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お爺さんと厚志

 部屋には、ベッドに座る厚志とお爺さん。それと窓際にクロちゃん。

 強い決意でお爺さんはここに来た。



 ここまで大変だった。


 お爺さんはクロちゃんと歩くが、歩みが遅くて大変だった。


 直子社長の工場まで来たが、怪しまれ、中に入れて貰うのに大変だった。


 入れて貰えたのはいいが、三階まで上がるのが大変だった。


 お爺さんは厚志の前まで来たが、人払いするのが大変だった。

 なにより直子社長を説得するのが大変だった。流石に初対面の老人と要警護者の厚志を二人っきりには出来ない。


 お爺さんのする話は当事者以外には聞かせられない。

 国にも勇者にも内緒なんだから。




「会えて嬉しいよ、厚志くん」

「どなたでしょう?」


「ああ、覚えていないか。冒険者たかしの事件の時にクイーンの味方をしたんだがのう」


 厚志は覚えていない。

 あの時老夫婦は屋根の上にいて、涼子にスキルの正しい使い方を授けたのだけれど、厚志は見ていなかった。それにクイーンって誰の事かわからない。涼子と優子のどちらかのような気がする。


 あの時二人とも戦った。

 最終的に冒険者たかしを倒したのは優子。


 厚志には『クイーン』は優子のことかと思えた。





「その、覚えてないです」


「ということは婆さんも見てないのか。屋根の上に居たんだけれども」


「ええと、居たような気もします。すいません、あんまり覚えてないです」


 厚志はあの時は傍観者してる場合ではなかった。

 最後に広場に行った時ににはそんなお婆さんは居なかったような。でも何処かで見たような。



「ふう。じゃあ、婆さんの話もしなければな」

「すいません」


「わしと婆さんはこの国の中で秘密の任務を請け負っていたのだよ。かれこれ50年もやったかのう。そして婆さんは死んだ。いやね、殺されたとかじゃない、歳だったんじゃよ」


「御愁傷様です。奥様だったんですか?」


「ああ、わしの妻じゃ。人には言えんがの」


 人には言えない?


「婆さんはわしの実の姉だったからの。わしらの親には最後まで言えんかった。それはまあいいんじゃ。わしらは『平和の守人』という任務を持っておった。この任務はもう200年も続いておる。わしらが何代めかはもうわからん」


「はあ」

 そういいつつも、姉弟の結婚というワードは厚志には少し刺激が強かった。


「さて。守人は男女一組でやるのだが、当然二人の信頼関係が重要じゃ。過去、恋人、夫婦、仲間とか色々の組み合わせが有ったらしい。わしらのような姉弟で夫婦というのはちと特殊だが。

 婆さんは死んで、婆さんの剣はもうクイーンが受け継いだ」


 そう言って、お爺さんは腰の剣を取って膝の上に乗せた。

 長くはない。

 なんとなく神聖な感じがして古めかしい。

 柄は木材ではなく、皮をきつくぐるぐる巻きにしている。そして柄の先端は金属が見える。そこもちょっと彫り細工がある。先端から柄の先まで一体型なのだろう。



「少し模様彫りが違うが婆さんの剣もこれと同じような剣じゃ。婆さんは跡継ぎとしてクイーンを指名してクイーンも受け入れた。クイーンには感謝しておる。そして厚志くんにもわしの剣を受け継いで欲しいと思っておる。今日はその話をしに来た」


「その、任務ってのがよくわかりません。何がなんだか」


「任務は殆んどない。わしらの時も殆んど無かった。人間には勇者と言うものが居る。人は忘れてしまったが、人間と魔族は和平を結んでおる。戦いはろくなことにならん。平和が一番じゃ。

 だが、勇者は我を忘れて暴れることもある。魔族に攻め混むかもしれん。それを止めるのがわしらの任務じゃ。魔族側にも同じように人間に攻め混まないように止める役割の者がおる。そして、この剣は対勇者の最終兵器『魔国の聖剣』なのじゃ」


 さすがに驚く厚志。

 勇者に対抗出来る剣。

 かつて教授が言っていたのはこの剣のことか?

 勇者の聖剣とは違う聖剣が存在すると。



「こ、この剣・・

 この剣は強いのですか?」

「無論」


「これがあれば勇者より強くなれるのですか?」

「それはわからん。剣は同格じゃ。だが、使い手の強さが何より必要じゃ」


「俺に?」

「そう思っとる」


 だが、厚志は悩む。

 使い手の強さ、それが無い。今の自分はこんな有り様。相手は勇者。


「ああ、それからこの剣を持つことは秘密にせねばならん。言い様によっては魔族の味方という風にも取れるし、目立てば色々不都合がある。クイーンが既に目立ってるから、余計こちらはひっそりしなければの」



 お爺さんの剣を見る。


 勇者さとるに立ち向かえる剣。今の信頼できない勇者を封じる事が出来る剣。勇者が蛮行に走ると何より涼子が心配だ。

 この間は涼子が戦った。

 だが、法のせいで涼子は罰せられるかもしれない。

 今、危うい立場にたたせられてると聞く。



「厚志くんに引き継いで欲しいとおもっておる。これは夫婦剣の片方だ。夫婦剣は仲良い男女で持つ。厚志くんとクイーンなら安心じゃ。今すぐという訳ではない。だが、多分そう遠くない」






 俺にはこれが必要。

 だが使い手の強さが必要。欲しい、でも!


「どうすれば強くなれますか!」



「あせるでない。強さはひとつではない。色んな強さがある。努力じゃ、どんな強さも努力が必要じゃ」


「努力すれば強くなれますか!」


「なれる。もし、なれなかったら頭を使いなさい。人間なんだから」


 さつきさんや耕平さんのような強い肉体があれば!

 でも無い。

 今からどこまで鍛えられるだろう? 足りない分を知恵でどこまで補えるだろう?

 それどころか、今の自分は怪我人。


 道程は遠い。


 でも。



「今日は帰るとしよう。もうすぐ、夜じゃ。

 期待しておる。君とクイーンならうまくいくよ」



 そういってお爺さんは部屋を出ていった。

 それを追うクロちゃん。


 下で直子社長と挨拶する声が小さく聞こえる。本当に帰るようだ。





 夫婦剣。

 夫婦で持つ剣。





 厚志はベッドで大きなため息をついた。

 もう片方の剣の持ち主・・・・

 剣は記憶に残ってる。

 確かに腰に下げていた。





 優子・・・・


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