顕になる本性03
「……遅い」
悠也がカフェ・Vivreに戻ると先に戻った彩夜が不機嫌顔で待っていた。テーブルの上にはさらに追加注文されたと思しきスイーツ。が、乗っていたと思しき皿が二枚。
「どこ行ってたの?」
「……ちょっとな。潤は?」
彩夜は黙って首を横に振る。
「私もさっき店長にも聞いてみたけど、まだ来てないって」
「……そうか」
悠也の方も幸姫を見つけることはできなかった。
二人とも連絡がつかないこの状況は偶然と判断していいものなのだろうか。少なくとも悠也はそこまで楽観的になれない。胸の内の不安は膨れていく一方だ。
「私からいくつか報告があるの。名守幹恵と、彼女が『蜘蛛』の隠し場所にしていた町工場について」
彩夜の報告は事務的かつ簡潔だった。
「つまり名守さん……〈煉霊の魔術師〉をどうにかできても、もう一人を探し出さないことには解決にはならないわけか」
「そういうこと。表立って動いているのが〈煉霊の魔術師〉だから彼女を抑えれば大きくは動けなくなると思うけど、そっちも逃げられちゃったし。これは私のミスだね、ごめん」
「いや、お前が無事で良かった」
潤と幸姫に連絡のつかない今、彩夜までいなくなってしまったら。そんなのは想像したくもない。間違いなく最悪の事態だ。
悠也の言葉に彩夜は柔らかな微笑を浮かべた。
「それで悠也、このあとなんだけど……潤の家に行ってみない?」
「俺もそれがいいと思っていた。これだけ連絡がないとなると流石に心配だ」
「だよね。それじゃあ」
と、そのタイミングで悠也のスマホに着信があった。
潤か幸姫かと期待して画面を見るが、表示された名前は「悠香」。悠也の妹の名前だ。
拍子抜けした思いで電話に出る。そして。
『お兄ちゃん助けて!』
息を切らした妹の切羽詰まった声に、背筋が凍った。
「……おい、おい悠香、どうした、何が」
『わかんない! なんかでっかい『蜘蛛』みたいなやつがいきなり追いかけてきて、それで』
「今どこだ。助けに行く!」
『うちの近くの――』
そこで途切れた。
「悠香?」
まるでスマホを落としたかのような大きなノイズと共に、悠香の声は聞こえなくなった。
「…………っ! 彩夜、来てくれ!」
「え、ちょっと悠也!? 会計がまだ……」
「いいから!」
彩夜の腕を掴み。無我夢中で駆け出した。荷物を席に置きっぱなしで店を出た。
「『魔術師の勘』だ!」
「は!?」
「悠香が『蜘蛛』に襲われた! まだ間に合うかもしれない! 探してくれ!」
「……了解!」
場所は悠也の家の近くのどこか。ある程度は絞れている。彩夜の『勘』があれば『蜘蛛』を発見するのは不可能じゃない。
そう思われた。だが、悠也の家の前まで来て彩夜は言った。
「駄目悠也、ここからじゃ何も感じ取れない」
「く……っ」
まだ通話中のスマホのスピーカーに耳を澄ませる。何か手掛かりになる音が聞こえるかもしれない。
と、ちょうどそのとき、スピーカーからノイズが聞こえた。
「悠香か!? 聞こえてるなら返事をしてくれ!」
『――――――――――残念、人違いです黒宮悠也くん』
愕然とする。と同時に、何が起きたのかを察する。
悠也は沸々と煮えたぎる感情と共にその名を口にした。
「……名守、幹恵」
『ええ、そうです。実は少し伝言をお願いしたくてお話を』
「何をした」
『はい?』
「悠香に、何をした」
電話の向こうで、名守が笑む気配がした。
『意趣返しを』
「答えになってない。悠香に何をしたのかって聞いているんだ」
『だから意趣返しです。そちらに紅野彩夜さんがいらっしゃるようなら是非お伝えください。これは貴女がしたことへの報復なのだと。それでは』
「待て、まだ話は」
通話が切れる。
と同時、彩夜が悠也の手を掴んだ。
「彩夜!?」
「屋根の上から確認した。向こうで女の子が倒れてる」
「……っ」
その後、すぐに悠香は見つかった。
宵闇の中、制服姿で、冷たいアスファルトの上に四肢を投げ出して倒れていた。
外傷はなく、心臓は規則的に鼓動し、呼吸も正常。
けれど、呼びかけに応えることはなく。
あまりにも綺麗な姿のまま、深く深く眠っていた。




