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サンドラ、一旦、小田原に出る

 魔国の観測室。

 職員と元魔王ケルマが観測結果を眺める。

サンドラの砂の柱は残り、対峙していた高い砂の柱が消えた。


「サンドラはハイスキル所持者を殺害したようです。今は小田原に抜けました」


「珍しく殺害をしたな。相当な相手だったのだろうか?」


「分かりません。現地員も居ませんし、サンドラに直接聞くしかないでしょう」


「強くて嫌な奴ほど殺さないサンドラが殺したのだ。生かしておけない理由か気に触ることが有ったのか・・・」


「サンドラの名言は強烈でしたねえ『生きてるだけで罰ゲーム』ですからね。普通『命があるだけ幸せ』とか『生きてるだけで儲け』とかいうもんでしょう」


「ああ、『生きてるだけで罰ゲーム』か。死者の記憶を受け継いだ者はそう考えるのだろうか。私には分からん」


「まあ、サンドラの例は特殊ですし。小田原に何しに行ったんでしょうね」


「うむ。恐らくは『仕事』ではないかと思う。あいつは真面目だからな」



 因みに魔導師留美は魔国での就職の為に資格試験と免許取得に明け暮れている。

 人間界に居た頃は魔法を修めきって、燃え尽き症候群だったが、現在魔国で未知の課題に燃えているところ。

 こちらにも人間村はあるのでそこで住むつもりらしい。良いところに就職するには色々資格が要る。

 魔法にも、熱、化合、電気、引力、空間加速、物質召喚転送など様々なものが有る。

 どれもこれも人間界よりレベルが高いし、空間魔素は人間界より遥かに高い。



 そしてそれはそれぞれ『免許制』である。

 しかも、数年おきに技術更新講習会に参加しなければならない。しかも、免許保有者は免許の数だけ協会費を納めなくてはならない。魔国の魔祖の運営は国が行なっているのでそのためだ。魔素にはコストが掛かって要る。

 魔法事故についても就業中か休日かで罰金や保険適応が変わる。

 離職中は免許を休止させる者も多い。




 ーーーーーーーーーーー





 サンドラは小田原に抜けて居た。小田原国といっても、ここは元は高崎王国領。


 久しぶりに貨幣を使うサンドラ。

 宿も有るし、食堂も有る。

 お金がちゃんと使える街は久しぶりだ。高崎王国は金がゴミだった。


 サンドラがこの街に来た理由。

 かつて魔国から人間界に逃亡した魔界在住の人間の犯罪者を処分する為だ。

 魔国では人間種は目立つ。

 犯人は人間界に逃げ込んだ。人間界なら人間種は目立たない。

 だが、放置しておくわけにはいかない。

 サンドラはその仕事をするというので装備も支給された。

 貰ったからには働く。サンドラは真面目だ。

 この街には犯人の情報を辿って来たのだ。魔国に伝わった情報でもここら辺りが怪しかったし、現地でも情報が聞けた。



 ()()()()といっても、広すぎる。

 人が多い。

 山ふたつ向こうの高崎王国では考えられない。

 女性が普通に道を歩いている。店先に商品がある。

 サンドラは日中、街を歩き続ける。

 店の人、通りの人、目的の犯人が居ないか探し歩き続ける。

 とは言っても手配書の顔のままとは限らない。でも案外そのままの顔かもしれない。


 目立ってしまったのはサンドラの方だった。

 治安のいい街では顔を隠すとかえって怪しまれる。

 どう見ても余所者。

 どう見ても美少女。

 どう見ても丸腰。

 どうみてもひとり旅。


 涼子譲りの美貌は小柄で目立たない筈のサンドラを路の主役にしてしまう。

 皆、サンドラに注目した。


「何処に泊まろう・・・」


 サンドラは安そうな宿を次々と回った。

 行く先々で値段を聞いている。


「じゃあ、一晩お願いします」

「前金で4000、朝飯付き。夕飯は外で食べて来な。うちは夜も朝も同じメニューだからつまらんからな」

「そうします。ではこれを」


 そう言ってサンドラは前金を払った。特に追加しなければこれで支払いは終わり。

 そしてサンドラは夕飯を食べにまた街に出た。




 食堂。

 サンドラは久しぶりのニクパスタを味わっていた。

 ニクパスタは肉ではない。

『食べ()()()()()()』が語源で、幅2cm、長さ15cmくらいの麺でハネて食べにくい。食べにくいが、歯ごたえが有って人気がある。


「お客さん、一人?」

 店のおかみさんが聞いて来た。


「ええ。ずっと一人です」

「すごいねえ。何処から来たんだい?」

「昨日、高崎から抜けてきました」

「高崎! よく生きてたねえ。悪い奴らに追いかけられなかったかい!」

「上手くやりましたから。野宿は平気ですし」

「ねえ、向こうはどんななんだい? 冒険者が出るって聞いたけど」

「行かない方が良いですよ。人殺しが無罪な国ですから」

「いつになったら元に戻るのかねえ」

「今の所変える気は無いみたいですよ。国王の方針みたいだし」

「国王って、涼子かい?」

「涼子は勇者に殺されたそうです。今は勇者の妃の牧子が国王になってます」

「あれ?涼子は死んだの? 涼子が国王じゃなかったの? 涼子が王を殺したって聞いたけど」

「どうでしょうね」


 サンドラは涼子が王を殺したと言われてることを否定しなかった。

『涼子が王を殺した』

 全ての原因は王都日報と週刊オリハルコンの書いた記事。

 もう、これが定説として定着している。

 ここで真実を言っても世界全体に定着した間違った歴史は変わらない。史実が歴史になるとは限らない。


 小説のオチを書き換えてもらう為に勇者が王を殺し、涼子を殺し、王宮職員を皆殺しにした事実は闇に消えてしまった。真実など新聞や雑誌の前では無力なのだ。そしてそれを覆すのも無理なのだ。

 そしてサンドラも無理なことはしない。


 ただ、この2年間の情報は混乱していて色んな説が飛び交っていた。

 涼子が生きていてクーデターを起こした説。

 涼子と牧子が同一人物説。

 王と涼子が駆け落ちした説。

 死んだと見せかけて涼子が影から操っている説。

 実は勇者が死んでいる説。

 涼子は実は魔王で、高崎は魔国の一部になった説。


 正直、この2年間の高崎王国の報道は信頼できる物ではなく、人々は真実にたどり着けなかった。


 そしていつもの質問をサンドラはした。



「最近、白い馬見てない?」



「見てないわねえ」

 答えはあっさいりした物だった。


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