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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第四章 脱出の章

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話し合い

 ガルツ要塞のヴィーケン兵たちは息をひそめ、突如現れたアースドラゴンたちを何事かと見つめていた。カザラス軍を追い払ってくれはしたが、彼らからすれば味方かどうかはわからない。アースドラゴンが城門に近づこうとするとヴィーケン兵は悲鳴を上げ、震えながら城壁に空いた穴や残った城壁の上から弓を構えた。


「めちゃくちゃ警戒されてますね……」


 アデルはアースドラゴンを止め、イルアーナに相談する。


「仮面を外して近づいたらどうだ? お前の顔を知っている者も多いだろう」


「そ、それは確かにそうですけど……でも僕が生きてることを知られたら、また暗殺されないですかね……」


「後で暗殺者が送られてくる可能性はあるな。だが、お前は私が想像していた以上に強かったし、仲間も増えた。いまさら一地方領主程度が動かせる人材でお前を脅かせるようなことはできないだろう」


「本当ですか……?」


 イルアーナの言葉にアデルは自信なさげに言う。


「ここを強行突破するよりはマシだろう」


「た、確かに……」


 ヴィーケン兵の気配を感じながらアデルは呟く。そして意を決して仮面を外すと、ガルツ要塞の城門前まで進んだ。


「み、みなさん!」


 アデルは震える声でヴィーケン兵たちに呼びかける。


「僕は以前、皆さんと一緒に戦ったアデルです! 敵ではありませんので、ここを通して……」


 アデルが話している途中でヴィーケン兵の間にざわめきが広がった。


「アデルってあのアデルか?」


「本当だ、”英雄”アデル様だ! やっぱり生きておられた!」


「アデル様がドラゴンを従えて再びカザラス帝国を撃退してくださったぞ!」


 ざわめきはすぐに大歓声へと変わった。


「アデル様!」


「アデル様!」


「えぇっ……」


 アデルはヴィーケン兵の大歓声に戸惑う。そしてヴィーケン兵たちは指揮官であるハイミルトの指示も待たずに城門を開け始める。


「確認もせずに開けるな!」


 ハイミルトは制止しようとするが、大歓声にかき消されその声は届かなかった。


「くそ……付いてこい、お前たち」


 ハイミルトは手近にいた兵を従え、急いで城門へと向かった。


 ハイミルトたちが駆けつけたとき、ちょうど開かれた城門から巨大なアースドラゴンが足を踏み入れてくるところであった。


「なんと巨大な……」


 要塞の上からは見ていたが、間近で見てハイミルトは改めてその大きさに驚いた。城門は長槍を縦に構えた騎兵が隊列を組んで通れるほど広く作られているが、アースドラゴンは体を斜めにしながら、体を押し込むようにしてどうにかその門を潜り抜けた。


 アースドラゴンに乗ったままでは通れないので、アデルたちは降りて先に内部に入り、アースドラゴンが入るのを待っている。そこにハイミルトがやってきた。


「ハ、ハイミルト様!」


 アデルに緊張が走り、体をこわばらせて直立する。アデルにとって、ハイミルトは雲の上の存在だ。反射的に体が動いてしまった。


「アデル……まさか本物とは……」


 ハイミルトもアデルを見て目を見張っていた。




 アデルとイルアーナは応接間に通された。リスティドとエイダ、ポチはアースドラゴンとともにヴィーケン側のガルツ要塞の外で待っている。ここは侍女たちの避難場所になっていたようで、アデルたちが入る前に部屋から出されていた。


「いいんですか、彼女たち……」


「もちろんだ。もうカザラス軍が撤退した以上、ここにいても仕方ないからな」


 何人かの若い侍女がちらちらとアデルの顔を伺いながら、顔を赤らめて去っていく。


「やれやれ、さすが救国の英雄。人気者だな」


「え? 何の話です?」


 ハイミルトの言葉にアデルはわけがわからず聞き返した。


「まあ良い。かけてくれ」


 ハイミルトはアデルたちにソファーを指し示した。自身もテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろす。


