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サンドラ、崖の上の・・

「なんだかなあ」



 サンドラは小高い崖の上から遠く眼下に広がる荷車引きと二つの勢力の睨み合いを見ていた。




「荷物の中身なんだろうな」

「知らないわ」


「全員死なねーかな。そうすればあの荷物貰えるのに」

「どうせまた誰かが寄ってきて同じになるわよ」

「ちげえねえ」


「いっそ、荷物の中身の食料に毒を仕込めば全滅してくれて楽じゃない?」

「嬢ちゃんも性格が悪いな。食えなくなるじゃねーか」


 サンドラの話し相手はただの浮浪者。特定の組織や村に入らず一人で山をさ迷い暮らす。敢えて住居は持たない。定住すると土地勘のある冒険者の餌食になる。

 サンドラとは焚き火を一度共有した仲だ。サンドラは蛇を焼き、浮浪者はカラスを焼いてそれぞれ食べた。

 浮浪者はサンドラを襲わなかった。一人旅をするサンドラは只者でないと警戒したのだろう。こういう旅人はハイスキル持ちなこともあり得る。性欲の為に無用な危険を侵し体力を使うことはない。


 そして二人が崖の上から眺めるのは運び屋を襲おうとしている二つの勢力。

 荷車は木の枝が積まれている。薪に使う物だろうが、恐らくはカモフラージュ。見えにくい奥には食料が隠されていると想像できる。

 少なくとも荷物としての食料は無くても運び屋の食料は有る筈。

 それを強奪しようとした冒険者集団が偶然二つかち合った。


 三者によるにらみ合い。


「さあどうなる?」

 浮浪者が骨だけになったカラスの足を崖下にぽんと投げる。


「案外運び屋が一番ヤバい奴かもよ」

「どういうことだい?」

「荷物は餌。寄ってきた冒険者を収穫する狩人かもよ」

「人肉かあ、嫌だ嫌だ」

「にしても、二つの冒険者集団に来られるとは誤算かもね」

「肉が余るねえ」



「始まったわ」


 眼下では戦いが始まって居た。状況は判りやすい、勝って生き残った者が全てを獲得するのだ。


 運び屋は四人居たがそのうち二人がハイスキル所持者だった。やはりヤバい奴で爆発系の魔法が一人に体力増強系の魔法使い手が一人。

 襲撃冒険者集団はハイスキル所持者はそれぞれ一人づつ。一人は体力増強系、もう一人は特殊剣のようだ。

 強い四人が中心で睨み合う。たまに戦い出すが、他の奴に背後をとられそうになると、ぱっと離脱して距離を取る。なかなか戦況が進展しない。

 強くなさそうな人々は遠く距離をとって楽々している。自分達のボス格が死んだならスタコラサッサと逃げるつもりだろう。その為の距離だ。きっと追われはしない。肉にするといっても死体が一つか二つ有れば良い。沢山有っても腐らせるだけだ。


「弱い人を捨ててあの四人で仲間になればいいのに」


「ああいう奴って皆『俺様』だから同格の奴とは上手く行かねえんじゃねえか? つまらない喧嘩したりとかよ」

「それもそうね」


「ここまで危険な生き方するくらいなら農家の方が良さそうなのに、絶対しないのが流石は冒険者ね」

「ああはなりたくねえもんだ」

「貴方は?」

「俺は冒険者だったことは一度もねえよ」


「なんで高崎にいるのよ」

(そこく)に帰ると指名手配されてるからさ」

「そう」


「お、一人死んだか」

「ほんとだ。襲った方の一人か。あーもう片方の冒険者も死ぬなありゃ」


 運び屋を襲った二つの冒険者集団のうちの片方は強い奴が死に、見守って居た下っ端も逃げて居なくなった。こいつらは一度も剣を抜いていない。


「あ、死んだ」

「終わったわね」


 運び屋を襲ったもう片方の冒険者も斬り殺された。

 またもやスタコラサッサと逃げる下っ端。薄情である。

 最後に残ったのは運び屋側四人。

 死んだのは襲った冒険者集団の二人。

 二クループの下っ端はあっさり逃げた。薄情だな。まあ、立ち向かった処で瞬殺だろう。


 さてどうなるだろう?と見ていたら案の定だった。

 戦わずに避難していた二人が荷車から道具を下ろし簡易かまどを組みあげ火を起こす。そして死んだ冒険者の解体調理を始める。頭は切り落とされ遠くに投げ捨てられた。切り初めはグロい光景だが、人としての形が失くなるとただの肉だ。


