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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第四章 脱出の章

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帰還

 アデルたちが世界樹の元へ戻ると、人間の姿のピーコとハーピーの族長シャスティア、ジェランにモーリス、そして数人のダークエルフが出迎えてくれた。


「アデル君、うまくいったようだね」


 ジェランが笑顔でアデルに近づく。


「はい、アースドラゴンさんたちが協力してくれてよかったです」


 アデルもほっとして笑顔になる。


「私も族長なんて立場ではなかったら、ぜひアースドラゴンを見てみたかったな」


 ジェランは同行できなかったことを残念がった。


「エントたちも頑張ったよ」


 ポチがイグリットを抱きかかえて言った。


「こ、光栄ですト! 白竜王様!」


 イグリットが羽をパタつかせて喜ぶ。


(白竜王様……? エントたちもポチを尊敬してるのか)


 アデルもついでにイグリットの頭をなでながらそう思った。


「もちろんです。エントさんたちもお疲れさまでした」


「一生分、動いた気分ですト……」


 イグリットは疲れた顔をしていた。元々あまり縄張りから動かない種族ではあるが、絶望の森脱出時からずっと活躍していた。


(頑張ってくれてたもんな……何かお礼したいけど……)


 アデルは考えてみたが、エントが欲しがるものなど思い浮かばないので聞いてみることにした。


「エントさんたちは何か欲しいものとかあるんですか?」


「欲しいもの? う~ん、そう言われても思いつかないですト……僕たち、幼虫とか芋虫くらいしか食べませんし……」


「そ、そうなんですね……」


 あまり想像したくない話を聞いて、アデルはお礼を諦めた。そして今度はピーコとシャスティアに向き直る。


「ピーコ、シャスティアさんもありがとうございました」


「はりぇふりゃい、りょうさもにゃい」


 ピーコは干し肉をかじりながら返事する。食べ物が食べやすいから人間の姿になったようだ。


「作戦自体はうまく行ったのですけれど……できれば食料を奪ってくるという話でしたのに、ワイバーンさんたちったら自分たちが食べる馬を連れ去るだけで、ほとんど持ってこれませんでしたわ」


 シャスティアが困り顔で言う。


「うんぐっ。仕方なかろう、ワイバーンたちとてタダ働きはしてくれぬからの」


 干し肉を呑み込んでピーコが言った。


「そうですか、まあしょうがないでしょう。お怪我とかはありませんでしたか?」


「ワイバーンたちはみな無傷じゃ」


「何人か矢で怪我しましたが、たいしたことはありませんわ」


 二人の報告を聞いてアデルは安心した。そしてハーピーたちがカザラス軍から奪った食糧の分配をシャスティアと話し合う。ハーピーはそんなに食料に困っていないとのことで八割ほどアデルたちがもらうことに決まった。それでもけっこうな量があるうえに、保存が利く物が多かったので地下の隠れ部屋に置き、ここに滞在する者の食料とすることにした。


(それにしてもワイバーンに動いてもらうには餌が必要か……ただでさえ食料問題があるのに……今後の課題だな)


 アデルは頭を悩ませた。


「竜王様たちの加護がある我々は向かうところ敵なしだな。わはははっ!」


 モーリスが高らかに笑った。


「あんた何もしてないじゃん」


 ポチが呟きアデルは慌てたが、幸いモーリスの耳には届かなかったらしい。


「それにしても……ずいぶん、草が伸びましたね」


 アデルは周囲を見渡して言った。数日いなかった間に、一面が膝くらいまでの高さがある雑草に覆われていた。


「世界樹の加護だろうな。世界樹の周囲の雑草はわしが抜いていた」


 モーリスが世界樹を見ながら言う。世界樹自体も腰の高さくらいまで大きくなっていた。


「世界樹は自身が成長するために成長力を高める効果のあるマナを放出する。そのため周囲の植物も急成長する。多くの場合、世界樹が他の植物に埋もれてしまうほどね」


 ポチがアデルに解説してくれた。


「じゃあ、そんなマナ出さなければいいんじゃない?」


「マナが無いと世界樹はあんな巨木になれない。それにマナが枯渇しないように、周囲にマナを発生してくれる植物を育成することも必要。ある程度成長してしまえば周囲にたくさんの植物がある方が世界樹には都合がいいから森ができる」


「小さい時だけ普通に成長して、ちょっと大きくなってからマナを出すとかはできないんだ」


「もしかしたら将来、そう進化するかもね」


「まあそうなったらそこら中、世界樹だらけになっちゃうのか……」

 

 アデルは人間の町が緑に呑み込まれたSFの世界観を思い出し、少しぞっとした。


「アデル君。お疲れのところ悪いけど、マザーウッドまで来てくれないかな。今後について皆と話し合いたいんだ」


 そこにジェランが話しかけて来た。


「いいですよ。僕も久しぶりにゆっくりしたいですし……あっ、途中でハイランドに寄っていいですか? フレデリカさんたちに知らせておかないと」


「かまわないよ。父上も一度お越しください。世界樹には腕利きの護衛を置いておきますので」


「うぅむ、仕方がない……おい、おまえたち!」


 モーリスは留守番となるダークエルフたちを呼び寄せると、水やりや草刈りの指示を細かく出した。


「あ! でもその前に、これをみんなで食べましょう」


 アデルは荷物袋から水筒を取り出した。中の水は塩を加えて塩水にして、そこに帰りに狩ったタンブルウニードの「ウニ」の部分を入れて来たのだ。アデルがタオルを敷いてその上に水筒を傾けると、黄色いツビツブの塊が塩水とともにゴロゴロと出て来た。


「なんだそれは。蛾の卵か?」


 モーリスは明らかに気持ち悪いものを見る目で言った。


「た、確かにそんな感じにも見えますけど……でも美味しいんですよ」


「おお、タンブルウニードではないか」


 ピーコが喜んでタンブルウニードを食べ始める。それを見てダークエルフたちやシャスティアも恐る恐る口に含んだ。


「なるほど……甘みがあってうまいな」


「美味しいですわ」


 タンブルウニードはなかなか好評であった。


「それはなんですト?」


 イグリットが不思議そうに「ウニ」を見つめる。エントたちは帰りは疲れて寝ていたため、タンブルウニードは見ていなかった。


「タンブルウニードって生き物の身なんですけど……エントのみなさん食べれるかなぁ」


「蛾の卵みたいでおいしそうですト」


「そ、そうですか……じゃあ試してみます?」


 アデルが手に乗せた「ウニ」をイグリットの前に差し出す。はむはむとそれを食べるとイグリットは顔を輝かせた。


「美味しいですト!」


「ほ、本当ですか? どうぞどうぞ、エントの皆さんで食べてください!」


 アデルの一言でエントたちが「ウニ」に群がった。アースドラゴンの元に向かった全員の水筒に「ウニ」を詰めて来たのだが、あっという間になくなってしまった。

お読みいただきありがとうございました。

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