ハムスターの名前は梅子
★主任になる合法ショタ
「新しい部署?」
平社員の合法ショタにとっては、かなり上の役職に呼び出されたから、なにかあるとは思っていた。今年で三十八歳、独身彼女なし。いやそれは今は関係ない!
「そう、そこで主任をやって欲しい」
これは良い知らせ、という解釈で良いのだろうか。イマイチ喜ぶタイミングがわからない。主任、というけれど同期の中では遅いほうだ。一瞬眉をひそめたが、すぐにいつもの営業スマイルを浮かべる。
「はい、わかりました」
「それじゃ、よろしく」
部屋を出て、ゆっくりと扉を閉める。なんだか実感がない。
こうして、合法ショタの主任ライフが始まるのであった。
★梅子爆誕
「最近寂しくてな」
「今更じゃない?」
間髪入れずにそうツッコミをいれたのは上司だった。いや、上司以外にこのタイミングでこんなことを言える人間はいないだろう。
合法ショタはふぅ、と小さくため息をついてやれやれと呆れたように首を振った。
「いくら上司さんでも怒りますよ」
独身の寂しさは、上司もわかっているはずだ。夜中に風呂掃除をしていたら、なぜか涙が流れてきたことだって二度や三度じゃない。
上司をたしなめたところで、再び口を開く。新婚とヒロインは、我関せず、といった様子で仕事の手をとめない。しかし、合法ショタがちらりと彼らのほうへ目をやると、それに気づいたのか会釈をし、曖昧な微笑みを浮かべた。
「それで、ペットを飼おうと思ったんだ。俺猫好きだし」
「そうなんですかー」
ニコニコと笑みを浮かべてヒロインが相槌を打つ。合法ショタは少し気を良くしたのか、声のトーンが上がった。
「それで、色々調べたんだが――」
そこまで話して一旦言葉を区切る。そして、神妙な面持ちをして、声を低くした。
「うちのマンション、ペット禁止だったんだ」
「.......それオチですか?」
新婚は眼鏡の奥の瞳を細め、訝しげに呟いた。
「いや、話にはまだ続きがある」
「主任無理しないでください」
すかさずヒロインがそう言うが、合法ショタはどういうわけか自信に満ち溢れている。目をキラキラさせて、楽しそうだ。
「それで、大家さんとの交渉によりなんと、ハムスターを飼うことにした!」
「あ、よかったですね」
新婚はもうすでに話半分に聞いている。忙しそうに、書類に目を通しているのがその証拠だ。
「それで、ペットショップに行ったんだ」
合法ショタは気にせず話を続ける。話を続けながらも、作業の手を止めていないのが彼の器用なところでもあった。
「店員さんが、ひたすら『おうちの人は?』って言うから、『俺一人暮らしです』って答えてたわけ、そのあとも色々言ってきたが……まぁ、免許証見せたら大人しくなったけど」
彼らにとっては、この手の話はよく聞いている類のものであった。あらかた話し終わり、満足している合法ショタに、ヒロインがすかさず声をかける。
「えー、それでハムスター飼ってるんですか?」
「ま、まぁな」
ヒロインの言葉に、少し照れたように笑う。
「名前はなんていうんですか?」
なんでもないような会話ではあるが、なかなかにやりおる。ヒロインの話術はなかなかのものだ。
「梅子」
★親戚の子供にお年玉をあげる合法ショタ
正月休みくらいしか、実家に帰ることもなくなった。合法ショタは、閑静な住宅街に建つ長年過ごした家のドアを開けた。
リビングに入ると、遠い親戚の子だろうか、よく知らない子が怪訝そうにこちらを見ていた。あれ、お年玉ってどういうタイミングであげればいいんだ。
「おーい」
兄が手を振っている。もう既に飲んでいるようだ。
「もう飲んでんのかよ」
