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うちの荷物だけど?

 顔では平静を装ってるだろうが、内心は猛吹雪の涼子にカツを入れておいた。




『返事は!』


『は、はい!』


『押しきられて婚約なんかしたら殺すからね』


『肝に命じます!』



 王宮の近所から涼子を脳内ごしで怒鳴る。

 合わなくても会話ができるので、涼子は軟禁されていても、外と連絡ができる。

 ただし、私を通してだ。


 色々あって弱気になるのは解るけれど、王との婚約なんて認めない!

 他の国の男ともだ!


 厚志を悲しませるような事は許さない。厚志は田舎に帰るなんて弱気になっているが、涼子を愛していることは変わりがない。


 厚志を悲しませるなら本当に殺すからね?


 涼子は財団職員や臣下の処遇のことを気にして、王に婚姻を押しきられそうになるかもしれない。

 私にとっては重要なのは厚志だけ。他は二の次三の次だ。殺すと言ったのは脅しではない。





 ーーーーーーーー





 今、佐渡国の港。

 佐渡国と高崎王国は地続きだから、貨物船の仕事としては報酬が安い。商売敵は陸路の商人。



 勿論、トラブルが起きるとしたら陸路の商人相手が殆んど。


 今回、まさにそうだ。





「あんたが船長か?」


「いえ、船主で高崎国西港海運の代表よ」


 目の前のゴツい中年男は私を見てつけあがる。簡単に押し切れるただの小娘と踏んだのだろう。親の威厳を借りた二代目とでも思ってるのだろう。この見た目じゃ仕方ないけど。



「悪いが、この荷物は我々に任せてもらおう。荷主は別に構わないと言っている」


 これは本当だろう。

 この季節、早い筈の海路も風向きでそれほど早くはない。運賃としては値段は少しこちらが高い。陸路でもいいかな?と思うのは当然だ。しかしやはり、海路の方が早い。

 荷物の到着を待っている者は早ければ早いほど嬉しい。だが、出荷側としては出してしまえば気にならない。

 この荷物だが、佐渡国から高崎国は遠いので、運送屋が一旦買い取るという方法を取る。

 この世界では運送業は問屋業を兼ねるのがほとんどだ。

 運ぶ途中で荷を失うようなトラブルが起きても、その場合は運送屋の損になる。

 それは陸路で仕事してるさつきさんのお父さんも同じだ。問屋だが運送屋。


 私達貨物船業は純粋に運賃だけの仕事のこともあるが、それは近距離〜中距離で発送側と荷受側が同じ会社や人間の時が殆ど。それは雇われ人夫と同じで儲けが少ない。


 荷受は高崎国の業者。彼らは早い配達が望みだ。だから我々(ふなのり)に依頼が来た。

 それを佐渡国の業者が変えようとしている。

 私は高崎王国民。

 当然、受け取り側の味方。



「譲れません。当初の依頼通り進めます」


「お分かりになってない。帰れと言ってるんだ」


「嫌です」


「帰れ!」



 滅茶苦茶な男だ。

 流しでの営業じゃない。事前の商談で取り決めをしたのを無視しやがった。

 大型船を空荷で行かせる訳にはいかない。西港に戻ってからの陸路の業者も待ってる。輸入審査予約も買った。輸入審査の費用はキャンセルしても殆んど返ってこない。


 冗談じゃない!



 そこに気の弱そうな・・いや、事に無関心そうな目の死んだ男が来る。

 確か荷物発送の商談で見た。出荷担当か荷主のどちらかだろう。


「種部運送さん、決まりましたか?」


「いや、この小娘が強情でな」


「なんでもいいが、早く出荷してしまいたいのだが」


 だったら、海路なのに!

 このおっさん!



「早く決めてくれんか」


 私は言った荷主を睨む。

 種部運送の男も荷主をめんどくさそうに見る。


 種部運送の男にしてみれば仕事の強奪がすんなり行かなくて意外だったのかもしれない。

『話し合い』には種部運送はいかにも強そうでガラの悪い男をぞろぞろと並べた。

 恐らくは毎日倉庫に現れる運送業者を見ながら、弱そうな奴を見つけては仕事の強奪をしているのだろう。

 あくまで荷主には手を出さない。

 そして、ヤバそうな奴をゾロゾロ揃えた種部運送が私たちの前に仕事の強奪に現れたわけだ。

 こちらは武男さんと私だけ。

 傍目でみれば弱いのは私たち。

 武男さんは強い。傍目にも逆三角形の筋肉でスキンヘッドで如何にもって感じ。

 だけれども、小娘を連れているとなれば話は別だ。弱点を晒しながら歩いているようなものになる。


 弱点?

 私だよ。



 種部運送の一番ワルそうな奴がこう言った。


「倉庫まで歩きながら話そうじゃないか」





 やっぱりだよ。





 倉庫街の荷主の支所を出た私達はゾロゾロと歩く。

 私達は二人。

 種部運送側はさっきまで6人程だったのに、今は二十人も居る。

 荷主はさっきの人が一人。




 露骨すぎだろう・・・





「荷主についていて」

 私は小声で武男さんに言った。

 目で分かったと返す武男さん。




 しばらく行くと、種部運送の男が止まった。


「お嬢さん。代わりの仕事を紹介しよう。

 なあに、簡単さ。今から我々全員を接待してくれればいい。これも営業の一貫だよ」



 種部運送の男どもが私を丸く囲む。

 下衆な顔に囲まれる気分は最悪だ。

 何をこれからしてくるのか隠そうともしない。

 既に卑猥な言葉責めは始まって居る。畜生供が!

『胸が無えな!』という言葉も混じってたが。


 そのうち2人は通り両端に向かった。通行人よけの見張りか。

 あの程度でコトを隠せるということは、こいつらこの辺り一帯では種部運送に逆らえる者がいない証拠だ。



 種部運送の一番ワルそうな奴が武男さんに向かって大声を出す。


「そこの男! 商品の為の金が有るはずだ! 今直ぐ取ってこい! そしたら嬢ちゃん返してやる!

 早い方がいいぞう」


 どこまでも下衆な奴だ。

 手をつけないとは言わない。

 直ぐ返すとも言わない。


 武男さんは動かない、あくまで荷主につく。それでいい。

 こいつらどう見ても冒険者だな。




「種部運送って、ギルド?」




「人聞きの悪い言い方はやめてもらおう。会社だよ」





 そういったあと、四方から男供が飛びかかって来た。




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