表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/108

サンドラ、小田原を出る

 旧高崎王国 現小田原国領でサンドラは二泊三日を過ごした。

 三日目の朝、サンドラは再び高崎王国方向へ歩き始める。

 街の者からすれば異様な行動だろう。

 弱いであろう小娘が一人山に向かうのだから。



「後をつけられてる・・・当然よね」



 もう街は見えない。

 誰も使わない高崎方向への道。

 後をつけて要る気配にサンドラは立ち止まった。




「バレたか」


「来ると思ってたから」


「やはり誘い出されたのは俺の方か」

「ええ、私は顔には自信があるし」

「ああ、見とれちまったよ」

「正直、好みから外れてないかと心配もしたのよ」

「ギリ範囲内だ」



「哲哉、いえ、逃亡者ショーン」



 サンドラの後を追っていたのは高崎王国で哲哉と名乗っていた男。

 連続幼女強姦魔。

 勇者さとるの親友。

 オタサーメンバー。

 そして勇者さとるが涼子を殺そうとしたのを止めた男。

 元は魔国の人間街の住人ショーン。

 魔国から逃亡した男。高崎王国で力と素性を隠して生きていた。


「東京通りで連続殺人した罪で逮捕するわ」


 サンドラが旅のついでに請け負っていた仕事。それは魔国を逃亡した犯罪者の逮捕。

 魔国の人間街で幼女を二人強姦殺人したショーン。

 人間界に逃げ込み生活していた。


「生憎大人しく捕まるつもりは無いからね。なんなら()()()()()()()()()()()


 ショーンは大人しく捕まる気などない。

 魔界を脱出し、人間界を単身生き抜いて来た。修羅場も何度かくぐった。簡単に諦めはしない。

 サンドラは強い。だが、無敵ではない。年齢故に魔力貯蓄量は多くはない。その分は身体能力で補って来た。

 かつての成人した涼子なら結構な魔力量が有ったが、身体的に12歳程度の体では半分にもならない。


「大人しく捕まって欲しいのだけれど、そうは行かないようね」

「当然だ」



 ショーンが飛びのく!

 二人の間合いは30メートル。


「ハッ!」


 ショーンの声が響く!

 ショーンの周辺の土が縦に盛り上がる。土は細長い柱となって地面に立つ。それは何本も!


「力勝負か」

「確実な方法を取らせてもらうよ」


 追いかけてサンドラも土の柱を立てる。

 勝手に伸びて来る土の柱はショーンより数本少ない。

 二人の間に流れる静寂・・・いや、ショーンが更に数本柱を立てる。


「降伏すれば()()()してあげるのに」

「お前は好みじゃない」




「ファイヤ!」

「行け!」

 撃ち合い開始だ!



 ショーンの作った土の柱の先端がこぶし大に千切れて次々と発射される!

 打たれる土は土の硬さではない、岩だ!

 迎撃する為にサンドラも土の柱からこぶし位ずつ土が発射する!

 対衝突すると、ドゴン!と爆発のような飛散が起きる!


 ショーンの攻撃! ショーンの迎撃! 連射!連射! 連射!

 サンドラの迎撃! サンドラの攻撃! 連射!連射! 連射!


 たった二人の戦いはまるで団体で大砲の撃ち合いをしているような凄まじさ!

 山に爆音が切れ目なく響き渡り、鳥が一斉に逃げ出す!


 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!



「どうしたどうした! これからが本番だぞ!」

 ショーンの周囲にズズズズと、土の柱が生えて来る! 追加か!

 ショーンの弾幕が減る気配がない、いや増えてる!

 一方サンドラも土の柱を立てるが、ショーンより少ない。スタミナの差か!

 サンドラも今までは迎撃の合間に攻撃も入れていたが、今は防戦一方だ。

 ショーンも魔界生まれ魔界育ち。技術の元は一緒だ、後はスタミナ勝負。


 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン! 



「ちっ!」


 堪えきれずサンドラが撃ち方を止め、柱を盾に整形し直し、盾を自力で走らせ、自分もその影を追う。

 そして木の陰に逃げ込む。


「はあはあはあ」

 力勝負は敵わない。

 そっと、サンドラが幹から覗こうとすると、


 バァン!


 木に岩弾が炸裂する!

 見てやがる!


 ショーンが叫ぶ。

「いつまで休んでる!」


 ドゴン! ドゴン! ドゴン!


 その直後、サンドラの真横に爆発が!

 その後、少し離れた場所に爆発!

 また別の場所! 空爆か!



 慌てて木の陰から転がり出ると、また正面から撃たれる!


 ドゴン!


 休む間も無く、草薮半分の林に逃げる!


「まさかこっちのスタミナ切れを待ってるのか? 悪いな、まだまだあるんだよ」

 ショーンの腰には異様に青く光る筒状の物体。

 木陰でサンドラが愚痴る。

「外部タンク持ちか! な! 軍用?」


 魔力の外部タンク。

 自分の体内の魔力を使う以外に、保存用の魔力タンクというものがある。それは高価で使用法が難しいが、使いこなせば強力な武器になる。ショーンが持っていたのは軍用。どこから仕入れた?


 このままじゃ負ける。

 サンドラは思った。

 無様に負けてあんなロリコン野郎の慰み者になるなんて真っ平だ。

 多少の苦戦は覚悟していたが、軍用タンク持ちとは!