そう言いながら、隣に座る。自宅にはこたつがないため、なんだか懐かしい気持ちになる。
「さっきの子誰?」
「あぁ、なんか遠い親戚みたいな」
合法ショタもそうだが、兄もれいにもれず、酒にはそこまで強くない。でも好き、という迷惑なタイプだ。
「ふーん。でさ、お年玉ってどういうタイミングであげればいいんだ?」
「あ、合法ショタおじさんだー」
兄の子供にあたる甥がやってきた。まだ小学生だというのに、身長を越されそうである。
「なんか面白い話してー」
そう言って、こたつに入ってみかんを剥き始める。みかんはおいしい。合法ショタもみかんを手に取った。
「上司に誘われてキャバクラに行った話と、歯医者で小学生用のくじを渡された話とどっちがいいかな」
「おい、キャバクラとか言うのやめてくれ」
兄にそう言われ、そうか子供の前か、と改めて思う。
「ごめん、じゃあ歯医者だな」
「そういう問題じゃないが……、まぁあれは適当なタイミングでいいから」
「りょーかい」
あれってなにー、と聞かれたのは、また別の話。
★手数料を引かれたいタイプのドM
ドM「今日から配属になりましたドMです! よろしくお願いします!」
上司「あー、ドMくんは新婚くんと同期なんだよね」
ドM「はい!」
新婚「研修でしか話したことないけど」
★花粉症
ドM「花粉症の人ってよさそうですよね」
合法ショタ「なにが?」
ドM「いや、僕花粉症じゃないんですけど、花粉症の人ってこの時期めっちゃつらそうでいいなって」
合法ショタ「あっ…(察し)、そうか」
★審査員のはずなのに子役オーディションを受けることになった合法ショタ
★ねればねるほど
コストコに行く合法ショタ、サイダーとケーキを買う→運転上手い→泣きながら酒をあおる
★スーパーで泣き叫ぶ子供の目の前でカゴに大量のお菓子を入れる合法ショタ
「今日の夕飯はねるねるねるね!」
★テスト
違法おっさん「今度テストなんですけど、課題すら終わってないんすよ」
合法ショタ「気合いだな、あとは集中力」
ドM「勉強ってさ、基本ちょっと苦痛な部分あるじゃん」
違法おっさん(いい話かな?
ドM「そこがむしろいいみたいな」
違法おっさん「え」
合法ショタ「え」
★秘書課
ドM「ヒロインさんて、秘書課の友子さんと知り合いなんだよね?」
ヒロイン「(危険を察知)いやです」
ドM「まだなにも言ってない……」
★休憩中
上司「そういえば合法ショタくんて彼女どれくらいいないの?」
合法ショタ「大学卒業してからモテなくなった」
ドM「大学時代はどうやってアプローチしてたんですか?」
合法ショタ「え……、まぁサークルの関係で(ゴニョゴニョ)」
ヒロイン「え、主任なんのサークルだったんですか?」
合法ショタ「幽霊と空気清浄機の戦いについてその時興味があって、オカルト同好会みたいなところに誘われて入ったらめっちゃチャラい人がたくさんいて……」
ドM「あー(察し)」
合法ショタ「心霊スポット行くって言われてついて行ったところで知り合って付き合ったな」
ヒロイン(やばそう)
★ゲーセン
ヒロインとゲーセンに行く合法ショタ→年確される→ヒロイン「私には聞かないの?」
合法ショタ「免許証は本当に便利だな、身分証として有能」
ヒロイン「主任この前ゲーセンで年齢確認されてましたしね」
新婚「たしかに免許証いいですよね、本とか買えるし」
ヒロイン「本?」
ドM「わかる」
新婚「待って、ドMくんと一緒にされたくないなんか」
ドM「なにそれもっと言って!」
違法おっさん「俺も免許証欲しいです。車運転できるし」
★令和
ヒロイン「令和かー」
違法おっさん「ついに俺の時代も終わる!」