「うええ、やっぱりかあ。おらあ人肉は食えねえや。死体投げておいて寄ってきたカラス仕留めた方がマシだわ」

「それなら野犬狙いもアリね」





「さて、仕事をしようかしら」

「ああ、頑張れよ嬢ちゃん。あいつら捕まえに行くんだな」


「何言ってるの、彼等は無罪よ」

「そんな事ねえだろ、人殺しで食人だぜ?」

「この国では殺人も食人も罪では無いわ。国王(牧子)が放置してるもの。警察も裁判も無い。彼等は当たり前に食事しただけよ」

「食人が合法とはねえ」

「それより問題は貴方よ、()()()()

「なんだよ、俺を捕まえに来たのかよ。役人だったか」

「そう。違法武器の不法所持及びそれの強盗殺人。大人しく捕まってくれないかしら?」


 マーカスと呼ばれた男は体の前で両拳を軽く当てて見せる。

 両手には何時つけたのか厳ついグローブ。

 それは魔界製の戦闘用グローブ。殴られたら痛いでは済まない、即死だ。フルパワーで殴れば大岩も爆砕出来るし、打った衝撃波だけでも同じかそれ以上の威力を出す。それを両手にはめている。


「折角、魔国で第二の人生を始めたのになんで人間界に舞い戻ったの? 武器の強奪までして」


『マーカス』は本名ではない。本当は弥太郎という名前で人間界生まれ。マーカスとは魔界で改名した時につけた名前だ。

 数年前、縁有って人間界を捨てて魔界に住むことを選んだ。人間界は捨てた筈だった。

 だが彼は所持を禁止されてる武器を強奪して人間界に舞い戻った。その強奪の事件で人を殺している。


「嬢ちゃん、来るの早すぎるよ。俺はまだやることやっちゃいねえ!」

「どうせ下らないことよね。調べで想像できたわ。昔バカにされた仕返しでしょ。強い武器手に入れて()()()したいの?」




「ウルセエ! 俺を馬鹿にしてたあいつらを血祭りにあげるんだ! だからあいつらを探してる! 邪魔すんな!」


 マーカス(やたろう)は人間界に居た頃は落ちこぼれだった。学校でも、仕事でも。

 優秀な人間には馬鹿にされ、立場も弱くなり、恋愛敗者にもなったろう。覆す努力をしないのもまた人生。

 そして偶然が重なり彼は魔界に移住した。

 人間界で奮起しないのなら魔界で全てを忘れて生きる。それも一つの道。


 だが、自分(凡人)でも使える強力な武器の存在を知った時、彼は狂った。


『ざまぁ』の道を選んだ。

 武器の管理者を殺し強奪して人間界に逃げた。そしてかつて自分を見下していた人達を殺すべく高崎王国に舞い戻った。


 だが、高崎王国は国が大混乱していて誰が何処にいるかわからない状態。

 マーカスは未だ一人も殺せないまま高崎をさ迷っていた。



 崖の上で対峙するサンドラとマーカス。


「アシストグローブT51、容量25Jモデルとは欲張り屋さんね」


「個人で使うにはこれ以上の武器はない。ついでに言うと容量は32Jまでアップ済み。最強だ」

「ただの人間相手にチート武器使うとは流石駄目っ子ね」



「ウ ル セ エ !」


 マーカスがサンドラに殴りかかる!

 斜め後ろに飛び退くサンドラ! 手には蛇を焼いた時に使った焼き串一本しかない。

 マーカスのグローブ周辺の景色が歪み空砲のような物が飛ぶ!

