打ち上げパーティー
俺は厚志!
涼子と結婚する男だ!
今、碧邪魔学院の特設ダンジョンの後夜祭で飲んでる所だ!
サツキさんに色々後夜祭の為に働かされたが、今は楽々してる。
俺達は食材準備が仕事だ。片付けはしらん! どうせ調理も学生だし!
今、俺と優子とサツキさんと・・・・・・・耕平さんで飲んでいる。
それは何故か!
話は表彰式まで遡る。
それは突然だった!
「サツキ!ずっと好きだった。結婚しよう!」
耕平さんがステージ上でいきなり叫んだ!
下位から表彰されて、最後は当然優勝の耕平さん。耕平さんへの優勝者インタビュー。そこで突然のプロポーズ!
下には参加者や学生、教師。ステージ上はスタッフに学長に来賓に他の受賞者も。
会場は静まり返った!
『サツキ』はここに居る2位のサツキさんに違いない!
彼女に向いて問うたからな!
注目!
繰り返す!
ステージに注目!
問題は答えだ!
唖然とするサツキさん。
サツキさんの近況を知ってる俺は複雑だ。
優子もどうなるだろうと心配そうだ。
ステージ上で堂々と耕平さんに向かうサツキさん。逃げる様子は無い。
この人の心臓はどうなってんっだ?
「いきなりなんだ!」
「結婚してくれサツキ!」
「いきなりすぎるぞ!」
「僕はこの日を待っていた!」
「離婚したばかりだぞ私は!」
「それは俺にはチャンスだ!」
「子供が出来なかった女だぞ!」
「子供出来ないなら俺の愛はお前だけの物だ!」
「中古の年増だぞ!」
「だがお前の初めては俺とだ!俺の初めてもお前とだ!」
「痛かったぞあれは!」
「すまん!次は頑張る!」
「1度はお前を捨てた女だぞ!」
「愛してる!」
「お前馬鹿だろう!」
「愛してる!」
「だから・・・」
「愛してる!」
「だか・・・・」
「何度でも言う!愛してる!」
「結婚してくれサツキ!」
「負けたよ。大事にしろよ・・耕平」
遂に折れたサツキさんを耕平さんががっつり抱きしめる!
全体重を預けるサツキさん。
きたあ!
おおおおおおおおおおおお!
おおおおおおおおおおおお!
おおおおおおおおおおおお!
おおおおおおおおおおおお!
会場中が盛大に湧いた!
祭りは絶頂に達した!
とんでもないフィナーレだった!
てな事があったのだ。
いやあ、感動した!
サツキさんが女の顔してるの見れたし最高だった!
サツキさんは元々農家ではなく、食品問屋の娘だった。
問屋と言えば聞こえはいいが、運送屋の様なものだ。
親と一緒に各地の農村を回っていた。積み込みも子供ながら毎日手伝った。
旅の途中、害獣や盗賊と戦うのもしばしばだった。
サツキさんは人気の子だった。
仕入れ先の地の耕平さんとも仲良くなった。
耕平さんと恋仲になってたけれど、どうせサツキさんは短い恋だと思っていた。今までも移動ばかりですぐ去ってばかり。実際すぐに離れ離れになった。
だが、耕平さんは忘れなかった。いや、忘れられなかった。
年頃になりサツキさんは普通に結婚した。別に大手の問屋ではなかったから親の決めた結婚ではない。たまたまその頃仲が良かった相手を選んだだけだ。それが前の旦那。
サツキさんは耕平さんを嫌いになった訳じゃない。諦めが早かっただけだ。
付き合っていた頃は耕平さんの事を愛していた。最初を捧げたのも耕平さんだ。
だが、最初から長続きはしないと思っていた。学校も何回か変わったし、友達もすぐ離ればなれになる。問屋としても商売先が変わるのはいつものこと。
サツキさんは子供の頃から人間関係を諦める事に慣れてしまっていた。
だが、耕平さんは真逆の人間だった。
じっと待つ。
大地に生えるようにそこに居る。
別の村の男とサツキさんが結婚したと聞いた時は泣いたが、日々堅実に暮らしてサツキさんの幸せを祈った。たまに姿を見かけると胸が苦しかった。それは自分がまだ彼女を愛してる事を示していた。
そして運命は動いた。
サツキさんの正式な離婚。
遂に彼は動いた!
一度失ったものをもう一度掴む為に! ここで動かなければ後悔する! 以前、流されるままにして後悔した!
そして今日!
耕平さんはダンジョンで男としての力を示した!
彼の上には後は勇者しか居ない!
勇者さとるは勇者スキルで1位。
耕平さんは己の力だけで2位!しかもかなり近い!
そしてステージでのプロポーズ!
「耕平さん、師匠と呼ばせて下さい!」
英雄だ!
英雄が居る!