ヒロイン「なんか時代終わる感あるよねー」
新婚「俺らも一応平成生まれだよな」
ドM「だからなに?」
上司「みかん、すっぱい」
合法ショタ「いんすたぐらむ? ってなに?」
★合法ショタがヒロインと付き合おうと頑張るが、空回りする話
ヒロインと付き合った世界線の合法ショタ(何かを手渡す)「プレゼント」
ヒロイン「あ、ありがとうございます」
合法ショタ「ヒロインさんiPhoneだよね」
ヒロイン「そ、そうですけど(嫌な予感)、開けていいですか?」
合法ショタ「どうぞ」
ヒロイン「iTunesカードだ!(1万円分)」
★ヒロインと付き合えた世界線の合法ショタ
ヒロイン「主任ってたしかハムスター飼ってるんですよね?」
合法ショタ「梅子な、今度会いに来るか?」(梅子をダシにして誘う)
ヒロイン「え、あー、はい」
★恋愛テクニック
合法ショタ「ボーリングに誘って靴のサイズを把握……か、メモメモ」
ヒロイン「なにしてるんですか?」
合法「い、いやなんでも」
違法おっさん「靴のサイズがどうこうって言ってませんでした?」
ヒロイン「靴ってメーカーによってだいぶサイズ変わるよねー」
合法「何を信じたらいいの…」
★平成
合法ショタ「平成を独身で駆け抜けた」
上司「同じく」
なにかに焦ったドM「ギャルちゃんギャルちゃん、秘書課の友子さん紹介して」
★何かが違う
合法ショタ「この前バンジージャンプしに富士急ハイランド行ったんだけど~」
ドM「誰といったんですか?」
合法「え、いや普通に1人で」
ドM「なにそのプレイ楽しそう」
★おいしい
合法ショタ「たべっ子どうぶつを大人買いしたんだが、食べきれなさそうだからやるよ」
違法おっさん「どういう状況?」
合法ショタ「スーパーで子供が泣き叫んでいた」
ヒロイン「大人気ない! でもたべっ子どうぶつはおいしい!」
違法おっさん「おいしい」
★ショタは汗をかかない
違法おっさん「最近暑いですよね」
ヒロイン「暑いですね」
合法ショタ「戻りましたー」
違法「主任暑くないですか?」
合法ショタ「外回りだからネクタイいるだろ」
ヒロイン「そういえば主任全然汗かかないですよね」
違法「なにそれ怖い」
合法「妖怪扱いやめて」
★あの項目はなんのためにあるのか
合法ショタ「この前クレカの審査で今の家何年住んでますかみたいな項目があって、思い返してみたら20年くらい住んでた」
ヒロイン(私と同い年)
ヒロイン「これなんて返すのが正解なんですか」
合法ショタ「『オススメのクレカは?』とか?」
ヒロイン「オススメのクレカは?」
★秘書課
ギャル「友子先輩、海外から戻ってきたドMさんって知ってますか?」
友子「え、あ、まぁ。今ヒロインちゃんと同じ部署の人だよね」
ギャル「友子先輩のこと紹介してって言われたんですけど……」
友子「やめて」
★就活中の合法ショタ
舌打ちをしながら喫煙所に入ってきたのは、どう見ても小学生だった。
リクルートスーツを着ていること、今まさに、ポケットから煙草の箱を取り出したことを除けば、ごく普通の小学生である。
「なに見てんだよ?」
じろじろ見すぎただろうか、動揺して思わず目を伏せる。そもそもここは大学だぞ、どうしてそんな小学生なんかが。でも、声は少し大人びているかもしれない。声変わりの時期と考えれば、それほど違和感はない。
「火」
こともあろうにそいつは、俺にそんなことを言ってきた。
「あのさぁ――」
「学生証ならあるぞ、それとも、免許証のほうがいいか?」
俺がなにかを言う前に、そいつはカードを見せてきた。学籍番号をみるに、先輩だ。ていうか、歳上!?
