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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第四章 脱出の章

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突撃

「そのうち指揮が崩壊するかと思ったのに……粘り強いな」


 ガルツ要塞を見つめながらラーゲンハルトが呟いた。


「突撃して来てもらえたら楽なんだけどな……異名と真逆で慎重なんだよな、敵の将軍は」


 ラーゲンハルト率いるカザラス軍は数日にわたり投石機による城壁破壊を実施していた。カザラス軍側には物資が潤沢にあるのに対し、ガルツに立てこもるヴィーケン軍は補給も援軍も断たれている。わざわざ兵を失うような攻撃をすることはない。時間が経てば経つほど不利になるのは相手の方だ。そうラーゲンハルトは考えていた。


「結局、アデルさんたちは介入して来ませんでしたね」


 傍らにいたヒルデガルドがどこかほっとした表情で言った。


「そりゃそうでしょ。うちの軍を撃退できるほどの戦力を誰にも知られずに集められるわけがない。後方攪乱くらいならしてくるかもしれないけど、戦局を覆すようなことはできないと思うよ」


「そうですか……出来れば彼らとこのまま戦わずに済めばいいですね」


「そうだね。彼らは予想もつかない動きをするだろうから、大人しくしてくれてればいいんだけど……」


 ラーゲンハルトが話している間に、またひとつ投石がガルツ要塞の城壁に命中した。すでに城壁に設置されていた兵器類は破壊され、城壁はいたるところで分断されていた。それにより城壁の上に配置できる弓兵が限られてしまったため、ヴィーケン軍はカザラス軍が防御柵を破壊する事を阻止できなくなっていた。


「敵の防衛は崩壊しつつある。もうちょっと城壁を壊して歩兵が乗り越えられるくらいの大穴が空けば僕らの勝利だ。敵が堪え切れずに突撃して来てくれればもっと早い。遅くともあと二、三日で僕らを阻み続けて来たガルツ要塞は落ちる」


 ラーゲンハルトは勝利を確信し、笑みを浮かべながら言った。


「ヤナス将軍にいつでも突入できるように準備をしておくように伝えてくれ。まあわかっているだろうけど、念のためね」


 ラーゲンハルトが副官のフォスターに言う。しかしフォスターは何かが気になる様子で辺りを見回していた。


「何だか……揺れていませんか?」


「揺れてる?」


 ラーゲンハルトはフォスターの言葉に感覚を研ぎ澄ませる。確かにわずかな振動を感じた。投石機の振動であれば一瞬なはずだが、その揺れは奇妙なリズムで起こっている。


 ほとんどの者は気付かない程の弱い揺れだが、ラーゲンハルトは妙な胸騒ぎを感じた。


「投石中止! 全軍に周囲を警戒するように伝えろ!」


 ラーゲンハルトの指示に、何事かと兵士は訳のわからない様子で周囲を見渡す。投石機の音が止み、戦場に束の間の静寂が訪れる。するといままで聞こえなかった、断続的な重い音が北側の崖の上から響いているのが分かった。


「……山?」


 最初にそれに気づいた兵士が呟く。巨大な岩のようなものが崖上に現れたのだ。それはさらに長い首を伸ばすと、眼下に広がるちっぽけな人間の群れを見下ろした。その巨大な岩のような生物はさらに数を増やし、合計十体ほどが崖上に姿を現した。


「なんなんだ、ありゃ?」


 自分の見ているものが受け入れられず、茫然と兵士が呟く。


「岩の竜……アースドラゴンか? どうしてここに……」


 ラーゲンハルトもその姿に驚愕していた。ドラゴン退治の依頼は稀に冒険者ギルドにも来るが、最強クラスにパーティーでも受けたがらない最高難易度のクエストとなる。しかもそれは対象が一匹の場合でも、である。十匹ものドラゴンがいる場所はそもそも人間が近づく場所ではないのだ。


「まさか……アデルさん!?」


 ヒルデガルドが何かに気づいたように声を上げた。


「アデル君? いくらなんでもドラゴンを操るなんて……」


「絶望の森でも、森に住む魔物が急に集団で襲ってくることがあったのです。もしかしたらアデルさんたちにはそういう力があるのかもしれません」


「じゃあ……あれもアデル君が?」


 ヒルデガルドの言葉にラーゲンハルトが目を見張る。


「フォスター、急いでバリスタの準備を! あんな化け物、人力では……」


 ラーゲンハルトが指示を出そうとした時だった。


「アァーーースッ!」


 一匹のアースドラゴンが咆哮を上げる。それに続いて他のアースドラゴンも咆哮を上げた。空気がビリビリと震え、兵士たちはその迫力に圧倒される。


「落ち着け! 奴らは高い崖の上だ! こちらまでは来れ……」


 冷静な兵が皆を落ち着けようと声を張り上げる。しかし言い終える前に、アースドラゴンは垂直に近い崖を器用に半身で滑り降りて来た。巨体や力が強いだけではなく、バランス感覚や体幹が優れているのも彼らが最強種族と恐れられる所以である。


「うわぁっ!」


 見たこともない巨大な生物が突如襲い掛かってきたことで、兵士にパニックが広がった。


「兄上! あの生き物の背中を見てください!」


 ヒルデガルドが指をさす。崖の上にいたときは角度的に見えなかったが、今は一匹のアースドラゴンの背中に三人の人影が乗っているのが見えた。それは黒い仮面をつけた”黒騎士”デルガードことアデルとイルアーナ、そしてポチだった。他にも二人の人影を乗せたアースドラゴンが一匹いた。


「アデル君……君ってやつは本当に予想外だね……」


 悔しさと呆れが混ざった表情でラーゲンハルトは言った。


 アースドラゴンたちは逃げ惑う兵士には目もくれず、投石機めがけて突進する。一台の投石機が尻尾の一振りで砕け散った。


「まずい、狙いは投石機か! 重装歩兵隊、どうにか奴らを足止めしろ! 工兵隊、投石機を下げるんだ!」


 ラーゲンハルトが指示を出すが、それに従おうとする兵士もいれば、茫然とアースドラゴンを見つめる者、怖気づいて逃げ出そうとするものが入り乱れてなかなか組織的に動けていなかった。


「くそっ、下士官不足が影響したか……」


 統制の取れていない軍を見てラーゲンハルトは悔しげにつぶやいた。そうしている間にもさらに二台の投石機が破壊されていた。


「フォスター、ヒルデガルド。ここで軍を立て直すのは無理だ。いったん兵を引き、軍を再編成してくれ」


 ラーゲンハルトは馬を引いてくると、それに跨った。


「そんな……兄上はどうされるのですか!?」


「あれが追ってきたら再編成どころじゃないからね。アースドラゴンは止められないけど、アデル君なら止められるかもしれない。頼んだよ」


「危険すぎます! アデルさんだって兄上を殺そうとするかもしれません!」


 止めようとするヒルデガルドにウィンクをすると、ラーゲンハルトはアースドラゴンたちに向かって馬を走らせ始めた。

お読みいただきありがとうございました。

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