国の中の国
高崎王国は実質崩壊している。
だが、地図の上では確かに在る。
周辺四か国から国境を閉鎖され、孤立した状態。高崎王国側からは閉鎖してない。そもそも防衛勤務をする軍人が居ない。
高崎王国の通貨も無価値。
外国との交渉には使えず、国内でも価値は無くなっていた。
王都から離れた所にピース村といいう自治区が出来ている。元は大池村と言う名前だったが、村を襲撃支配した冒険者がピース村と名前を変えた。酷いネームセンスだ。
ピースと名付ければ人が集まると思ったらしい。
村の理想は1割の冒険者で村を支配して、9割の村人を奴隷にして農業畜産で働かせる。村の規模が大きくなれば生産性、社会性、防衛力と色々有利になる。
だが現実には村人全員冒険者だ。村人は皆逃げた。
弱い冒険者を農民にするという手段がある。
だが、そうすると弱い冒険者は朝には皆逃げて居なくなる。また村が小さくなる。公務員的な村長が統治せず冒険者が統治する限り耕作人は搾取されるだけで生きては行けないのを皆知ってるからだ。
だが、ピース村は最近うまくいっている。
ピース村はわりと人口が居る。今、100人程。
ピース村にはSクラス冒険者が統治者になっている。
そのSクラス冒険者のお陰で村の畑は他所の冒険者からの襲撃を免れている。これは大きい。
そして、そのSクラス冒険者の力で他の冒険者を抑え込んでいる。つまり中間管理職的冒険者の無茶振りができなくなった。これにより底辺労働者の生産性が上がった。Sクラス冒険者が無理やり作った権力のピラミッド。割と上手くいくシステム。
だが、普通の冒険者にそんな事が理解出来るわけがない。
どの冒険者もそのSクラス冒険者の立場を欲した。ただ権力と贅沢を欲しがった。だがそのSクラス冒険者は強くて誰も逆らえなかった。
村を支配したSクラス冒険者の名は正人。ハイスキル所持者『爆裂剣』の使い手。
山の上で鳩の丸焼きを食べるサンドラ。
山芋も掘って焼いた。
山芋は生でも食べれるが、温かいものが食べたかったので焼いている。
魔国に比べれば粗末な食事だが、高崎王国内では裕福な食事だ。
サンドラの位置から焚き火の煙が上がる。
遥か眼下のピース村からも見えるかも知れない。
ピース村からこちらを見たなら、ピース村を狙う盗賊冒険者が山で潜んでいると思うだろう。
襲撃の可能性アリと警戒を強めているかもしれない。
或いはこちらに攻めてくるだろうか?
ピース村を見に来たのは、かつての週刊オリハルコンの社員達がこっちの方向に向かっていたと情報を得たからだ。ピース村に居るとは限らないけれど。
根も葉もない記事で涼子を攻撃し続けた週刊オリハルコン。奴らを見てみたいとサンドラは思ってた。
坂の下から人の気配。
1、2、3、、、3人。
下っぱ冒険者が偵察に来た。二人が更に左右に移動。
サンドラは囲まれた。
ガサガサ。
三人とも姿を現す。
一人旅をする人間は強い奴と思わないのか?
