表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/108

フリー魔導師瑠美 観光最終日

「初めまして、瑠美です」


「トーマスです」



 観光二日目、名所案内の後に連れてこられたのは人間街。

ここは『東京通り』と呼ばれる地区で人間が集まり住んでいる通り。

 魔界にも人間が住んで居たのか。

 結構な人数が暮らして居る。魔界生まれ魔界育ちが殆どだが、ごく僅かに移住も居るらしい。

 東京とは、かつて地上に有ったが海に沈んだ町。

 そして目の前の初老の男は東京ではないが、同じように海に消えた町の住民の末裔だそうで、魔界生まれの世代。


 因みに今日も自転車。

 昨日より早く到着した。

 しかも転ばなかったし、道から落ちなかった!

 流石は私だ!


 このトーマスさんは人間界の事に詳しい。人間界には魔界からの派遣が忍んでいて、情報を上げてくるのを魔界で記録しているのだそうだ。当事者であるはずの人間の記録は正直脚色だらけで真実がよく分からない。魔界の記録のほうが正確だ。第一、人間は魔族に勝ったことなど一度もないという。それは魔界を見ればよく解る。勝てる訳無い。

 人間界との交渉には、ここの人間の意見を聞かれるし、武器や道具の開発は彼等のテストが欠かせない。研究開発記録にも深く関わっている。

 中でもトーマスさんは詳しい、管理部の元職員だそうだ。

 そして、私はライケルとケルマが答えられない疑問をトーマスさんに聞きに来た。トーマスを勧めたのはケルマだ。



「夫婦剣ねえ」


 人間界で平和維持担当に渡される聖剣は夫婦剣だ。

 何故、ただの聖剣二本ではないのか。一人より二人、一本より二本というのは解る。だが、何故夫婦剣?


「その剣だが、実は製造段階では夫婦剣ではなかった。二番目のユーザーが魔改造したのだ。恐らくはその時の担当の都合により改造されたのだよ」


 手元の資料を読みながら答えてくれた。

 聖剣を魔改造?

 聖剣って改造できるのか!


「なんの為に? 強くなったとか?」


「うむ、その時に何かの機能もつけられた筈だ」


「その機能とはなんなんでしょう?」


「残念ながら私達は把握していない。製造以来製造元には来ていないから現物を確認していないのだ。だが、報告が無い以上ベースには手をつけていない筈だ。まあ大した施設のない現地でユーザーがする改造だ、根本から作り替えるようなものではなく、追加オプションのような機能だろう。それと・・」


「それと?」


「案外趣味性が高いものかもしれん。戦闘と関係ないものかもしれない。そうでないかもしれない。全く解らない」


 これじゃ解らない。

 夫婦剣を優子と厚志が持つとどうなるのか?


 厚志は優子でなく、涼子が好きだ。一方、涼子も厚志が好きなんだろう。だが、実らぬ想いと割りきっている。そして優子も厚志が好きだ。だがこちらも実らぬ恋と割りきっている。

 あいつら面倒くさい!



 それともうひとつ知りたい事がある。

 それは勇者の聖剣。

 実は聖剣は勇者専用では無いとケルマから聞いた。勇者はゴブリンに備わっていた種の特性で聖剣とは関係ないと。


 まあ、それはそれとして、何故人間界に聖剣がある?

 全ての聖剣は魔界製。魔族は人間に武器を与える訳がない。

 更には今の聖剣が弱そうなこと。ケルマによればユーザー登録の問題では?と言っていたが。


「うむ。あの聖剣は人間界で作られた。だから人間の物だ。与えられた訳でもここから盗まれた物でもない。魔界と交流が有った時代に技術者が向こうに渡ったのだ。まあ、構造は同じような物だ。聖剣が弱いと言っておったが、原因には幾つかの可能性がある。

 前ユーザーがまだ生きている、あの聖剣資格者に今の勇者が当てはまらない、あとは、聖剣がecoモードになっているかじゃ」


「ecoモード?」


「ecoモードじゃ。エネルギーが残り少なくなると節約のために自動的にecoモードになる。もしそうなら補充すれば全開で使えるだろう」


「ecoモード・・」


 当たり前の話だ。

 無尽蔵のエネルギーなどこの世に無い。


「補給はどうすれば?」



「ちょっと待った。それを知ってどうする。瑠美君の目的はなんなのだ? 聖剣を手に入れたのかい? それとも聖剣の破壊かい? 或いは勇者の味方かい?」


 私は今の聖剣保有者のさとる、優子、厚志とそれに絡む関係の話をした。国の状態も話した。

 とはいえ、トーマスさんにとっては人間界の勢力図と恋愛渦などどうでもいい。聞いても『ああそう』な軽い返事。

 人間界の大戦争が起きても対岸の火だ。

 人間界が魔界に攻め混んできてもあっさり殲滅するだろう。

 人間の国のためなら彼らは動かない。

 だが、今現在私は何かに突き動かされて居る。

 高崎王国に居るときはそんな感情は起きなかった。国を捨てて安全な場所で傍観者になるつもりだった。だが可能性を目の前にしたら欲求が湧いた。

 確かに私は何がしたいのか?

 さとるは今動けないし、動けるようになったらどうするかはまだ解らない。涼子がどうするのか?厚志は?優子は?

 事が今は止まっている。

 私がどう動くべきかはまだ解らない。



 どうすればいい?

 そうだ。

 私は何故ここに来た?




 好奇心だ。




 ここで何かを得たい。

 有利に運びたい。

 どうしたら上手く話をつけれる?

 無駄だ。

 ここの人たちには敵わない。小細工なんて通用しない。

 本心で答えよう。



「私は力が欲しい。私は夫婦剣を最高の二人に託したい。そして助けたい・・・いえ、依怙贔屓したい人が居るんです。その為の力が欲しい」




「・・・・・・王に話を通してみよう。はっきり言って我々は君に肩入れする理由が無いし、思いもない。だが、()()付きなら叶えられるかもしれない。ケルマ君、王に会うのだが君も頼む。おそらくは()()付きで通るだろう」

 トーマスは静かに言った。


「ああ、あれか」

 ケルマも何かを察したようだ。




 ()()つき?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