サンドラ、ピース村に来た
雑な畑が広がるピース村。
農耕役の下っぱ冒険者が草取りと草干しをしている。
むしった雑草は太陽でカラカラに干して釜戸の焚き付けにするのだろう。
ピース村の畑の合間を悠々歩くサンドラ。
居るはずの無い少女の姿に下っぱ冒険者の目が集まる。だが襲わない。見てるだけだ。
美味しそうな女をとらえたところで、美味しく味わうのはどうせ身分の高い冒険者だ。自分達はありつけない。なにせ、下っぱ冒険者は耕し、植えて、育て、草を刈るのに、収穫は上役冒険者がやる。野菜のつまみ食いすらなかなかありつけない。目の前に女が居たとしても諦めている。
サンドラは何人もの冒険者に見られながらも何の攻撃も受けず居住区まで辿り着く。
そこで初めて男が立ちはだかった。中間管理職的冒険者だ。
「なんだお前は」
農作業をしていた冒険者より遥かに肉付きが良くて威張っている冒険者がサンドラを舐めまわすように見ている。少女とはいえ良い女だ。少し位は胸もある。男を奮い立たせるのは当然だ。
だが、男は困っていた。
既にこの女は大勢に見られた、下っぱ冒険者とか村の中の冒険者とかに。
良いものは幹部から順番にいただく事になっている。自分も手をつけられず、更に上役冒険者に渡さねばならない。今、目の前に、手の届く位置にご馳走が在るのにだ。
「私はサンドラ。『週刊オリハルコン』の男が数人此所に居るって聞いて来たんだけど」
男は考えた。
誰の事だろう。
此処は色んな奴が居て一人一人の過去まで把握はしていない。
「その者の名前は分かるか?」
「忘れた」
「そいつに何の用だ?」
この冒険者にとってどうでも良い事だが、女日照りの毎日だった。手を出せないとはいえ少し長く相手をするくらいは良い筈だ。このサンドラが逃げようとしたりしてくれれば取り抑える為に少しは楽しむつもりだ。
「知り合いが酷い目に合ったから仕返ししたいと思って。冒険者売りしてたのにやられたのよ」
「どういう事だ?」
男はサンドラの言うことが気になった。
冒険者売り?
売りとは?
ギルドとしての冒険者斡旋? いや、週刊なんちゃらとか言っていた。ギルドじゃない。なら、仲間を売り飛ばしたのか?
もしそうだったら冒険者として一番ヤバい奴だ!
男とサンドラの周りは既に10人以上人が集まって来ている。
皆、興味津々だ。
「週刊オリハルコンの人に、知り合いが売られたのよ。でっち上げの罪を被せられて警察に売られたの。それで御礼を貰ったり、国や勇者の最新ネタを貰ってたの。警察に彼は無罪だって訴えたけど処刑された後だったわ。奴等のせいで冒険者が何十人も売られて処刑されたわ。警察の手先だったのね。私は復讐したいの」
場がどよめいた。
ここは住民の9割が冒険者の村。
冒険者をハメ続けて商売していた奴など許さない!
それがこの村に?
どの男のことだ?
男は思った。確かに三年前の高崎王国は冒険者がヤケに少なかった。冒険者が日に日に減り続ける。
まさかその週刊オリハルコンの奴等のせいか?
週刊オリハルコンを読んだことはないが、そうやって記事を集めてたのか。そうやって大金持ち?
「週刊オリハルコンの奴等はお陰でとんでもないくらい大金持ちになったらしいわ。ま、今じゃお金なんてゴミだけど」
囲む男達の血圧が急上昇するのが判る。飛び交う言葉、顔の色が真っ赤になる男も多い。
「それは本当なのか?」
「本当よ。みんな騙されて売られたわ。兎に角嘘ばかりで生きてる奴らよ。嘘を商売にして巨万の富を築いたのよ」
「そういやあの頃冒険者が減ってたよな」
「週刊オリハルコンって、すげえ売れてたらしいぞ」
「オリハルコンの会社見たことあるけどすげえかった」
「警察の手下だったのかよ」
「冒険者何人死んだんだ」
「許せねえ」
「知ってるぞ、そいつら」
皆の目が集まる。
「いや、いい生活してた自慢するから気に入らなかったんだ。来たときもやたらイイ服着てたし。週刊オリハルコンだ、間違いねえ!」
「取っ捕まえろ!」
「「「おおおお!」」」
「「「おおおお!」」」
走り出す冒険者達。
それを見送ったサンドラがぽつり。
「どうせまた嘘で逃げるわよ」
そのサンドラの言葉を聞いてまた一人の冒険者が走り出す!
「俺も行く! 奴ら騙されそうだ!」
遠くで聴こえる男達の雄叫び、男の悲鳴。
あ、一人走って逃げている。それを追う男達。
他方では囲まれてリンチになっている。
サンドラの言葉は嘘だらけだ。
サンドラの記憶に残るのは、週刊オリハルコンが『涼子の偽情報』を国中に何年間もばらまいたということ。
私利私欲で不正をしている。
勇者を騙している。
人殺しをしている。
枕営業。
政治を牛耳っている。
国を不景気にした。
最後は国王を殺し、王宮職員も皆殺しにした。
などなど、数年間週刊オリハルコンに嘘を広められた。
たった1日、ひとつの村に嘘を言うだけなら足りないくらいだ。倍返しにも、1/10返しにもなってない。
騒ぎが収まる。
「死んだか」
「私がしたかったのに」
嘘である。
「さてと、娘。此方に来い」
帰す訳がない。
「なんで?」
「女には女の義務がある」
「嫌よ」
「来い!」
男がサンドラの首根っこを掴もうとするが、サンドラはするりと抜ける。
だが、新たに集まった冒険者で囲まれている。
挟まれた。
男達の目はギラついている。イヤらしい目だ。
「どいて」
「駄目だ。俺達全員の相手をしてもらう」
全員には下っぱは入っていない。
「全員の相手をすればいいのね」
サンドラは借り物の剣に右手を掛けた。




