魔法使い 対 魔法使い
男の手先に纏う赤い何か。
魔弾。
狂ってる!
こんな狭い所であの大きさ使うなんて!
男が手に作った赤い魔弾は胴回りよりでかい。それを左右。
ドオーーン!
瓦礫まみれで床に転がらされた!
バリアが間に合ったがギリギリだった。
丸ごと吹っ飛ばされて壁を突き破らされた、バリアのおかげで怪我はないが、呼吸が止まりかけた!
とんでもない威力。
ここは廊下? いや、隣の留置場の一室。 どうせここのドアも開かない。籠の鳥には変わらない。
きっと奴は解っててこっちに撃った。壁を破っても逃げられないと!
建物の事を判ってる、警官というのは本当のようだ。
「簡単に死ぬとは思って無い。やはり魔法が使えたか」
壁の穴越しにこちらに向く男は更なる赤い玉を両手に作る。
容赦ないな!
魔弾は形がないので大きな衝撃を与えるには、規模を大きくするか、固形物を絡めて使うかだ。石を混ぜて撃つのがいい例だ。男は魔弾のみで攻撃してくる燃費が悪い。だがそれは魔力が豊富に使える証拠だ。
「死ねやあああ!」
ドーン! ドーン!
ドーン! ドーン!
必死に避ける!
床を転がり、壁を叩き、横っ飛びに逃げる!
近すぎる!
狭すぎる!
半分は喰らう!
防御があるといっても、この近距離では衝撃が半端ない!
頭と体の芯だけは当たらないように必死に逃げる。気絶したら餌食だ!
間抜けな格好で動き回る。スカートでなくて良かった。
このままじゃマズい!
この部屋を出なければ死ぬ!
斬撃剣をグローブに変形させて、転がりながら両手に嵌める。
右は? 外か!
左は? 廊下だ!
左の壁を強化した手で突き破って転がり出る!
「待てやあ! ボケェ!」
立って廊下を駆ける。
端まで来たところで魔弾が来た!
慌ててそこから階段に飛び込む。階段は下りだ!
踊り場に着地して更に下に跳ぶ!
そこは警察署の1階フロア。
署員が一斉にこっちを向く。
こいつらは敵か味方か?
それとも・・・
階段を降りる足音が! 奴が来る!
フロアにある机に跳び上がり、走る。
「なんだ!」
「止まれ!」
「降りろ!」
署員が私に向かって声を上げるがそれどころじゃない!
「どこだ!」
奴の声がすると同時に机から飛び降り、身を低くする!
もう来たか!
ドゴーン!
すぐ脇の机が吹っ飛んだ!
見境なしか!
「うあああああ!」
「逃げろ!」
「やめろおおおお!」
署員が一斉に出入り口に殺到する!
警察官らしさがまるでない、ただの小市民じゃない。
ちっ!
そこに来たのはそういう奴で、逆らえない相手って、ことね。
机の影からでも赤い光が見える。
すぐ撃てるって事ね。
窓から外を見れば逃げた署員がビクつきながら中を見て居る。根性なし共!
床に転がってた何かの小箱を掴み横にぶん投げる!
投げられた小箱は数メートル先の壁で音を立てる。
カチャン!
きっと奴の注意はそっちに行く。
下から窓に向かって飛び込む!
ガシャン!
安っぽいガラスが割れ、外に跳び出す!
地面を前転しながら着地!
バン!
「ぐっ!」
撃たれた!
前からだ!
立ちそびれて地面にまた落ちる。
奴は後ろの筈。
「逃げんじゃねーよ」
「諦めろ」
ゆっくり上半身を起こせば、もう一人正面方向から魔弾を作って構えて居る。
その他に二人剣を構えている。
そして後ろから、
「大人しくしてろよ、ドブス」
さっきの奴。
この野郎!
必死に立ち、真横に走る!
挟まれるのはマズい!
「逃げんじゃねえ!」
ドオン! ドオン!
ドン! ドン!
走ってるところを二人の魔法使いに撃たれる!