 サンドラが居た所の木々が破壊される。倒されたのでは無い、破壊されたのだ!


「危ないわね。人に使う代物じゃないわね」

「おれの邪魔するからだよ!」


「はっ!」

 サンドラが串を投げる!

 だがマーカスがニッと笑いながら拳を突き出せば、串はマーカスに届かず蒸発して失くなった!


「おまえの攻撃など届かん!」

 マーカスのグローブは攻守共に最強だ。

 グローブの周辺はパワーエリアでグローブを構えてるだけで強靭なエリアバリアーになる。

 振り抜けば押し付けた空気が武器となって飛んでいく。衝撃波の超圧縮版だ!

 エネルギー源は魔力の一種だが、違法改造で超大容量。軍用よりでかい。こんなものを凡人が使えると言うのだから恐ろしい。


 ドゴン!

 ドゴン!

 ドゴン!


 マーカスが三発続けてぶっ放す!

 崖の上は地獄と化す!

 崖の下でくつろいで居た筈の集団も上を警戒する。

 明らかに只者じゃ無い奴らの戦いが聞こえる筈。


「やっ!」


 バババババババババババ!

 バババババババババババ!

 バババババババババババ!

 サンドラが地面から土の柱を立てて先端から分割しながら打ち込む!それも四箇所から!

 サンドラの得意な土攻撃。

 材料はどこででも簡単に手に入る土。それを柱に立てて先端から少しずつ弾丸にして敵に打ち込むのだけれど、この攻撃の良いところは離れた場所でも使える。そう、今サンドラはマーカスを四方から囲んで撃ち込んでいる!



 だが、弾がマーカスに届いて居ない。

 マーカスのグローブの広範囲排圧のバリアのせいだ。


「ははははははっはっは!

 効かねえよ!

 じゃあ、死ね!」


 マーカスは左手を防御位置に置いたまま右手をサンドラの居る方にに向かって突いた!


 ドゴーン!


 マーカスの巨大な空気砲はサンドラの居た辺りを跡形もなく吹き飛ばした!

 巨大な爆炎が収まると・・・・・


 やや横に何事も無かったように立つサンドラ。

 そして、十箇所近くの被弾で血まみれのマーカス。

 全身を四方八方から撃たれてボロボロのマーカスは地面に崩れ落ちた。


「・・・な・・・・・なんで・・・」


「馬鹿じゃ無い? あんなでっかい空気砲使えばバリア役に立たないほどの負圧で周りのもの吸い込むに決まってるじゃ無い。並のバリア以下の壁でしか無かったわよ。私は避けただけ弾も変わらず撃ってただけよ」


「そんな・・・・」


 そう、サンドラは土弾を続けて撃ってただけ。攻撃を少し避けただけ。

 マーカスの高出力グローブで超圧縮空気を作って撃ち出したら、超圧縮空気を形成するために、左手グローブのバリアも効かないほどの吸い込みが発生して、サンドラの弾はあっさり防禦を突破した。いや、半分吸い寄せられたようなものだ。特に背後からの土弾は本来の威力以上に効いたようだ。

 無能がやたら威力のある武器を持って、パワーさえあれば良いと魔力量を増やす魔改造をして自爆した。25jモデルか何故25jなのかには訳がある。


「あんた馬鹿すぎ。 だから周りに馬鹿にされるのよ」



 サンドラは重症で動けないマーカスの頭を蹴って気絶させ、グローブを奪い、あっさりカタをつけた。

 馬鹿相手にはこれ以上話す気も起きない。

 地面に観測職員向けの記号を描き、崖の上に座った。

 眼下でくつろいで居た筈の奴らもいつの間にか居なくなり、正真正銘戦う相手は居なくなった。

 マーカスの砲撃やらサンドラの連射を見たら彼らは怖気付いたに違いない。レベルが違いすぎる。



「つまんない」

 サンドラはぽつりと呟いた。


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