フリー魔導師瑠美、魔界に
どうしてこうなった?
義務感と好奇心とで魔界に来たが、彼女は今項垂れながら野良仕事をしていた。
クロちゃんに載せられて魔界のライケルの家に来た。
田舎だ。
ライケルも、
「詳しくて正しい情報と知識なら、前魔王のケルマに聞くのがいいよ、ここに呼ぶからさ」
と、有難い対応。
ライケルはあまり頭が良くないらしい。見るからに大雑把な性格だし。
しかし、これが間違いだった。『こちらから行く』と言えば良かった。
まだケルマが来ないからということで、ライケルの手伝いをさせられている。
もう、三日目になる。
朝から、鶏の卵回収、大根の苗の間引き、草取り、昼の茄子の水やり。
卵も大根の苗も出荷のために箱詰めしなければならない。
そして今はゴブリンの餌やり。
まさか害魔と言われるゴブリンに餌やりする日が来ようとは・・・・
人間界では害魔とされるゴブリン。
女を襲うとか暴れながら食料強奪するとか言われてるが、本物のゴブリンは弱そうで猿にも負けそう。
現在ゴブリンは絶滅危惧種だそうだ。
裏山に住み着いてるゴブリンに定期的に餌をやるのだそうだ。野生生物に餌をやるのは良くないが、この近辺にゴブリンを定住させるために餌でつっていると。
「可愛いでしょ」
隣で餌台にゴブリンの餌を置きながらライケルが聞いてきた。
可愛いかなあ?
子供のゴブリンなら可愛いと言えなくもないが。
ゴブリンは私を怖がり、餌台に恐る恐る近づいては一つ取ってささっと後退りする。怖がられてる。
「いや、別に・・」
「へえ、そういうもんなんだ。まあ、ゴブリンも君達を怖がってるしね。先祖の記憶とかはもう無いんだね」
「先祖の記憶?」
「あれ? 知らないの? 君達の種族はゴブリンとの合成種の末裔だよ」
「!!」
「知らなかったの? 原始人がゴブリンを獣姦して出来た種族だよ。何千年も前の話だけど」
衝撃の内容だった!
我々にゴブリンの血が!
「ゴブリンに襲われたから・・」
「逆」
「逆?いやいやいや、そんなことは!」
「見てよ、その弱っちいゴブリンが人間襲えると思う? 原始人はきっともっとゴツかったし。お陰で絶滅のピンチだよ」
ゴブリンは確かに弱そうだ。
「いやしかし、ゴブリンはオスしか居ない筈。ゴブリンが人間を犯したのではないの?」
「あー、それはアレだ。なあ、人間がアレの代わりに使ったんだよ。それにゴブリンにもメスは居るよ。オスだけの種族なんて居ないから」
その後の話は人類の私を落ち込ませた。
野生のゴブリンは女王ゴブリンを大勢の働きゴブリン(オス)が支えるのだそうだ。まるで蟻だ。
本来なら1頭のメスを支えるオスは30頭にもなる。
不幸なことに女王ゴブリンは人間にとって『名器』の持ち主であり、野生のゴブリンは人間に狩尽くされた。メスは捕らわれ使い込まれ、オスは殆んど殺される。生きてるオスは希に『お土産』としてご婦人に渡された。飽きると殺されて庭に埋められた。
正規の生殖では無かったが、原始人とゴブリンの血は交ざった。いくつもの偶然と自然の神秘に依るものだった。
不幸なゴブリンの歴史。
だが、ゴブリンの血筋のお陰で、人間は『魔力』を蓄えられる体になった。
魔法を獲得したのはゴブリンのお陰である。
そして人間は栄え、ゴブリンは絶滅しかけ、野生本能の女王ゴブリンとハーレム形態も失われ、魔族から餌を貰わなければ生きていけないようになった。
今目の前居るゴブリンはメス一頭にオス二頭。これではメスを支えられないのだそうだ。メスはエネルギー消費が多いのだが、栄養が足りないのかなんなのか、死産ばかりで群れは大きくならない。一説では大勢のオスから精力と一緒に魔力を集め、胎児を育てているのでは? と、仮説が立てられているが、満足な群れが今現在存在しないので比較検証出来ないのだそうだ。
そして人間には、
『ゴブリンは殺せ』
という習慣が根付いている。
か、帰りたい・・・・
知りたくもない歴史を知った。
しかも、野良仕事の毎日。
新たな魔法技術も特にない。
「何か教えて」
と言ったら、
「君の方が凄いでしょ」
と、言われた・・・・
そうじゃない。
クロちゃんは帰ってしまった。クロちゃんは来週まで来ない。前魔王はまだ来ない。
「よおーし、境界一周パトロールしてから帰ろう」
ああ、また山一周か・・・・
帰りたい・・・・