冒険者は頭が悪いようだ。
「子供か」
「女か」
「まだ子供だ」
「女だよ、いいなあ」
「たまんねえ」
「可愛いじゃねーか」
「どうしたらいいんだよ」
「どうする?」
「どうする?」
「どうすんだよ?」
連携が悪い三人。
サンドラを強姦しにくるかと思ったが躊躇っている。
サンドラは子供だがいい女だ。
抱きたいと思ったのだろう。
だが、ピース村の上層部にうやうやしく差し出さねば上層部から半殺しにされる。自分達の『お下がり』を渡したら上層部は怒るだろうな。
多分、サンドラの焚き火の煙を見て偵察に来たはず。つまり村は火を焚いた誰かが此所に居るのを知っている。
「ヤっちまって埋めるか?」
「逃げられたと言ってか」
「時間が掛かりすぎるぞ」
「肉も要るしなあ」
全然話が纏まらない。
だが、漸く決まったらしい。
「なあ、嬢ちゃん。逃がしてやるからヤらせろ」
「いいだろ」
「お互いウィンウィンだろ」
ウィンウィンはだいたいウィンウィンじゃない。
「嫌よ。あの村に行くんだから」
冒険者三人は顔を見合わせる。サンドラを変な奴だと思ったに違いない。
大人しくサセてくれて、居なくなってくれればいいという目論みが外れる。
「何しに行くんだよ」
「週刊オリハルコンの人達が居ると思ったから」
「週刊オリハルコン?」
「昔出てた雑誌だよ」
「どんな本?」
「えーと、なんだっけ。字ばっかしだったような」
「村にそんな本の奴がいるのか」
「さあ」
三人のうち一人は元外国人か。よくわかってないようだ。
「行くわ」
「ちょ、待てよ!」
「どうすんだよ?」
「ヤるか?」
「バレるって」
「折角一番にありつけるのに!」
「俺だよ、一番」
「馬鹿、俺だ!」
「やるか!」
「やめろって!」
また始まった。
「付き合いきれない。じゃあね」
立ち上がり、無視して歩き出すサンドラ。
「待てよ!」
男がサンドラを捕まえにかかる。ほんの手を伸ばせば届く距離だった。
掌から二の腕の中に小娘を掴んだ筈・・・・
消えた。
いや、抜けた。そのまま歩くサンドラ。
驚く冒険者。
焦る冒険者。
「ヤバい逃がすな!」
一人の冒険者が持ってた剣をサンドラに投げつける!
直撃間違いなしのコントロールでたった数メートルの距離を剣がグルグル回りながら飛ぶ!
くっ、これで娘も傷物か。
冒険者は少し勿体ないことをしたと悔やんだ。
だが、サンドラはチラリと振り向いて回転する剣の持ち手を綺麗に掴み、すっと持った。
唖然とする冒険者達。
「借りるわ。後で返すから」
そう言ってサンドラは村の方向に去って行った。
信じられない物を見て呆然とする冒険者達。
見た目は可愛い子供だ。
だが普通じゃ無い。多分強い。でも反撃してこない。
しかも、奪った剣を後で返すなんて言いやがった。
しかも住民以外には地獄でしかない『村』に平気で向かっている。
「ヤバいな」
「ヤバいぞ」
「追いかけるか?」
「勝てると思うか?」
「無理」
「怖い」
「ついていくか?」
「やだ」
「どうする?」
「どうすんだよ」
「何しに行くんだろ?」
「剣持ってんだぞ」
「お前のじゃねーか!」
「だって!」
「暇潰ししてから戻ろうぜ」
「なんで?」
「やな予感がする」
「見失って探してたことにするか?」
「名案だな」
「座るか」
「ああ」
三人組はとぼけることにした。
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魔国の人間界の観測室。
人間界の魔力観測が出来上がった。
砂の地図を眺めるのは前魔王のケルマと職員。
「これがサンドラですね。もうすぐこの大魔力保持者と当たります」
「『優子』のわけないか」
「さあ。でもそう簡単に見つかるとは思いません」
サンドラを示す小高い砂の山。
向かうは三倍程の高い砂の山。
つまり魔力量が三倍違う。
恐らくは戦闘になる。
「優子は見つかると思うか?」
「分かりません。まあ、一周したら帰ってくるでしょう」
まだ旅立って暫くだが、観測ではサンドラは高崎王国の外周あたりを右回りにフラフラしながら進んでいる。一周する気だろうか?
「あの子には黒龍の血でも流れてるんですかね」
「サンドラの性格を見てると、それも冗談に聞こえん」
「オリジナルの性格もあんなだったんですか?」
「いや、オリジナルは頭脳派で似ても似つかないらしい。だが、基本的な所では同じだそうだ。野心家なんだそうだ」
「まあ、それでも真面目で決まりごとを守る子で安心してますけどね」
砂の山、大小二つの山を見つめるケルマ。
この大きな山が優子だとは思わない。多分戦闘になる。無事で居て欲しいとケルマは願った。




