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種部運送本社 克也社長

「約束が違う!」







 俺は総一朗。

 小さな運送業を営んでいる。

 先日、荷物に損害があったと荷主に責められ、言い掛かりで借金を負わされた。借金のカタだと妻と娘が種部運送に囚われた。返してほしくば金を持ってこいととんでもない金額を要求された。


 仕事に関する一切を現金化して、まだ足りないので借金もして金を用意したが・・





「あんまり遅いんで、女は売り飛ばしたよ。その金は賠償金として置いていけ」



 佐渡国に元ギルドの会社があると噂に聞いていたが、種部運送だった。

 充分注意していたのに・・・・



「ああ、お前の娘は中々()()が良かったぞ。礼を言う」



「!!」


 その言葉に我を忘れ目の前の種部運送社長に殴りかかった! 素手だ。剣も棒も無い、金目のものは全て売ったから。



 ドスッ!

「ぐえっ!」



 背後から打たれた!

 床に倒れると数人の男に殴る蹴るされる!

 くそぅ!

 やめろ!

 目の前に座る腐れ社長を倒して家族を取り戻すんだ!

 だが、俺は容赦なく蹴られて、反撃どころか立つことすら出来ず、力よりも痛みが上回り、怨みと憎しみが絶望に塗り替えられていく・・・・



 俺を楽しそうに蹴る男が上から喋る。

「いい嫁さんだな。あんまりいいんで3日連続でヤったぞ。後はセリで幾らの値段がつくかだけだな」


 今何と言った!

 踏まれたせいで潰れて拳が作れない右手で男を殴りにかかる!

 その俺を余裕で蹴り飛ばす男。





 ちくしょう・・・・

 もう動けねえ・・・・

 許してくれ・・・・

 妻と娘を思い懺悔すると、悪い想像ばかり頭に浮かんで死にたくなる。

 いや、死ぬんだきっと。

 奴等が生かしておく訳が無い。


 なんて最低な死・・・・

 意識と一緒に生への執着が消えていく・・








 ギイイィー


 ドアが開く音。

 男女の声。


「アレが種部の社長か」

「へ、へい」


 誰だ?

 若い女の声。知り合いではない。男の声も知らない声だ。


「誰だテメエ」


 これは社長の声だ。

 女と知り合いではない?


「今朝、お前んところに仕事取られそうになった船の者だ。ついでに私も犯されそうになったし、金も取られそうになったんで、お礼参りだ」


「船?」

 社長はなにやら考えている。船がらみの心当たりと、社員達(チンピラ)を潜り抜けてくる存在を考えてる?


「克也・・・・で、あってるかしら? 社長さん」


「どうして俺の名を?」



「やっぱり。何が種部運送よ、元山賊ギルドじゃない」


「ほう? お嬢さん、口のききかたがなってないな。まあいい、生意気女にはお仕置きだ」



 もう二つのドアが開き、大勢の男が現れる。

 あの女は強いのかも知れないが、いくらなんでもこの数はマズい。



「汚い男がうじゃうじゃと。あ、貴方は約束通り右手で勘弁してあげる」


 そう言った直後、女は一緒に来た男の右手を切り落とした!

 それは一瞬!

 腰に手をかけたと思った次の瞬間には男の右手が床に落ちていた。


 必死に右手の切り口を押さえる男を、女がドアに向かって蹴り飛ばす!



「殺せえええええ!」



 社長の怒号で豪華で広い部屋が戦場になる!

 薄く開く瞼越しに見る世界は信じられないものだった。

 たった一人の女が切れ目なく襲いかかる強そうな男どもを次々と切り伏せる!

 手加減が全くなく、どんどん床が血だまりになる。

 小柄な女がたった一本の剣で流れるように身体を進めて男どもを斬りまくる。身体能力が尋常じゃない! 天井も彼女にとっては床だ。


 ちょっと、ここはマズい。

 俺はずりずりと部屋の端に移動して半身を壁に起こす。

 そうしたら更に地獄絵図が見える。地獄?

 地獄ってなんだっけ?

 憎いこいつらが惨殺される様は俺にとって天国?

 いや、もう手遅れだったんだ・・・・妻と娘はもう・・



 戦場は廊下、他の部屋、庭と移動してるのが音で判る。


 この部屋に何故か無傷で残された社長。

 俺に聞いてくる。


「あれは一体なんなんだ」


「知らねえよ・・」


 俺はお前の部下でも仲間でもねえ。知ってたって答える義理はねえ。



 建物中が静かになる。

 うめき声も聞こえない。





 カツカツカツ。




 廊下を歩く音。

 そしてドアに現れる。


 血の池に帰って来た女。

 だが、彼女だけは汚れていない。


 座ったまま動けない社長。

 何をしても勝てないとわかりきってる。


「貴方、誰?」


 不意に俺に聞いてきた。

 なんだ、知らないのか。

 そりゃそうだ。初対面だしな。自分の仕事がどうのとか言ってたっけ。俺にとっては救世主みたいな現れ方だが、俺の為に来たわけじゃなかったしな。



「その男に返り討ちになった男だよ。仕事も家族も全て奪われた」


 彼女は暫く俺を見て、社長に向き直る。


「家族って?」

「妻と娘だ」



「どうなったの?」

「散々おもちゃにされて売られた」


「生きてるの?」

「多分・・」


 彼女は下げていた剣をあげ、社長に向かって突きつけた。

「どこ?」


 社長は胸をはった。強気にでて来やがった!

 くそう、人質として交渉するつもりか!


「簡単に渡すと思うな! 俺の身の安全と引き換えだ!」


「交渉できる立場?」


 彼女の持っている剣がするすると伸びる。二メートル以上ある。


 魔剣?


 社長の肩に剣が刺さる!

 まだほんの少し。

 服から血が滲み始める。

 ひきつる社長。


「どこ?」


 答えない。


 ザグッ!

 剣が伸びた!

「うがあああああ!」



「どこ?」


 この女容赦無い。




「奴隷倉庫だ!奴隷倉庫に居る!」



 !!

 生きてる!

 まだ手の届く距離だ!

 奴隷は売られたら最後。販売履歴はすぐ消される。

 自力では戻れないほど遠くに売られる。追いかけるほうも探すことは不可能に近い。




 ああ、神様・・






 ーーーーーーーー




 高崎王国の隣国の佐渡国。


 その日、佐渡国最大の裏ギルドが壊滅した。

 相手はたった一人の女。


 血だまりに沈んだ種部運送社員、いやギルド員は40人にも登った。

 その後、更に10人程が逮捕され、20人程が住民に惨殺された。復讐されたのだ。

 種部運送(裏ギルド)は普段から略奪と婦女誘拐を繰り返した。だが、強大な力で警察すら手を出せずにいた。この街では警官の家族の死亡率が異常に高かった。

 倉庫からは盗品、強奪品に加え、29人の奴隷が解放された。その29人は見つかっただけ運が良い。売られた者は戻って来ないのだから。この数十年に売られた人数は計り知れない。そして記録は残っていない。


 町の発展でギルドと冒険者が少なくなったとはいえ、完全に居なくなった訳ではない。彼らは、『ギルド』から『会社』に名前を変えて今でも非合法活動を続けている。

 高崎王国と佐渡国で大手ギルドが壊滅したが、まだそれはほんの一部。





 ギルドを潰した女。


 東の小さな島『会津国』、そこにかつて有ったギルドのギルド長の末娘、名前は優子という。

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