 自分の魔力の残量から消費が多い岩魔弾はもう無理。

 ショーンがバリア持ちと考えて、素手に絡めて直接打ち込む。

 それでいいとこ三発。

 こちらのバリアを張る余裕は無し。


 サンドラの腹は決まった。

 接近戦。特攻あるのみ!

 弾は走って避ける!



 木の間を走リ出すサンドラ!


「子供の浅知恵だな」

「悪かったな!」


 ドン!

 ドン!

 ドン!


 必死に避けるサンドラ!

 身体能力は高いが、失敗して一撃だけでも貰えばアウト!


 ドオン!

 ドオン!


 避ける!

 ショーンの足元に這う!



 ドオン!

 地面が撃たれて土煙が舞う!

 一瞬のチャンス!


「ここだ!」

「甘い!」


 背後に回り込んでショーンの意表を突くべく魔拳を右手で打ち込む!

 だが、ショーンもバリアガード!


 ドゴン!


「がっ!」





 ショーンがその場に崩れ落ちる。

 満身創痍ながらも立つサンドラ。


 呼吸が苦しそうなショーン。

 悠々とショーンの腰の魔力タンクを取り外すサンドラ。


「勝負有ったね」

「ほっ、ほっ、ここっ、痛え・・・・なんで・・・・」


「さっき、地面に仕掛けを仕込んだんだよ。魔弾を一発分。気付かなかった? 後は背後から直接もう一発。あんたは前後から爆発に挟まれたって訳。まだ一発あるわよ?」


 ショーンは魔力に余裕が有ったのでバリアを張っていた。

 だが、前後からの爆発に挟まれ、バリアは破れなくても、しなり歪むバリアに胸を潰された。

 ワンテンポ遅れて爆発するように仕込まれた地面の魔弾と反対側に回り込んで手で叩き込んだサンドラの魔弾。チャンスはは一度のみ。サンドラの勝ちである。



 サンドラは地面に特殊なマークを魔法で書き込む。

 ケルマ達への信号だ、直ぐ観測される筈。すぐ向こうから職員が来るはずだ。






「ねえ、生きてる?」



「・・・・生きてるよ。肺が苦しいがな」


「質問いいかしら」


「・・・なんだよ・・・」


「なんで涼子は殺されたの?」


 涼子は殺された。

 牧子に操られていた勇者さとるに。

 そこまでは推理出来ていた。記憶も残ってた。


「・・牧子のせいだよ。牧子に恨まれてたんだよ」


「それが解らないの。なんで牧子が涼子を恨むのよ」


「牧子のお父さんが涼子のせいで失業したんだとよ・・・冒険者だってよ・・・」


 サンドラにも読めた。

 涼子の経済活動のせいでギルドと冒険者は大打撃を受けた。

 景気が良いとギルドは不況になる。冒険者もそうだ。


「冒険者・・・それのせで涼子を恨んだってこと?」


「ああ、しかも、逆恨みだ。あの男は・・・お父さんと呼んでいた男は父親なんかじゃねえ。あんな似てねえ親子が居るか。あいつの逆恨みで高崎は滅んだんだよ」


「くだらない・・・・」


「俺もそう思う」


「あなたが勇者と仲が良かったのは何故? そんな目立つ所に居たら見つかりやすくて隠れるには不向きなんじゃない?」




「ああ。さとるはな・・・・俺の書いた小説の読者だったんだよ、生活のために書いた商業小説だったがな・・・・・初めて感想文貰ってな、会いたくなったんだ。それが事の始まりだ。あいつは俺だと知らない。全く、牧子なんかに操られやがって・・・・しかも小説を書き換えてもらおうだなんて、分かってない。自分で書けと言っときゃ良かったな・・・・」


「そう」



 サンドラが地面に書いた魔法のマークがひとりでに書き換えられる。そして三回光る。

 職員かケルマの確認の返事だ。

 多分、もうすぐ来る。1時間も掛からない。

 正直、ショーンの裁判での判決は殺した人数に比べれば軽いだろう。

 魔国での幼女強姦殺人の罪には問われるが、人間界の幼女強姦殺人はカウントされない。魔界は魔界、人間界は人間界だ。人間界では彼を誰も起訴してない。そして身柄も魔界に行き、二度と出ることはない。出たところで高崎王国の警察も裁判所も今は存在しないし、小田原国では犯行に気付いてすらいない。



「そうそう、貴方、白い馬を見なかった?」


 ショーンは力を抜いて、サンドラから空に目を移した。



「・・・・ユニコーンのことか?」


 サンドラは()()()()()と言うショーンに驚く!

 まさか!


「優姫のことだろ。 なんか会津で大騒ぎが有ったらしいぜ。俺の知り合い(レイプ仲間)がそういってた」


「詳しく!」



「さあ、俺もよく解らねえ。又聞きだしな。優姫が戦争仕掛けたとかなんとか・・・」


「だからもっと詳しく!」


「だから解らねえって。そもそもあんた誰なのさ?」





「私の名はサンドラ。涼子の記憶を持つ者よ」

 サンドラは隠すつもりはない。

 そして顔立ちが涼子そっくりだ。



「そうか、どうりでそっくりだ。やはりあの女は死んだのか・・・・なんでもかんでも牧子の思う通りで気に入らねえな」


「悪いわね、中身年増で」




「何言ってやがる、二歳児のくせして生意気だ・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