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高崎王国の旅 王都を後に

 サンドラは王宮の外壁に開いた大穴を見上げた。


 使い魔クロちゃんが体当りで開けた穴。メイドの沙羅が涼子を庇って死んだ場所。

 涼子が勇者さとるに斬られた場所。人気はなく、河辺の大穴から鳥が出入りしている。

 時折建物のなかに人が居るのが見えるが、見覚えがない人ばかり。忘れてしまったのだろうか、知らない人なんだろうか。

 王宮の門が三ヶ所あるが全て閉まっている。入れない。


 場所は変わって旧涼子財団。

 知らない人達が住み着いている。新聞では強制捜査の末、取り潰しだという。

 代表である涼子の部屋はお気に入りの家具で纏められていた。あの部屋を見てみたいと思った。いや、悪い予感しかしない。見ない方がいいだろう。

 社員はどうしてしまったのだろう。随分な人数が居た筈だ。精鋭達と充実した毎日を過ごしていた記憶がある。彼等は何処へ?


 ファッションスタジオ直子。

 クロちゃんが生まれた場所。

 何もない。

 燃えたというが、燃え残りの廃材も殆んど無い、周辺民の冬の薪にされたのだろう。

 見れば、更地同然の所がぽつぽつある。利用価値の無い建物は壊されて薪にされるようだ。狙われるのは木造建築。跡地は畑になってる所もある。

 次の冬にまた空き地が増えるだろう。きっと人も離れる。数年後には建物の少ない田舎のような風景になるだろう。


 かつての大都市の成の果て。



 サンドラは王都を少し離れ、街道の脇に逸れ、座り、捕った蛇を焼いて食べる。鍋と水があったなら均等に加熱料理出来るが、焚き火で炙ると効率が悪い。生焼けもあれば焦げすぎも出来る。

 保存食はあるが、現地で食料が調達出来たなら出さずに温存する。



 そんなサンドラを子供が見つめる。

 5、6才くらいの男の子。

 サンドラをじっと見ている。

 サンドラが大人でないから少し警戒を緩めている。しかも女ならもっと警戒はなくなる。

 その子は蛇を食べたいのだろうか?


「蛇が欲しいの?」


 サンドラが声を掛けるが子供は立ったまま反応が無い。面倒くさい。

 もう一度声をかける。


「蛇が食べたいの?」


 子供はぶんぶん首を振った。

 蛇とか鼠とか食べないのかもしれない。 普通に食べれる物の筈だが、姿焼きは気持ち悪くて駄目なんだろうか?


「蛇は嫌い?」


 子供は何も言わないし首も振らない。どっち?


「お母さんかとおもった」


 それは人違いだ。

 サンドラに当然子供は居ない。


「お母さんを探してるの?」


 子供は俯いている。

 よく分からない反応。


「お母さんは?」


「知らないわ」


「お母さん見てない?」


「見てないわ」


「お母さんに会いたい」


 堂々巡りだ。

 サンドラは困った。

『お母さん』のアテはないし、これから食事だというのに、見られながらだと焼き上がった蛇が食べづらい。

 丸焼きだから、食べる姿も良いものではない。見られたくはないのに子供はじっと見続ける。

 少しだけ切り取って

「食べる?」

 と、差し出して見るが食べない。仕方なく、子供に見られながら食べる。

 じっと見続けるので、半分辺りでまた差し出してみたが子供は食べなかった。

 まあ子供には焼きたての骨付きの蛇は堅すぎるかも。

 お腹は減ってないだろうか?

 少しは減っているだろう。

 子供だからと言って、いちいち恵んでいたらキリがない。この国は貧困だらけだ。いちいち相手をしてられない。


「お父さんは?」


「山」


「山に行ったの?」


「家」


「そう、帰りなさい」


 また子供は無言で固まってしまった。

 サンドラは困った。

 離れてくれない。


「お父さんは迎えにくるの?」


「わかんない」


 また堂々巡りが始まりそう。子供との会話は難しい。




 突然子供が立ち上がって力強い声をあげた!