「ぐがぁ!」
どさっ。
はあはあはあ。
はあはあはあ。
4人も冒険者がいやがった。
警察官はあんなに居るのに見てるだけ。
はあはあはあ。
息を整えよう・・・
「ぐ、ぐう、お前ら種部運送か!」
4人揃って歩いて来る。
勝った顔しやがって。
「種部運送じゃない。まあ克也の用心棒だがな。ああ、こいつは種部の者だ」
剣を持った奴を指差す。
混合チームってことか。
「クズ供め」
「うるせえブス」
「警察のフリなんてしやがって」
「仕事だよ仕事。だ〜いじな仕事。仕事なら殺しだって種まきだってするぜ」
『種まき』
当然、農業の事ではない。
弱い村を集団で襲い、邪魔する男を殺し、女を片っ端から犯す。
それが『種まき』
男が殺されて減ると村の経済力が落ち、集団強姦後は子供ばかり生まれる。弱った村では子供を育てきれない。そもそも冒険者の子。
これが数年後の人身売買の為の苗になる。
「・・・・会津にも行ったの?」
「おうよ。二回行ったぜ」
小さな島の会津国はいつもギルドに狙われた。
冒険者は国境も超える、欲のために。
「・・・・それだけ聞けば充分よ」
私はゆっくり立つ。
それを見る4人。
全身に高気密のバリアーを張る。
半透明の卵のよう。
さっきの野郎が魔弾を撃って来る。
ドゴンドゴン!と当たるがそんな程度で破れるもんか。
コイツら絶対に許さない!
両手を広げ、更にバリアを強化、大型化する!
どんどんでかくなり、部屋ほどの大きさになる。
4人が立ち止まり、顔を引きつらせる。見たことの無い巨大なバリア、いや『魔法の檻』に恐怖する。
「逃げっ!」
そう行って4人は逃げ出した!
「逃すか!」
『丸い檻』を奴らに投げる!
ヴォン!
変な音とともに檻が飛ぶ。
檻はそのまま4人を飲み込んで少し転がる。
入ったら二度と出られない、私の檻。
止まった檻の前に歩きよる。
中では奴らが必死に刃物でバリアを切ろうとしたり、魔弾を撃ったりして必死だ。
聖剣でもない限り切れはしないし、爆破は中からは出来ない、自殺行為だ。
「馬鹿じゃ無いの? そんな狭いところで魔弾撃って」
小規模の爆破を魔弾で試みてるようだ。
相当、中の温度が上がったに違いない。
ついでに、それは空気も通さない。そういう風に作った。
このまま行けば窒息死。それもアリだ。
「頼む、出してくれ!」
「すまん! 謝る! 弁償もする!」
「見逃してやるから! 黙ってるから!」
「かね、金を!」
「今更なに言ってるの。散々人を食い物にしてたのに自分たちは助かりたいの?」
「すまない! 謝る、謝るから!」
「悪かった! 俺たちが悪かった。反省してる!」
「もうしないから、絶対しないから!」
「罪を償うから許してくれ!」
「無理ね」
私は檻の中に魔弾を一つ作った。
それを見つけて大声で叫ぶ4人。
必死にもがく4人。
パン!
檻の中が血に染まって赤色以外見えなくなった。
スタスタと歩く。
呆然としている警察署員を前にする。7人か。
いい大人が動けずにいる。
「私の剣が2本ある筈だけど?」
静まっていたが、一人がもう一人の胸を小突いた。
小突かれた男は裏返った声で答えた。
「は、はい! 持って来ます!」
彼は間抜けな歩みで所内に行った。
そして剣を2本持って戻って来る。行きよりは足がもつれてない。
私の手に姫剣と斬撃剣が返って来た。
「確かに」
さっきの4人がギルド側の人間だろう。警察官になって中から警察署を掌握していたのだろう。そうして警察はギルドに逆らえないようになっていた。
ここにる警察官は無実だろう。
だけど、気に入らない。
憎むのは間違っているが、気に入らない。
そうか、もう止まれないんだ。
「一番偉い人は誰? 話をしましょう」
もう、止まれない。




