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サンドラ、ピース村Sクラス冒険者正人との戦い

「お嬢ちゃん、馬鹿な真似は止せ。()()には勝てん」


「全員の相手をしろと言ったのはそっちじゃない」

 サンドラの手にあるのは安い剣だ。下っ端が持っている剣はこんな物だ。しかも刃が手入れされてない。


「そういう意味じゃない!」

 男はサンドラの剣に向かって全力で振り抜いた、いや、叩きつけた!

 サンドラの剣を力任せに叩いて落としてしまおうと言う作戦だ!

 素手になった小娘などただの玩具だ。飽きるまで味あわせてもらう。


 キイン!

「うおっ!」

 男の足元に向かう自分の剣!

 危うく自分の膝を切る所だった!

 一撃目は両手で行ったのだ、外れても自分の膝を切るなんてことはない筈だ! 当たったように感じた、上手く行った筈。

 だがなんで?

 が、終わってはいない。サンドラが駄目押しの二撃目を剣の上側から叩きつける!


 ザクッ!

「あああああああっ!」

 今度こそ男の膝に男の剣が炸裂した!


 そのまま背後の別の男の足首を切り、ついでとばかりにその横の男の右手の指を切り落とした!

 指が切れて

 持ってた剣が自分の足に刺さる!

「うあああああ、うあああああ!」


 これで三人。


 周りの冒険者は信じられないものを見たと言う目をしている。

 周りには十人以上居たが、皆同じように思った。

 一人目が切り込んだのは両手でだ。

 インパクトの瞬間に握りを入れれば小娘に打ち負けたり、ハズレても剣が流れたりはしない筈なのに、流れた。

 いつの間にか小娘の剣は上段にあり、二撃目が!

 偶然?

 まぐれ?

 不意を突かれた?

 小娘にとってあの剣は軽くない筈。あの男は相当強いぞ? こんな筈は!

 だが、そこに三人転がってのたうち回ってるのは確かだ。一体何が起きている?



「あーそうそう、さっきの週刊オリハルコンの人たちのことね」


 今更、この小娘は何を言い出すのだ?


「あれ、み〜んな嘘。その人達に会ったこともないし」

 サラッと言うサンドラ。

 息が止まる冒険者達。

 今しがた週刊オリハルコンの奴らを憎いと思って惨殺して来たのだ。

 弁明をしていたが斬り、俺たちを信じてくれと懇願されたが斬った。


 今更嘘だと?

 確かに気に入らない事もあったが同じ村人として今まで生活して来たのだ。

 それを『裏切り者!』と罵ってザクザク斬り殺した。


 今更嘘だと?

 なんでこんなに簡単に信じてしまったのだ。

 確かめなかった。

 もう・・・・斬っちまった。

 殺しちまった・・・



 今更嘘だと?




「でも、あいつらが大嘘つきなのはホント」



「うああああああ!」

 訳も分からず男達が次々とサンドラに斬りかかる!

 小娘の口車に乗せられて確かめもせず仲間を殺した!

 混乱しながらサンドラに襲いかかる!

 男達は思っただろう。こいつさえ殺せば、こいつさえ殺せば!

 そうすれば終わる! 皆そう思った。


 しかし、小娘が切れない。

 足元でウゴウゴ動く冒険者が邪魔で、狭く集まった仲間が更に邪魔で、川の魚のようにスルスル男と男の間を泳ぐ小娘が刄に掛かる気配が全くない!

 そして男達は、一人は膝を壊され、一人は背骨を突かれ、或いは両足の腱を切られ、次々と倒されて行った。

 スキルで高速で振り抜くもの、防護壁を作れる者も居たが、皆サンドラに倒された。

 サンドラはどう見てもスキルを使っているように見えない。いや、使っているのかも知れないが目で確認できないような物だ。人の間を魚のように泳ぎ、次々と仕留める。


 強すぎる・・・


 地面には痛そうに蠢き悲鳴を上げ続ける中堅冒険者達が十数人。

 殆ど皆生きている。重傷だが。

 立っているのはサンドラと、遠目に見て居た弱い下っ端冒険者。


 重症者の絨毯を歩くサンドラ。

 サンドラが近づくとさっきまでわめいて居た怪我人が、黙り目を逸らす。サンドラが怖いのだ。気絶した方が幸せかも知れない。

 重症者の絨毯を抜け、端で呆然とする下っ端冒険者にサンドラは言った。




「そうそう、白い馬を最近見なかった?」





 動けない下っ端冒険者達。


「だから白い馬!」

 サンドラが怒鳴る!