好きな人を諦めず、絶望的な状況でも諦めず、変態にも犯罪者にもならず、最後は己が愛を貫く!
「いやあ、僕はただの冴えない農家だよ」
「いえ!英雄です!」
俺は耕平さんの手を握りしめた!
これが英雄の手だ!
「いやあまあ良かったよ。女ひとりで生きて行くには辛いから婚活しようかなと思ってたんだ。丁度良かったよ!」
あははと笑うサツキさん。
さっきの感動返せ!
「ご婚約おめでとうございます」
はっと、声の方に向くと、
涼子が居た!
後ろにメイドと秘書を従える涼子。
何ヶ月振りかの涼子。随分上品になった。
衣装も豪華で手下もそれなりに立派だ。
そしてますます美しい!
「あ、ありがとうございます」
驚きながらも答える耕平さん。
「スキル無しで総合2位とは素晴らしいですわ。私も負けました。それ以上にさっきの告白は感動致しました。お二人の幸せを祈っております」
なんて優しいんだ涼子。
相変わらず良い女だぜ!
「結婚しよう!涼子!」
すぱあああああん!
俺の頭をハリセンで打ち抜いた涼子!
くぅ~キクぜ!
涼子はハリセンを逆手に持ち変えると、それは剣に姿を変えた! 形を変えられるのか、その剣スゲエ!
腰に納められる剣。鞘もスゲエかっこいい!
「厚志。売り上げが上がっていませんね。もっと頑張りなさい」
「わかった!だから結婚しよう涼子!」
再び
すぱああああああん!
「せめて売り上げあげるか、将来性を示してから言いなさい!」
「今日は俺に会いに来たんだろ!」
「表彰式の来賓として呼ばれただけです」
「素直になれよ、涼子!」
などと言い合いしていたら、小さな声がした。
「あ、あの。握手お願いします!」
優子がおずおずと涼子に頭を下げる。
営業スマイルで右手を出す涼子。
大喜びで両手で掴む優子。嬉しそうだ。
「あ、あの、宜しければ投資の秘訣を・・」
「貴方には向いていません。地道な預金をしなさい。田痛商事を見抜けないようでは無理です」
「え?」
「ではごきげんよう」
そう言って涼子は部下を引き連れて去って行った。
「・・・厚志、お前の幼馴染は変わってるな・・」
「雑念がない感じだな。あれが厚志君の幼馴染の涼子様か」
「え?田痛って、どういうこと?」
「優子、田通って?」
優子は薬草採取のあれこれを説明した。
俺も説明したかったが、うっかりメロンのメロンの事がバレるといけないので黙っていた。
静かに語るサツキさん。
「そうか。それなら多分田痛はヤバい会社だな。そもそも素人に薬草採取は無理だ。簡単に取れる薬草は価値が無いし、希少なものは品種を間違って製薬事故の元だ。恐らくは薬草採取を受けた冒険者を借金で食い物にするんだ。お前の採取した薬草のせいで損害が出たとか言ってな。そういうのはよく有る。多分厚志の関係者という事で優子は助かったんだろう。でなければ、優子は今頃は娼館行きだったな」
「俺と関係するとなんで助かるんだ?」
「簡単だ。厚志には涼子様の加護が付いている。優子を食い物にすれば間接的に勇者パーティーを敵に回すことになる」
「 ! 」
そうか!メロンは俺に頑に薬草採取をさせなかった。
そして優子の受け取りの後のメロンのあの行動。
メロンは田痛の真実を知っていた。
俺は涼子に守られていたのか・・・・
サツキさんが続ける。
「実家の仲間から聞いた噂だがな。涼子様は爵位と領土を断ったらしい。
最初は勇者と結婚するから無意味だと言われてたが、どうやら身分や待遇ではなく、債券と現金で受け取ってるらしい。それを涼子様は民間の投資に使っているらしい。現代、領土は自慢にはなるが面倒ごとばかりだ。涼子様は経済界ではもう相当大きな存在らしい。しかも勇者の婚約者だ、敵対出来る訳が無い」
「涼子様凄い!」
まんまと田痛に騙されそうになった優子がひれ伏してる。
そしてサツキさんと耕平さんの会話。
「しかしなあ。厚志君は涼子様に好かれてるよなあ。絶対会いに来ただろあれ」
「そうかしら」
「そうだよ絶対」
「幼馴染だからじゃ無い?」
「そうかも知れない。だけど嫌われてはいないって」
「厚志が面白い子だからじゃない?」
「それはありえる」
「おい!なんでもいいが、俺は涼子と結婚する男だ!」
「優子ーなんか言えよ!」
「私は2号でもいいですよ?でも、先の事はわかりませんからね」
「まあ、優子ちゃんの前にいい男が現れるかもしれないしね」
「厚志の2号はやめとけ優子」
「それは言えてる」
「そうですねー」
おまえら・・・・