「あの……僕は本当にアデルでして」


「もちろんわかっている。あれだけ前の戦では活躍してくれたのだからな」


 ハイミルトはアデルの顔を覚えていた。


「なぜ生きているのだ? 暗殺されたのではなかったのか?」


「ええ、暗殺されそうになったのですが、こちらの女性に助けていただきまして……」


「こちらの怪しい女性に? いったいどこの誰なのだ?」


「そ、それは……」


 アデルは口ごもる。しかしそんなアデルを他所にイルアーナは包帯を指でずらし、素顔を見せた。


「ちょ、ちょっとイルアーナさん!」


「私はイルアーナ、見ての通りダークエルフだ」


 慌てるアデルを無視し、イルアーナはハイミルトを睨みつける。


「……ダークエルフだと? なぜダークエルフが人間を助ける?」


「アデルは我々がとある事情で保護している。暗殺犯にも言っておけ」


 イルアーナはハイミルトに向かって凄んだ。自分が人間に恐れられているダークエルフと明かすことで、アデルが再び暗殺される可能性を減らす意図があったのだ。


「暗殺犯? 誰がやったかわかっているのか?」


 ダークエルフであることには戸惑いつつも、イルアーナの威圧はあまり効いていない様子でハイミルトは尋ねた。


「知らんのか? マイズ侯爵だ」


「マイズ侯爵? 本当か、アデル」


 ハイミルトは信じられないといった様子でアデルに確認する。


「ええ、間違いなく顔も見ましたし……」


「いったいなぜ……」


 ハイミルトは俯き、考え込んだ。


「普通に考えれば手柄を横取りするためだろう」


 イルアーナの言葉にもハイミルトは首をかしげる。


「マイズは欲深い男ではあるが……そこまで功を主張している様子はなかったがな」


 ハイミルトは論功行賞の場を思い浮かべた。


「ではなぜアデルを殺そうとしたというのだ?」


「それはわからぬ。暗殺が成功したかどうかわからなかったからか……」


「もしかして、殺すこと自体が目的だったんですかね……」


 イルアーナとハイミルトの議論にアデルが口を挟んだ。


「なぜそんなことを?」


「なぜって……ほら、恩賞あげなくてもよくなるじゃないですか」


「そんなことをしても得をするのは……」


 アデルの言葉にハイミルトがはっとして固まる。


「何か思い当たることでも?」


「い、いや……」


 イルアーナの問いかけにハイミルトは言葉を濁した。


「それより、アデル。お前はこれからどうするつもりだ?」


 話題をそらし、ハイミルトはアデルに尋ねた。


「あぁ……えっと、実は……」


 アデルは言いづらそうにしていたが、意を決して口を開いた。


「独立しようと思っていまして……」


「独立? 国としてか?」


「えぇ……そ、そうなんです」


 アデルの言葉にハイミルトはしばらく無言でアデルを睨んだ。


(こ、怖い……)


 アデルは母親に悪い成績表を見せているときのように縮こまっていた。


「……それはヴィーケンの敵になるということか?」


「え?」


 アデルはハイミルトの問いの答えに困った。


「う~ん、とりあえず積極的にヴィーケンと争うつもりはないんですが……ただ将来的にはどうなるかわかりません」


 アデルは正直にいまの考えを語った。


「質問を変えよう。なぜ我々を助けてくれたのだ? ヴィーケンから離れるつもりなら放っておけばよかったであろう?」


「ええと……言いづらいんですが、ハイミルト様がここでカザラス軍の侵入を防いでくださるのはこちらとしても都合が良いんです。カザラス軍とは敵対状態にあるので……」


「カザラスは敵なのか。では北部の裏切り者たちも敵と考えているのか?」


「詳しい事情を知らないので何とも言えませんが……ただそうなる可能性は高いかと……」


 アデルは詰まりながらも、考えながらぼそぼそと考えを語った。


「少なくともマイズは敵であろう? お前を殺そうとした恨みもある」


 イルアーナがそんなアデルに尋ねる。


「いや、正直昔のことなのでそこまでは……」


「昔? まだ二か月ほど前の話であろう」


「ま、まあそうなんですけどね。ははは……」


 異世界での生活を挟んでいるのでアデルの感覚では十年以上前の話だし、恨むほど状況が理解できていなかったのでアデルはそこまでマイズに復讐したいとは思っていなかった。


「……わかった。いや、よくはわからんが」


 しばらく考え込んでいたハイミルトが口を開く。


「もしお前がヴィーケンと敵対すると即答したのなら、私もお前を斬らねばならん。だが、アデル。お前は今現在は守るべきヴィーケン国民だ……隣のダークエルフは違うが、ダークエルフを見かけたら殺せなどという司令も受けてはおらぬ。お前たちが正式にヴィーケン王国と敵対するまでは、私は手出しをせぬと約束しよう」


「あ、ありがとうございます!」


 心理的にも戦力的にもガルツ要塞の軍を敵に回さなくて済むのはアデルにとって朗報だった。


「それと、マイズ侯爵だが……裏切り者どもはカナンの新領主はカークスと名乗っていた」


「カークス?」


「ああ。確かマイズの副官だった男だ」


「あぁ……」


 ハイミルトの話を聞き、アデルはカナンで一度だけ見かけた男の姿をうっすらと思い出した。


「それって……どういうことでしょう?」


「つまり、マイズ公爵は殺されたか捕まったか追い出されたかしたのであろう」


「な、なるほど……」


 アデルが復讐に燃えていたのであれば残念な話だが、アデルはその話を聞いてマイズのことを少し気の毒にすら思った。


お読みいただきありがとうございました。

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