「火!」
唖然とする俺に、またしても舌打ちをする。のろのろとライターを取り出すと、ひったくるように取られた。
「あ゛~、ヤニ切れつらい!! そして人事は滅びろ!」
小さく悪態をついている。幸い、ここには俺とそいつしかいない。薄い煙を吐き、そして何回かに分けて味わうようにそれを吸う。
「あのう……」
「聞いてよ! 俺何回『本当に昭和生まれ?』って言われた? そして何回お祈りされた!」
「……大変っすね」
うちの学校は、私大ではあるものの、たいていの学歴フィルターは突破できると言われている。とはいえ、就職は運と縁。お祈りもされるだろう。
「まぁ、それはいいや。ESは通るしまだまし」 「そうっすか」
頷くことしかできない。たしかにこの容姿では、職種も限られてくるかもしれない。
そいつはおもむろに手帳を開いて、予定を確認している。横から見るのも失礼な気がして、俺は早くこの煙草を吸いきることに集中した。一気に吸うと、少し頭がクラっとする。
「そうだ、夕方からゼミの飲み会だわ」
そう言って、ライターをぽん、と投げてくる。
「飲み会もな、なぜか俺だけ免許証見せろっていうしな」
――でしょうね。
しかしそんなことを思っているなんて悟られてはいけない。俺はポーカーフェイスで、煙草を吸い続けた。
「なんだよ、つまんない奴だな」
「いえ……、苦労してますね」
曖昧に笑うことしかできない。こいつは変に気分を損ねると、面倒くさいタイプの人間だ。そう俺の本能が告げていた。
「なんかなー、でも大学って私服だからいいよな!」
そして「中高って大きめで採寸するじゃん。それでそのまま過ごしてたから」と続ける。
ひとしきり喋ると満足したのか、短くなった煙草の火を消して、最後に大きく息を吸った。
「ライターありがとう、またな!」
どうみても小学生の先輩が他学部にいるという噂を聞くのは、もっとあとになってからの話。
過去編
★研修をする新人時代の新婚(独身時代)とドM(現役)
研修所では、数日間一緒にマナー講習などを受ける。
同じ班になった新婚に、ドMは話しかけた。
「新婚くん情報系なんだー、すごいね」
さっき自己紹介をしたときに聞いたのでそう言ってみる。周りは営業職が多いが、新婚は技術職での採用であるようだった。
「いやいや、ドMくん頭良いし、モテるでしょ?」
あまりにもナチュラルにそんなことを言ってくる。正直、モテるほうではある。しかし、それは第一印象の話だ。
「最初はいいんだけどねー」
「え……」
新婚はなにかを悟ったのか、それ以上なにも追及してこなかった。
★喫煙者時代の合法ショタ
正直なところ、第一志望とはいかなかったが、無事内定をもらうことができた。
研修も終わり、簡単ではあるが仕事を割り振られる。同じ部署の同僚は、要領の良いやつでわりかしに仕事が早い。
残業中であるわけだが、今日は珍しく同僚も残業をしていた。
「あ゛~~!終わらん!」
髪の毛をわしゃわしゃと掻いて、イライラしながら席を立つ。
同僚はあまり気にした様子はみせずに、ちらりと合法ショタに視線をやった。
「どこ行くん?」
「ヤニ切れ」
タバコの箱をポケットから取り出して、振って見せる。喫煙所へと向かう合法ショタの背中に、同僚のため息が聞こえた。
「喫煙者なのか、あれで」
★休憩時間
休憩時間は同僚も、喫煙ルームへ行く。たまたま、合法ショタがいた。といっても、彼は結構な頻度でここにいるからまぁまぁの確立で会う。
簡単に挨拶を交わすと、合法ショタが神妙な面持ちで話しかけてきた。
「この前同窓会だったんだけどさ、居酒屋で」
「うん」
同窓会か、と同僚は少し考えた。自分もそういえばこの前参加したが、結構変わってる人もいるもんだ。時の流れとは恐ろしい。
「俺だけ年齢確認された」
「ぶはっ」
つい笑ってしまった。というか煙が詰まって苦しい。
「なに笑ってるん?」
