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ダークエルフの里


「うわー、すごい! でもなんでこんなところに海が……?」


 目の前に開けた光景にアデルは感嘆の声を上げた。突如森が開け、目の前には見渡す限りの水面が続いている。


「これは湖、グラーム湖だ」


「湖? へぇー」


 向こう岸がまったく見えない。相当な大きさがあるようだ。


「あそこに一際大きな木が見えるだろ? あれがマザーウッド、我々の里だ」


「あれが……」


 巨大……という言葉では生易しいくらい大きな木が湖のほとりに生えている。近づくにつれ、さらにその大きさに圧倒された。


「着いたぞ」


 マザーウッドは石壁で囲まれていた。高さが10mほどもある立派な壁だった。鉄製の重厚な門があり、数匹の門番が守りを固めていた。


「……ゴブリン?」


 門番はゴブリンであった。ゴブリンは緑色の肌をした人間より少し小さい魔物で、知能も人間より劣っている。集団で人間を襲うこともあり、人間からは邪悪な存在とされていた。門番たちは革鎧と槍で武装しており、ギョロリとした目でアデルを睨みつけている。


「ご苦労」


 イルアーナは気に留めることもなく彼らの間を通って中へ進む。アデルも怯えながら彼女についていった。もっとも彼らの能力は平均40ほどで、実際に戦ったらアデルの脅威となるような相手ではなかったが。


(そういやキラービーとかは能力値見えなかったけど……人型限定の能力なのかな?)


 ダークエルフの里は家が密集した人間の町とは違い、村のように家々が離れて作られている。だが人間の村とは違い、一軒一軒の家は大きくて装飾が施されており立派なものだった。緑も多く植えられており、森と共存していることがうかがえる。


「ここには三百人ほどのダークエルフが暮らしている」


 イルアーナがアデルに教える。ダークエルフたちはアデルの姿を見ると、好奇心と嫌悪の混じった目で見てくるものがほとんどだった。どうやらまったく歓迎されていないようだ。ゴブリンの姿も多く見られ、荷運びをしたり大工仕事や掃除をしている者もいる。


「あのゴブリンたちは?」


「やつらは労働力だ。ゴブリンほど多くはないが、オークやオーガもいるぞ」


 オークはゴブリンよりも大型の魔物で人間と同じくらいの背丈だ。知能も人間並み。やはり人を襲う邪悪な魔物とされている。オーガはオークよりもさらに大型で、身長は2mを優に超える。非常に怪力で人を食べるとされる凶暴な怪物だが、知能は低い。


「まあ奴隷に近いかもな」


「奴隷ですか……」


 アデルは表情を曇らせる。


「あまり良い気はしないか?」


「確かに……イメージは良くないですね」


 この世界では奴隷は一般的だが、つい最近まで日本で生活していたアデルは良い印象を持っていない。奴隷は主に貧しいものが借金を返せず身を売る場合と、戦争で捕虜になったものが奴隷にされる場合がある。ヴィーケン王国は戦争で侵略するほどの武力がないため、前者の奴隷がほとんどだ。


「気持ちはわかる。だが野放しにしておけばあいつらは我々や人間を襲うであろう。皆殺しにするか、力で押さえつけるか、どちらかしかないのではないか?」


「う~ん……確かに……」


 そもそも日本には「邪悪な魔物」などいないし、同じ価値観で考えることが間違っているのかもしれない。


「わー、人間だー!」


「人間だー!」


 頭を悩ませるアデルの耳に甲高い声が入ってきた。足元を見るとダークエルフの少年と少女が物珍し気にアデルを見上げている。


(か、かわいい……)


 子供ながらに顔立ちは整っていて、目はクリクリとしている。


「敵だー! 倒せー!」


 アデルが和んでいると、少年のほうが持っていた木の枝でアデルをぺしぺしと叩き始めた。


「痛い痛い!」


「ダメだよそんなことしちゃ!」


 さらに叩こうとする少年を少女が止めた。


「なんでだよ! 人間は敵だろ!」


「イルおねーちゃんのお客さまだよ! ころすのはおはなしがダメになったときだけだよ!」


(なかなか怖いことをおっしゃる……)


 光景だけ見れば微笑ましいのだが、言葉の内容にアデルは冷や汗を垂らした。


「ごめんなさい、人間」


 少女がアデルに向かって頭を下げた。少年の方は後ろで納得がいかない顔をしている。


「いや、大丈夫だよ」


 ダークエルフも女の子の方が精神的な成熟が早いのかもしれないとアデルは思った。その少女は昔アデルが出会ったダークエルフの少女と同じ年くらいに見える。一目惚れの思い出がよみがえり、胸がキュンとなった。


 将来はさぞかし美人になるだろう。いや、今でも十分美人と呼べるくらい顔立ちは整っているが。そういえばダークエルフの寿命は人間よりはるかに長い。見た目は子供でも自分より年齢は高いのかもしれない。ということは人間の基準で言えば成人している可能性がある。これはもしかしてアレなのか。夢の合法ロ……


「どうした?」


「うわっ!」


 暗黒面の物思いにとらわれていたところを、後ろで微笑みながら見守っていたイルアーナに声を掛けられアデルは体をビクッと震わせた。


「い、いや、ダークエルフのみなさんは子供でも十分えろ……お美しいお姿をされているなと思いまして」


「ふ、当然だ。醜い人間と一緒にするな」


「とーぜんだ」


「とーぜんだ」


 腰に手を当てて胸を張るイルアーナと一緒に子供二人も胸を張っている。かわいい。


「さて、リオン、エシェル。我々は族長と大事な話があるのだ。もうこの人間を許してやれ」


「仕方ないなー」


「じゃあね、人間」


 少年と少女は走り去っていった。


「すまんな、子供たちが迷惑をかけた」


 その背中を見守りながらイルアーナは言った。


「いや、全然。とってもかわいかったです」


「そうであろう。特にダークエルフの子供は珍しいからな。みんなついつい甘くなってしまう」


「へぇー、そうなんですね」


「あぁ。人間などに比べるとダークエルフはあまり子供を産まん。それに我々は寿命は長いが、子供でいる期間が短いからな」


「え、そうなんですか?」


「短いとは言っても人間と同じだ。生まれてから成人するまで二十年ほどで急成長し、そこからはほぼ老いることなく寿命を迎える。寿命に比べて非力な期間が短いのだ。我々は優秀な種族だからな」


「成人するまでは人間と同じ……?」


 アデルの頭に疑問が浮かぶ。


「ということは昔僕が出会った少女も、もう大人になっているってことか……」


「まあ……そうであろうな」


「きっと美人になってるんだろうなぁ……」


 アデルはあの少女が大人になった姿を想像した。きっとイルアーナのような美人になっていることだろう。


「アデル……そ、その少女に会いたいのか?」


 なぜか頬を赤らめ、モジモジしながらイルアーナが言う。


「もちろん会いたいですけど……」


 その姿を見てアデルは何かを察知した。


「イルアーナさん、まさか……」


「気付いたか。あまり知られたくはなかったが……」


 イルアーナは観念したように言った。


「イルアーナさん……その少女に嫉妬してるんですね」


「このたわけが!」


 アデルはまたもや理由もわからずイルアーナに頭をはたかれた。

お読みいただきありがとうございました。

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