「見てません!」「見てません!」

「見てません!」「見てません!」

 そう言いながら何故か地面に膝をつき、頭を伏せる下っ端達。




「そ」


 あっさり済まし、離れるサンドラ。

 下っ端冒険者は斬りつけられず安堵する。自分達に刃を向けられたならとても太刀打ちできないのを目前で見せつけられた。この少女は危険だ。






「女!」


 野太い声がする。


 そこに居たのはピース村の統治者として君臨する男。

 天より与えられた剣でハイスキル『爆裂剣』の使い手。

 100人以上の冒険者に圧倒的実力差を見せつけピース村を作り上げた者。

 襲撃者をことごとく返り討ちにしつづけ、村内の絶対権力者。


 Sクラス冒険者正人。



「貴方が村長?」

 丁寧な発音のサンドラ。

 権力者と対峙しても臆する事など無い。


「手下をよくも痛ぶってくれたな」


 サンドラの背後には今しがた倒した重傷者の冒険者が十数人。その脇に怯える下っ端達。

 これだけでもサンドラが危険人物だと判る。


「相手をしろと言われたのだもの。私のせいじゃないわ」


「ほほう、一人か?」


「一人よ。それに、貴女にも丁度良かったんじゃない? どうみてもこの村の畑の量じゃ頭数多過ぎでしょ? 畑仕事しそうにない奴らを間引いてあげたのよ。冬前に丁度いいわ。私、優しいでしょ」


「ほほう。言うじゃないか」


 サンドラの言うことは間違ってない。

 この村の畑の面積ではこの村全員は食えない。

 畑仕事しない冒険者(中間管理職冒険者)は無駄なのだ。村が軌道に乗った後で、こういう無駄な人材が増えるのはよくある。

 真冬に人肉を食料にしようとすると、中間管理職冒険者は弱い下っ端冒険者を裁く。だが、畑をする下っ端は大事だ。要らないのは中途半端に威張ってる奴。

 サンドラは優しい親切な通りすがり。


 斬ったといってもトドメは刺してないが。




「礼を言うと思ったか? 死ね、小娘!」


「素直じゃないのね」


 二人は向かい合い、剣を中段に構える。

 近くはない。走り込みが要る距離。

 冒険者正人の構える爆裂剣はやや長く、先端側が太い。トップヘビーで小回りが効かないのが見てとれる。


 サンドラの剣はは下っ端冒険者からの()()()の安物でリーチも無い。少女には丁度良いが、あれとの打ち合いには軽すぎる。


「小娘、思い知れ!」

 ブヒュ!


 冒険者正人が剣を振ると刀身から赤黒い光の塊が走った!

 横に避けるサンドラ!

 紙一重でサンドラを捉え損なった赤黒い塊は、後ろで轟音を立てる! 家が一件吹っ飛んでいた。

 正人の爆裂剣は魔弾が出る、それもかなり強力だ!


「危ない危ない、当たったらお陀仏ね」


「小娘、強いのだろう。どうする? 見せてみろ!」


 ドオン!

 ドオン!

 ドオン!


 次々と打ち出される爆裂剣の魔弾!

 殆んど足元狙い。

 水平に撃って外れたら家屋が壊れるからか。だが、たまに水平に飛ばしてくるし、サンドラが高く跳ぼうものなら待ってましたと上に撃ってくる! 苦しくも避け続けるサンドラ。


「予想より魔圧が強いっ!」


「避けてばかりじゃ俺は斬れんぞ!」


 いつの間にかサンドラと正人の距離は開いた。

 魔弾を避けるにはいいが、反撃には遠すぎる。


「魔力差がちょっと多いな。よし、集中だ!」

 サンドラは不思議な構えを取る。

 両足を肩幅より広めに構え、右手で剣を持ち、左手は刀身の中間を軽く押さえる。そしてやや中腰に低く正人を睨む。


「死ね!」

 正人はブン!って両手で爆裂剣を振り込む!

 やや大きめの魔弾がサンドラに向かって走る!


 サンドラが小さく跳ねる!