合法ショタは少し怒っているようだった。深くタバコの煙を吸う。
「あと結婚してるやつとかちょくちょくいた」
「あーそれはあるね」
二十代前半ではあるが、少しずつそういう話が増えてきている。
「なんかイライラしたからさ、買えりにパチ屋行ったの」
「同窓会の帰りにパチ屋か」
なんというか、うん。ノーコメントだ。
「そしたら警察に声かけられて」
「まって、これ笑っていい話?」
なんとなく話の流れが見えてきたような気がする。
「お前すでに笑ってるぞ」
合法ショタは眉をひそめて、透明に近い煙を吐き出した。
「それで、『どこの小学校?』って言われて。そのとき手が離せなかったから無視したんだけど」
「でてたのね」
物理的に手が離せなかったわけだ。しかし、警察も話しかけるタイミングが悪い。
「そう、で、終わったから警察に免許証見せたわけ」
「ふーん」
「そしたら帰った。そのあとめちゃくちゃニコチンとタール接種した」 「タバコね」
★戦慄迷宮
「富士急ハイ〇ンドに行きたい」
主任が突然そんなことを言い出した。少し驚いたが、わりとよくあることなので最近は慣れてきた。
「デートですか」
コストコデートもそこそこ楽しかったが、やはり遊園地のほうがデートらしい場所だ。私は少しワクワクしていた。
「い、いや、この前バンジージャンプは一人でしにいったんだが。お化け屋敷? は一人では入れないらしくて……」
「戦慄〇宮ですね! 行きましょう!」
というかこの人、一人で戦慄迷〇行こうとしてたのか……。
待ち合わせ場所に行くと、いつもの格好で主任が待っていた。なぜ遊園地にスーツ……?
「今日なんか白いな」
「え……」
服のことなのか、たしかにちょっと気合を入れて可愛い感じ? にしたとは思うけど、感想それ!!??
「いやなんでもない、乗って」
助手席のドアを開けてくれる。この車いい匂いがするけど、芳香剤とか使っているんだろうか。
「いやー、でも楽しみだな! お化け屋敷」
首都高速道路を飛ばしながら主任は嬉しそうだ。そんなに楽しみなのに、戦〇迷宮の名前は覚えないのは面白い。
「そうですね、なんか廃病院っていう設定らしいですよ!」
「おお、廃病院か!! サークルで昔行ったことあるぞ!」
そういえば大学時代はオカルトサークルに入っていたとか以前話していたな。よくわからないけれど、面白そうだ。
「おお、懐中電灯とか使うのか、わくわくだな!」
どんどんテンションの上がっていく主任をみると、なんだかこちらまで楽しくなってくる。
チケットを購入するときに、小学生料金をおすすめされたときはどうしようかも思ったが、まぁ普通に買えたのでよしとしよう。
おっ、そろそろだな!」
「気合い入れていきましょう!」
いざ! 〇慄迷宮へ!
★コストコ
「なんで休みの日に買い出しとかしなきゃいけないんだよ」
まだまだ暑い日は続くが、コストコの中は寒いくらいだった。食品コーナーはなおのことで、ヒロインは持っていたカーディガンに袖を通す。
「えー、いいじゃないですか! 楽しいですよ!」
「ヒロインさんがそう言うなら、まぁ……」
ヒロインの言葉に、合法ショタはスマホで買い物リストを確認する。カートを引いていたドMは、目を細めて魚売り場の向こうを凝視していた。
「てかなんで友子さんはいないんですか?」
ドMの言葉に、思わず呆れたため息が出る。
「そもそも友子は部署が違います。ドMさんは来なくてもいいって上司さんに言われてましたよね? ただでさえサビ残するからって、友子も困ってました」
「え、友子さんが僕のことを考えてくれてるの?」
この人と話していると疲れる。まぁでも、重いものを持ったり、操縦の難しいカートを押してくれるのは正直助かる。
「友子さんと付き合いたいだけなんです! できたら踏んで欲しいけど――」
合法ショタが、哀れむような視線をドMに向ける。ふと外したそれが、ヒロインと合った。
「てかお二人は付き合ってるんですか?」
