高崎王国の秋
男は疲れていた。
もう秋も終わりだ、冬が来る。
忙しくて忙しくて自分の足元が見えていなかった。
どうやって冬を越せばいいのだろう・・・
今しがた明日発表の第三期決算をまとめ終わった。
昨年度比で1、25倍の経済成長。
明日、王都日報と雑誌社が来るので資料を渡す。
すぐに記事にされるだろう。本来なら各役場の掲示板に張り出されてからで、マスコミはその後だ。
順番がおかしい。
1年前、あの運命の日。
新王さとるが誕生した日。
ただの下っ端職員だった私は『行政長』なる役職に昇進した。
王族、勇者軍に次ぐ権力者だった。
嬉しかった。
新世界にときめいた。
『姫』の協力者として水面下で暗躍した。
城と政治の内情を渡し、侵入者を引き入れ、極秘任務もこなした。
新王さとるの影の立役者は僕だ。
夢に見たオタの帝国。同士で作る夢の王国。
だが、それは地獄の始まりだった。
職員は皆やめてしまった。
残ったのは小説仲間の3人だけ。
以前、200人でやっていた仕事を3人でするなんて無理だ。
代わりに送り込まれてきたのは、サークルメンバーと冒険者が合わせて30人。
オタは仕事をしなかった。
冒険者は仕事ができなかった。
仕事どころじゃなかった。
さとるが即位した途端にクーデターが起きた。
元軍人と元警察官が、王を暗殺しにきたのだ。
クーデターは失敗した。
さとるが一人で謀反人30名を殺した。
翌朝の王都日報は勇者さとるの実力を褒め称えた。
ものは言いようだ、本来王宮警備する筈の冒険者は一人残らず逃げた。
何のためにいたんだ?
そして軍と警察はなくなり、冒険者がそのポジションに収まった。
少しして、国王さとるは『旧涼子財団』に踏み込んだ。
職員約半数を殺害して、財団の資産を接収した。
実際は強盗だ。
だが、新聞記事には強制捜査となっている。
だが、金のなかった王宮はこれで少し息をついた。
予算削減の名目ですでに議会は閉鎖されている。今、全ての権力は王と王女にある。
実質、誰も政治をしていない。
さとるが王になった途端、外国が侵略してきた。
松本、新井、小田原、大洗。
松本国と大洗国は海を越えての侵略だ。
これで国土は1/3に減った。
既に軍は崩壊していて、代わりに冒険者が前線に送られた。
だが、冒険者は帰って来なかった。
敵前逃亡は当たり前、敵に亡命するものが後を絶たなかった。
4カ国と対戦した筈なのに兵は1人も死んでいない。帰って来た者も居ない。
滅茶苦茶だ。
高崎王国は1/3になった。
そこで各国の侵略は止まった。
あの時僕は『勇者』を恐れて王都周辺に攻めて来ないのだと思った。
今なら解る。
『勇者』を欲しくなかったからだ。
各国が『どうぞどうぞ』と王都の譲り合いをしたのだ。
各国が欲しがった『涼子』はどこかに消えた。『優姫』も消えた。
そんなことが解るようになったのは、最近だ。
忙しくて何週間も家に帰ってない。
大好きな小説や絵も見て居ない。
昔は新聞を信じて涼子を排除してさとるを王にすればバラ色の未来が来ると思ってた。『姫』もそう言って居た。
現実は真逆だった。
国を支えて居たのは涼子。
王宮を食いつぶしてたのはさとる。
経理を見るようになって、新聞は嘘だらけだったと実感した。
当時の経理の言うことを信じて居なかった僕は馬鹿だった。
でも何故、僕は新聞を信じてしまったんだろう?
もう僕も嘘をつく側になってしまった。
資料は命令通りの数字にした。牧子の命令は1、25倍成長。
現実は解らない。集計作業をする職員は居ないから。
実際は0、1倍あればいい方だ。
どうやって冬を越そう。
僕の給料は3倍になった。
だが、食料物価は20倍になった。
【薬草採取して300年。気が付いたら無敵になってました 新章開始!】
本屋にポスターが貼ってあるが、本が無い、店はがらんとしている。
この本屋も国を捨ててしまったのか・・・
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俺は国王。
手元には『薬草採取して300年。気が付いたら無敵になってました』の続編の第1巻。
以前、涼子の財団を強制捜査する報酬として書かせた物だ。
以前より紙の質が悪くなったような気がする。
セリフのリズムも前と変わったような気がする。
作者の作風が進化したのだな。
報告を聞けば、涼子の財団は違法な商売、不正な売買だらけで『黒』だったそうだ。
やはりあいつはクソアマだ。
新聞にもそう書いてある。
他国が国境を越えて侵略をしだしたと聞いた。
めんどくさい。
俺は本を読んで居たいんだ。
行かない場所なんてどうなろうと問題ない。ここに攻めて来たならば撃退するさ。
いまの国土だけでも充分に好景気で民の評判も良い。
新聞にそう書いてある。