「お父さん!」



 子供の向く先には、刀を持って追う男と追われる男!

 どっち? そもそも向こうは山じゃない。


「どれがお父さん?」


「あっち!」


 それじゃ判らない。

 指も指してるがどっち付かずだ。


「お父さんは前? 後ろ? どっち!」


「あっち!」


 しかも、男達が縦に並んだ。益々判らない。

 悪そうな奴が敵と思ったら逆だったとかだとまずい。

 手が出せない。


 グングン走る二人が近付いてくる。


「ヒロ、逃げろ!」


 かなり近くなって、逃げてる方の男が子供に叫んだ! やっぱりこっちがお父さんだったか!


 足元の薪を拾い、後ろの男に二本投げつける!

 燃え残りのアンバランスな薪だが刀を持った男の真正面に当たった。男は痛がり驚き、二本目は冷静に避けられた。


『お父さん』がこちら側に立つ。子供を後ろに隠した。敵は一人、さてどうする?


 刀を構え直す追っ手の男。

 引く気は無いようだ。

 男にとって、追っていた相手に付いたのは子供二人。攻撃だって薪を投げただけ。簡単な相手だと踏んだ筈だ。


「子供・・女じゃねーか」


 サンドラの評価は低いようだ。

 ゆっくりとサンドラは膝ほどの長さの雑草を地面から引き抜く。抜いた雑草の根の土を左手で丸め、右手で葉っぱを引き払った。


 雑草の茎を持って構えるサンドラ。小柄な少女の癖に強気に構える。それに対して刀を構える追っ手の男。

 子供と父親は少し引いている。父親は足元で枝を拾ったがいまいちな細さ。武器には頼りない。


「この女貰い!」


 敵が刀を振り込んでくる!

 草をビュンと投げ込むサンドラ!



 ドッ!




 走り始めてた筈の男が止まる。恐る恐る自分の身体を見下ろすと、雑草の根が左腕をザックリ撃ち抜き脇腹に突き刺さっている!

 暫くしてドクドク出る血。

 男は混乱している。

 投げられたのは雑草の筈だ。だが、腕を切りながら抜け脇腹に刺さっている。男が恐る恐る草を抜く。

 出てきたのはやはり雑草と土。


「早く血止めしないと死ぬわよ? それとももう一発いく?」

 サンドラはまた草を抜く。


「ひっ!」


 ただの草で致命傷を受ける! ならばここは少女の武器庫だ!

 男は慌てて傷を押さえながら走り去った。



 サンドラはゆっくり歩き、男の残した刀を拾う。

 刃に指をつける。


「研いでないじゃない」


 錆びてるし、刃がつぶれてても放置されてる。


「あげる」


 ポンと刀を父親に渡す。

 折角の得物をあっさり自分に渡すことに驚く父親。


「助けてくれて有り難う。このお礼は必ずーー」

「奥さんは?」


 サンドラにとっては礼なんてどうでもいい。あの男がまだ生きてる。次のトラブルの元だ。助かっただなんて思わないで欲しい。

 そんなことよりさっきは『お母さんは?』と言われ続けてしまって気になってしょうがない。


「妻はその・・」


 足元にまとわりつく子供を少し見る。

 聞かせられない様な事か。

 少女のサンドラにも言いにくい事かも知れない。


「悪かったわ」


 サンドラは話を止めた。

 しかし、


「お母さん、一緒じゃないの?」

 足元から尋ねる子供。


「・・・・」

 父親は黙ってしまった。

 サンドラにも推測は出来た。


「ヒロ、帰ろう。何か食べよう。あのその、君も・・」


「サンドラよ」

 子供の割には生意気な言葉。


「サンドラさん、家にどうぞ」


 父親は、子供とはいえ女を家に招くのはどうかと思うが招く。何か食べようと言っていたが食料はあるのか?

 サンドラにしてみれば、この父親がトチ狂って襲ってきても返り討ちにすることが出来る。心配は無い。

 それよりも、色々情報収集がしたい。


 サンドラは山の中の家に招かれることにした。

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