フリー魔導師瑠美、魔国の旅だけど・・
どうしてこうなった。
怖い!
苦しい!
痛い!
無理!
悔しい!
解らない!
ふらつく!
倒れそう!
笑うな!
ライケルとケルマの会話。
「困ったな」
「どうする?」
「もう少し練習させよう」
「無理なんじゃないか?」
「いや、乗れないと俺かお前のどちらかが後ろに乗せる事になるぞ?」
「三輪の奴どうした?」
「売った」
「・・・・」
今日私は魔国の町に行けると言うので楽しみにしていたのだけれど、とんでもない苦境に立たされている。
自転車。
移動に使うというこの道具。
魔力を使わず体力のみで高速移動出来ると言う不思議な道具。
目の前でライケルがひょいひょいと乗って見せてくれたので、私も喜んで股がった。
乗れない!
何故倒れる?
いや、何故ライケルは立てる?
両足を地面から離すなど無理だ!
ライケルはひゅーんと速く走り回る。
無理だ!
こんな恐ろしい乗り物、あんな速度で失敗したら恐ろしい事になる!
「ライケル。ベダル外しの練習法をやってみよう。モンキーどこだ?」
「無い。モンキーなんて何年も見てないし」
「・・・・」
お!
今一瞬、両足載せれた!
怖くてまた足をおろしたけれど、一瞬できた!
もう一回!
「めんどくさいから練習しながら行かない?」
「お前、相変わらず適当だな」
「椅子下げてケンケンしながら行けばそのうち慣れるって」
「駄目だったら、途中からライケルが後ろに乗せろよ」
「大丈夫、大丈夫」
ーーーーーーー
「怖かった・・・・」
ここは町の入り口。
漸くやって来た。
本来なら目の前に広がる異世界の町並みを見て感動するのだろうが、私の目は地面の凸凹具合や道の脇に危険物が無いかばかり探してる。
そして目の前に広がる町よりも、後ろの今通ってきた長い道を見て感動している。
「いや、でも乗れるようになったじゃん、まっすぐだけだけど。瑠美ちゃん凄いよ」
「ああ、頑張った。立派だと思うぞ」
二人が私を誉める。
はっきりと言わせてもらう。
乗れた!
乗れた!
乗れた!
漕いだ!
前に進んだぞ!
ここまで自転車で来たぞ!
最初は押したり、ケンケンしたりしたが、最期はちゃんとライケルやケルマのように乗ってきた! 足をぐるぐる回した!
ああ、この雄姿を国の奴等に見せてやりたい!
(朝は誰にも見られたくないと思ってた)
五回位道をはみ出て大変なことになったが、魔界に来て感動したことベスト3になることは確実だ!
そして、まさかこの歳で『瑠美ちゃん』と呼ばれるとは。まあ、80歳代から見れば30歳(四捨五入)など幼いのだろうし。
魔界の町。
祖国とはまるで違う。
平屋から三階建ての木造建築が並び、石造りの家が殆んど無い。石は有ったとしても一部分に使われているだけ。民家と商店が混ざってる。
そして臭くない。
汚物臭が無い。
汚物の処理が良いのだろうか?
よく見ると牛や馬が居ない。歩きと自転車が殆んど。
あ、馬車ならぬ自転車車がある!
自転車の後ろに客を一人載せられる小さな貨車を引いてる奴!
ライケルかケルマにああいうのを使ってもらえば私はあんなに苦労しなくても良かった?
「でも、俺持ってないし」
ライケルはあっさりと言った。
そうだった。
まあ、乗れるようになったのは嬉しかったし良しとしよう。でもあれは乗ってみたい。
人々の九割はライケル達と同じ種族。残りがよく分からない種類の人たち。違うと言っても大きな違いは無い。手足があり、主に手で作業するのは同じだ。大きさも似たようなもの。
お陰で私は目立たない。まあ、私もゴブリンの混合種だし。
そして見たことの無い食べ物。
料理は文化の違いだなと思う程度だが、お菓子はアメージング!
そこかしこにある道具は魔法も怪力も使わずに最適な作業が出来るものばかり。
物の考え方が根本から違う。同じような地面の上に生きているのにここまで文化レベルが違うのか!
婦人服店でマネキンに着せられてる服をまじまじ見る。凄い。
布と糸という文化にそこまで大きい差は無い筈なのに、出来上がった服が凄すぎる!立体的で機能的で美しく、カラフルでムラの無い染め。
そしてマネキンすら美しい!
服に思わず魅入る。
そんな私をライケルがぐいぐいと引っ張る!
もう少しここでうっとりしていたいのに!
連れてこられたのは闘技場?
試合会場をスタジアムが囲うのはどこも同じだ。
よく見ろ、面白いぞとライケルが囃し立てる。ケルマは『やれやれ』と付き合わされてるだけな印象。
そして歓声が上がり、祭りのような大騒ぎ!
ゴーレムのバトルだ!
凄い!
猫ほどの大きさのゴーレム。人型は無く、丸や四角や変な形のものばかり。
ガキーン!
ゴーン!バキッ!
キンキンキン!
キーン、ババン!
体当たりしたり、装備した武器で攻撃したり! 相手を吹っ飛ばしたり!
うぉーとか、がーとか、我を忘れて盛り上がってるライケルは駄目そうなので、ケルマに解説をしてもらった。
あのゴーレムは学生達二人~五人で作ったもので、会場の脇から操作しているのだそうだ。
大きさ、重量、素材、エネルギー量、動力量、製作工具に厳しいルールが有り、そのなかで知恵を絞って作るのだそうだ。
次から次へと対戦が進む。
見ていると、人型、動物型は居ない。強力そうな武器を着けたら本体がチープになって負けるものも。また、一発狙い、判定狙いと様々だ。そしてそのエネルギー源は荷台に載った私を20メートル引く程度の量だと?
凄すぎる!
私には解らないテクノロジーの数々を蒔き散らしながらするこの凄いゴーレムの対戦が、
学生の課題?
これが軍隊の武器になったら、どれだけ凄いものが出てくるの!
圧倒されるだけだった。
終わっては居ないが、会場を後にする私たち。
「懐かしいな。学生時代を思い出す」
「やはりケルマさんもやったんですね」
「ああ、随分昔の話だ。三回戦までだったがな」
「ライケルさんは?」
「いやあ」
「ライケル達は確か本番で動かなかったから、失格だったよな」
「忘れてろよ!」
魔界観光の一日目は終わった。




