高崎王国の秋 食糧難を乗り越えろ
俺はケン。
高崎王国の影の権力者のひとり。
旧涼子財団を住まいにしている。
さっき、手下から冬の蓄えに運び込まれる筈だった麦が何時迄経っても来ないと報告をもらった。
運び役の冒険者が持ち去ってしまったのだろうか?
それとも、途中で強盗に襲われたのだろうか?
冬が越せない・・・
失敗だった。
2年前、さとるを王に押し上げたあの日、逃げれば良かった。
国が不景気になるのは分かり切っていた。
さとると牧子に政治ができるわけがない。
さとるは無能だし、牧子は破壊して喜んでいるだけだ。
それでもひょっとしたら?と、夢を見た。
そこそこなんとかなるんじゃないかと。
旧涼子財団館を貰って、大金も手に入れた。
金目の物も館内に沢山有った。まあなんとかなるだろうと思っていた。
国民には大人気だったが、公務員にはさとるの評判は最低だった。
クーデターもあったが、さとるが撃退した。
軍と警察は解体された。いや、皆やめてしまった。どっちが先かは分からない。
事務方も皆やめてしまった。
代わりにオタと冒険者を職員にして送り込んだが全ては無駄になった。
冒険者は学がない。
勉強も嫌で、家業もせず、就職もしないのに大金をゲットする夢を見るのが冒険者だ。
いや、昔は冒険者も生活できた。裕福な世間から富を少しずつ毟る事ができたから。
今は無理だ。
そんな冒険者に公務員なんて出来るわけない。
計算も記帳も出来ない。税の徴収係をやらせれば、やりたい放題する。何倍も金を毟る。他の担当が回った地区に入ってまた毟る。それでネコババ。住民に事業主は皆国を出て行った。
オタは仕事をしなかった。
本だけは大量に有った。
仕事もせずにたいして飯も食わずに読み続ける。
家族が助けを求めて来ても本から離れない。
奴らにしたら身内の危機すら本に劣るのだ。
しかも、勇者がヤツらを甘やかす。
だめだ・・・
結果として、俺たちは食料危機に陥ってる。
金も尽きそうだ。
しかも、払ったのに食料が手に入らない。
外国が攻めて来た、しかも同時に4カ国。
防衛には冒険者を向かわせたが、一人も帰って来ない。
皆、逃げた。
分かっている。この国に見切りをつけたのだ。
なんで俺も誘ってくれないんだ!
国の外周は皆取られた。
地方都市の代表者や責任者は喜んで高崎王国から外国に乗り換えた。
血は流れなかった。そして高崎王国は農村漁村を失った。食えるわけがない、益々国民は流出した。
王都は現在無人ではない。
割と人がいる。
各国から犯罪者やワケありな人が流入している。
何しろ、この国には警察がない。
そして、税金もない。
人々は空家に勝手に住み着き、道路に勝手に野菜畑を作っている。
どうせ馬車なんか来ない。馬は食べてしまったから。外国の商人は来ない。道路の管理をする職員もいない。堂々と畑を作っている。
この野菜が意外と盗まれない。
育て主は桶に自分の小便と大便と水を入れて混ぜ、畑にまく、
上から。
それを人が見ている昼間にやる。
わざとだ。
人に野菜を奪われないようにする為の知恵だ。
最初は皆気味わるがったが、やがてそれは流行った。
今までなら盗まれるから、皆野菜を作らなかったが、これで盗まれにくいとなれば皆真似る。畑が増えれば被害が相対的に少なくなった。無くなったわけでは無い。
そして、俺たちは菜園を作りそびれた。
俺たちは団体で暮らしている。
仲間で畑は作れない。自分の糞尿ですら嫌なのに、仲間の糞尿が被った野菜なんてゴメンだ。
仕方なく、鳥やネズミを探して仕留めて食べた。
犬や猫は手に入らない。下町の奴らのエリアで狩り尽くされてしまう。
この間の冬も食糧難だった。
多くの人が国を捨てた。
だが残る者が居る。
冬後半から春は一番食料が無い。
だが彼らは生き延びた。
肉を喰って・・・・
話を聞いた時には戦慄した。
俺たちはこんな国を作ってしまったのか・・・・
今度牧子は引きこもりの勇者を引っ張り出して他国を襲うという。
食料だろう。
あの勇者をどうやって動かすのだろう?
小説の書き換え、小説の続編、記念フィギア。
今度は何だ?
ポスターか?
あんなもので言うことを聞く勇者が理解できない。
勇者には内緒だが、小説は身内のオタが書いている。原作者には断られたし、今では国境も自由に超えられない。
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スラムと化した王都を歩く一人の人影。
少し背が低い。
容姿が判らないようにすっぽりと頭まで服を被って居る。
こういう人は珍しくも無い。
強いか弱いかも判別出来ないようにしておくと襲われにくい。
人々も簡単に人を襲ったりはしない。『ハズレ』だったら大変だ。
それに腹が減る。
その人は歩く。道は知って居るらしい。
その人は王宮を眺め、歩いて旧涼子財団に行き道から建物を眺め、また歩いて元ファッションスタジオ直子の跡地を訪ねた。ここは火事で建物が無くなっていた。他にも数カ所。
誰とも話さない。どの家も知らない奴が勝手に住み着いて、かつての面影がない。
かつての自分の知って居た町ではない。いくら彷徨っても知り合いには会えそうも無い。
その人はまた歩いて町を去った。