「……え?」
急な問いかけに、ヒロインは困惑した。野菜コーナーも冷凍庫のように寒い。息が白くなるほどなのに、さっきほど寒くないような気がした。
「いやなんとなく察してはいましたけど」
「それは……」
「付き合ってる」
なんと答えようかと考えていたら、合法ショタが口を挟んだ。特に照れる様子もなく、二十個入の卵をそっとカートに乗せながら。
「あやっぱりそうなんですね」
食品コーナーを離れると、暑く感じるほどになってきた。水の箱をカートに入れたら、買い物は終了だ。
「レジ僕がやっとくので、車で待っててください」
気を利かせたのか、ドMがそんなことを言い出した。
「でも重いのとかありますよ、大丈夫ですか?」
さっきの水とか、かなり重そうだ。
「重いもの持つの、好きなんですよね。基本苦しいことならなんでも――」
「あ、じゃあ先行ってるわ」
言葉を遮って、ヒロインの手を取る。レジを抜けると、少しだけ人口密度が下がった。
「アイス買ってこ?」
「え? いいんですか?」
「ここのおいしいよな」
「久しぶりですよね、ここ来るの」
牛乳のアイスクリーム、量は多いが、濃厚でおいしい。イートインスペースもあったが、人が多いので、とりあえず屋上の駐車場へ移動した。
「綺麗な夕焼けですね」
食べ歩きはよくないとわかっていたが、溶けるアイスに思わず口をつける。秋の始まりの風と、カラスの鳴き声。
「今日はなんとかという日で、昼の長さが長いらしい」
「なんかちょっと違う気がしますけど……はい、主任、あーん」
「あ? あぁ」
かわいい。無地のポロシャツのおかげで、なんとか中学生くらいには見える。
「さっき」
「ん?」
「さっきの、嬉しかったです」
そこで初めて照れたのか、視線を外した。車の鍵をポケットから取り出して、ストラップをいじる。
「別に事実だろ」
アイスは半分ほど減っただろうか、いつまで食べても減らないような気がする。
「そろそろ戻ってくるかな、トランク開けとくか」
「あ、はい」
助手席の、飲み物を入れるスペースにとりあえずアイスをねじ込む。合法ショタは運転席でエンジンをかけるか迷っているようだった。エスカレーターの出入口を、しきりに気にしている。
「遅いですね」
「んー、混んでたしな」
祝日だし、やはり一人だと厳しかっただろうか。
「あのさ」
エンジンがかかっていないので暑い、窓も開けられないし、また外に出たほうがいいのかもしれない。あ、そうだアイスを食べよう。
「俺と結婚してください」
アイスに手を伸ばした手が止まる。え、今なんて。幻聴でも、聞き間違いでもないことは、車内の沈黙が示していた。
「はい」
これでいいの、返事ってこれでいいの。されたことないからわからない。それにしても暑い。よく考えたら、カーディガンを着たままではないか。
「あの! ホットドッグ買ってきました!」
ドMの声が外から聞こえる。近づいてきていたはずの、カートの音すら気にならなかった。
「俺のBMWが匂うだろ、食べるけど!」
「ふふっ」
なんだか緊張感がなくなって、笑ってしまう。
「なに? なんかあった?」
ドMの持ってきたホットドッグにはマスタードをこれでもかとかけてあった。
「今日は、昼と夜の長さが同じ日なんですよ」
エンジンをかけたおかげで、生ぬるい風が吹く。良い休日だ。
最期までお読みくださりありがとうございました。
あらすじにも書きましたがここにも登場人物を書いておきます。
梅子
合法ショタのペットのハムスター
こいつだけ名前がある
上司(45)
甘党で独身
合法ショタ(38)
主任、運転が上手い
新婚(28)
隠れオタク
ドM(28)
新婚と同期。海外出張から戻ってきた
ヒロイン(20)
もともと秘書課にいた
違法おっさん(17)
たまにくるバイト、高校生
友子(20)
ヒロインの同期、秘書課
ギャル(18)
最近入社した、秘書課