 そして右足が後ろになり、左手が魔弾に向かって突き出され、右手は剣を後ろにいったん引き反動で前に振りだされた!

 サンドラの剣のやや先端側一点が赤く変色してる。魔力のせい?


 バァン!


 魔弾が跳ね返る!

 正人に向かって逆走する魔弾!

 サンドラは振りの後半は両手で剣を持っている。魔弾を打ったのは剣の腹だ!


「ミート!」



 ドゴーン!


 魔弾は僅かに正人を外れ後ろの家屋に当たり、大きな爆発を起こした!

 驚く正人。

 下っ端冒険者も驚いている!

 今まで正人の魔弾を打ち返す者など居なかった! 良くてバリアーでやせ我慢するだけだ。


「くそガキ!」

 ブンッ!

 ブンッ!

 怒った正人が爆裂剣で魔弾を追加する!


 バァン!

 バァン!


 だが、またサンドラが打ち返す!

 一個めはさっきと同じ右から打つ、二個めは体の近くで、縦に剣を構え、小さなスイング、いや、インパクトで跳ね返した。

 どちらも剣の腹で。

 見たことの無い構えと振り。

 だが、サンドラが避けたりズレたりすることが出来ると言うことは、正人にも逃げる余裕がある間合いだ。お互い直撃は無い。


 だが、サンドラの剣は少しヨタってきている。所詮は安物の剣。これを続ければいつか折れる。絶対強度を与える程の魔力はサンドラには無い。魔力量は正人の方が推定三倍ある!


「小娘、いつまでもつかな」


 正人はスタミナにモノを言わせてデカい魔弾を爆裂剣で作って打ち出した! サンドラの剣を壊せば勝てる!


「でかっ!」


 サンドラは一歩横向きになりながら下がり、剣を後ろに上から下に回し、前に振りだす!


「ドンピシャ!」

 やや下から振り出し、魔弾を弾き、上に抜けた安物の剣は溶けて先端が失くなった!


「フッ!」

 正人はニヤリとする。

 サンドラの跳ね返した魔弾は自分への直撃コースより上向き。あの魔弾の勢いは正人本人もヤバいと思っていた。上にそれて安心した。


 だが

 魔弾は弧を描いてもう一度下向きに落ちだした!


 ドゴーン!!





「ライケル仕込みのトップスピンだよ」

 サンドラがドヤる。

 そう言っても、正人がテニスのことなど知るわけがない。



 地面には血だらけで横たわる正人。

 生きているが動けない。


「よー。勝負あったわね」


「くっ、殺せ・・」


「別に貴方に用事は無いのよ。週刊オリハルコンの奴等に嫌がらせしたかっただけだし、この村が欲しいわけじゃ無いし」


 正人は力が抜けた。

 村の襲撃か乗っ取りだと思ったのにそうではなかった。何のために打ちのめされたのだ私は。週刊オリハルコン? しらねーよ・・



「村を作る冒険者なんて初めて見たわ」


「・・・・ああ・・国を持つのが夢だったからな・・」


 その言葉にサンドラは懐かしさを覚える。そう言っていた奴が居た。もう死んだが。()()()()は今もサンドラの脳に残っている。

 夢を追いかけすぎて色んな物を失った馬鹿な奴・・・・



「じゃあね。邪魔な穀潰しは自分で始末してね。早く立った方がいいわよ」


 トドメを刺さずサンドラは戦いを終わらせた。

 正人は復活出来るだろう。後の事はどうでもいい。

 中間管理職冒険者(ごくつぶし)を始末すれば村は冬を越えられる筈だ。それはサンドラの仕事じゃない。冬を越えたい者がする。



「ああそう言えば、最近白い馬を見なかった?」



「白い?・・・・」


 少し正人が上体を起こす。


「ああ、それならあの山の右からーー」

 サンドラが言われた通りに山を見る。



 ザシュッ!

 正人の顔面に突き刺さる壊れた剣。

 正人が振りかぶっていた爆裂剣がガランと落ちて、篭り始めてた魔弾は剣ごと静かに消え去った。

 残されたのは正人の死体。


 サンドラを騙し討ちしようとした正人の作戦は失敗した。


「人の好意を裏切るとはやっぱり冒険者はグズね」




 サンドラは丸腰で村から歩いて出ていった。上着と少々の荷物の入った腰袋だけを持って。





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