼まれたら無下には出来ん」


 ジェランは奪い取るようにポチを撫で始めた。


「きゅー」


(親子だなぁ……)


 ジェランの優しい一面に、少しだけアデルも気が緩む。


「お前には申し訳なく思っている」


 ポチを撫でながらジェランがアデルに語り掛けて来た。


「い、いえ、そんな……」


「娘に手加減すると約束してしまったからな。本来なら一瞬でバラバラにするところだが、少し苦しませてしまうかもしれん。許してくれ」


「……」


 ジェランの言葉にアデルは凍り付いた。


お読みいただきありがとうございました。


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